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『ピーター・ドイグ展』で出会う、 はじめてなのに覚えている光景。

STORYデジタリストのナカバヤシです。

いま、世界で最も重要なアーティストのひとりとされるピーター・ドイグ(61歳)。
待望の日本初個展となる『ピーター・ドイグ展』が、東京国立近代美術館で開催中です。

《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》 2000-02年、油彩・キャンバス、196×296cm、シカゴ美術館 ©Peter Doig. The Art Institute of Chicago, Gift of Nancy Lauter McDougal and Alfred L. McDougal, 2003. 433. All rights reserved, DACS & JASPAR 2020 C3120

本展のメインビジュアルにもなっているこの作品。実際その前に立ってみると、写真やネット画像では決して味わうことのできない、圧倒されるほどの絵画空間・・!
いつかみた夢のような、だれかの夢に迷いこんでしまったような、夢うつつの光景。知らないはずなのに、覚えている——そんな不思議な感覚が呼び起こされます。

スコットランドで生まれ、カリブ海に浮かぶトリニダード・トバゴそれからカナダで育ち、ロンドンでアートを学んだドイグ。多様な文化環境を土壌とする彼が描く作品は、映画的な奥行きと余韻に満ちていて、表現メディアとしての絵画の潜在力に新たにハッとさせられることもしばしば。

《のまれる》 1990年、油彩・キャンバス、197×241cm、ヤゲオ財団コレクション、台湾

こちらは2015年のクリスティーズ・オークションで約2600万米ドル(当時の約30億円!)で落札された作品。
幻想的で静謐、と同時にどこか奇妙で不穏な雰囲気をはらんだドイグの世界に、まさにのまれてしまいそう・・!

絵具の扱いかたも強烈で、ひとつの作品のなかにもいろいろなタッチが混在。
近づくことでわかるものもあれば、距離をとることで見えてくるものもあり、さらっと見つくせるような絵は1枚もありません。
出品作の多くが大型作品ゆえ、ぐっと寄ってみたり、ちょっと離れてみたり、うんと引きで見てみたり。
(人数制限があるとはいえ、まわりの人にぶつからないようくれぐれもお気をつけください!)

《天の川》 1989~90年、油彩・キャンバス、152×204cm、作家蔵 ©Peter Doig. Collection of the Artist. All rights reserved, DACS & JASPAR 2020 C3120

美しい夜空にうっとり・・していると、静かな水面に映る景色は実像よりも明瞭で、ふとよぎる違和感。湖にぽつんと浮かぶカヌーには、人影らしきものが。
このカヌーは映画『13日の金曜日』のラストシーンに由来したもの。悪夢が終わりやっと訪れた平和な世界・・の直後に襲いくる、驚愕のクライマックス。その予感のような、どこか気がかりな空気が漂う作品です。
モチーフの反復もドイグの特徴のひとつで、カヌーは上記3作品以外でも繰り返し描かれています。

想像のみで描くことはなく、映画、広告、写真、ムンクにマティスら過去の巨匠たちの名作を参照にするというドイグ。そこに自身の記憶や経験など様々なイメージを組み合わせてうまれる神秘的な風景は、鑑賞者それぞれの内にひそむ個人的な心象風景と共鳴しては溶け合って、ざわざわと心のひだに触れるよう。

《ラペイルーズの壁》 2004年、油彩・キャンバス、200×250.5cm、ニューヨーク近代美術館 ©Peter Doig. Museum of Modern Art, New York. Gift of Anna Marie and Robert F. Shapiro in honor of Kynaston McShine, 2004. All rights reserved, DACS & JASPAR 2020 C3120

40代になるとドイグは幼年期を過ごしたトリニダード・トバゴに移住。
厚塗りで存在感のあった絵具は軽やかな薄塗りへ、画を構成する内容もどんどん簡素化されていきます。

