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「ゲルハルト・リヒター展」に思う、「見る」とはいったいなんぞや!?

東京国立近代美術館では現在、今年90歳を迎えた現代アートの巨匠、ゲルハルト・リヒターの大規模個展が開催中です。
リヒター自身が考案した展示プランをもとに構成し、展示作品のほとんどが彼の手元で大切に保管されてきたものだという特別な展覧会。どうにも難解な印象のあるリヒターにいくぶん気後れしつつ、いざ会場へ。

  • 《ビルケナウ》2014年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 《ビルケナウ》2014年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 《ビルケナウ(写真ヴァージョン)》2015~2019年 © Gerhard Richter 2022(07062022)

注目はなんといっても日本初公開となる《ビルケナウ》。4点の巨大な抽象画からなる本作が散逸するのを防ぐためにゲルハルト・リヒター財団が設立されたという、財団の核となる作品です。

ビルケナウとは、アウシュヴィッツ第2強制収容所が建設されたブジェジンガ村のドイツ語名。
絵の最下層には強制収容所で隠し撮りされた4枚の写真(この写真も同空間に展示)の模写が描かれているのですが、その痕跡は上から塗りつぶした絵の具によってすっかり消されてしまっています。
作品の向かいの壁にはこの絵を撮影した同サイズの写真4点が、横の壁にはこれらすべてが映り込む巨大な灰色の鏡が配置。象徴的な作品タイトルのもと、ひとつのイメージが絵画・写真・鏡という異なる媒体によって反復される空間は、繰り返す負の歴史──今まさに起きている戦争を示唆しているかのよう。

  • 《モーターボート (第1ヴァージョン)》1965年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 《8人の女性見習看護師(写真ヴァージョン)》1966/1971年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 《ルディ叔父さん》2000年 © Gerhard Richter 2022(07062022)

1932年にドイツ東部で生まれ、ベルリンの壁が築かれる直前の1961年に西ドイツへと移住したリヒターは、それまでの壁画家としてのキャリアを捨てもっと自由で新しい表現を模索していきます。

リヒターの具象画の代名詞「フォト・ペインティング」は、雑誌の切り抜きやスナップ写真をぼかして模写した作品。写真や映像が氾濫するなか、絵画を否定するような描き方によってかえって絵画の可能性を際立たせる、リヒターの新たな出発点といえるシリーズです。

さらにリヒターは、フォト・ペインティングを撮影した写真作品「フォト・エディション」をたびたび制作。写真を絵にして、その絵をまた写真に撮って──イメージの反復によって