墓地の壁沿いを歩く、ボロボロの日傘をさした男。これはトリニダードの首都ポート・オブ・スペインでドイグ自身が撮った写真をもとにしています。
小津安二郎の映画『東京物語』における‟計算された静けさ”も意識したそうで、カリブの明るい空の下、ゆっくりと長い帰路を行くような、どことなく人生の侘しさと趣きを感じる作品です。

「ピーター・ドイグ展」会場風景 Photo: Kioku Keizo

ドイグの描く人物は、足が消えかかっていたり体が透けていたり、妖しいものが多いのも印象的。(半裸のおっさん、というのもドイグ作品にしょっちゅう登場するモチーフです。)

定規でひいたような四角の反復もこの時期の作品にみられる特徴で、それが展示室天井の格子とも相まって、視覚的にも体感的にも独特な広がりと行き止まりを感じる空間になっています。

《ポート・オブ・スペインの雨(ホワイトオーク)》 2015年、水性塗料・麻、301×352cm、作家蔵 ©Peter Doig. Collection of the Artist. All rights reserved, DACS & JASPAR 2020 C3120

幅3メートルを超える、今回いちばん大きな作品がこちら。
黄色い建物は植民地時代につくられた監獄で、扉の向こうには人影が。自由に街を徘徊するライオンはところどころ残像のようにだぶっていて、歩いてくる人物(看守?)は残像というよりもはや幽霊のよう。脇の道は波止場へと続き・・
ひとつの気がかりにフォーカスしているうちに、焦点はまた別の気がかりへと移行し、没入しているのか俯瞰しているのか自分でもよくわからなくなる距離感。

ライオンはカリブ諸国におけるラスタファリ運動(黒人の地位向上を目指す運動)の象徴でもあり、トリニダード・トバゴの植民地としての長い歴史に対するドイグの視線もかさなる作品です。

最後は「スタジオフィルムクラブ」のコーナーです。
ロンドンでは名画座やミニシアターに通っていたドイグですが、トリニダードにはそういったジャンルの映画を見る場所がどこにもなかったことから、だれでも無料で参加できる映画上映会を自身のスタジオで毎週開催することに。
このドローイングは上映会を近隣住民に知らせるために描かれたポスターです。

ミニシアターの廊下のような雰囲気に、なんともワクワク♡
にしても、なかなかにクセの強い作品ぞろいで・・知人の家に遊びに行ってこれらのDVDがずらーっと並んでいたら、わりとギョッとするラインナップです。いい意味で。

スタジオフィルムクラブを抜けたら、目移りしまくりのグッズ売り場へ!と言いたいところですがその前に、最低でも2巡は必須であろうピーター・ドイグ展。静かな高揚にひたりつつ、最初からじっくり見直したくなること間違いなしですので、時間には余裕をもって来場されることを強くオススメいたします。

公式サイトでは展覧会風景を体感できるVRを公開中です。
予習をしてから臨んでも、予想もしなかった衝撃に震える。丸腰で向かっても、ただただ自由に楽しめる。
アートって、なんかおもしろい!を、ひたすら体感できるピーター・ドイグ展。
めくるめく感覚の洪水に溺れるドイグ体験、皆さんもぜひ!!

 

【 展覧会情報 】
『ピーター・ドイグ展』
会期:開催中~2020年10月11日(日)
会場:東京国立近代美術館 1階 企画展ギャラリー
開館時間:10:00〜17:00 ※8/1(土)以降、金・土曜10:00~20:00 ※入館は閉館30分前まで
休館日:毎週月曜日(ただし8月10日、9月21日は開館)、8月11日、9月23日
展覧会公式サイト ↓
https://peterdoig-2020.jp

中林直美
FROM中林直美 渋谷の映画館でもぎりをしつつミニシアターブームに傾倒した学生時代。大学卒業後は大手映画会社で約10年勤務。映画と旅が好き。 https://www.instagram.com/naomi_nm_/
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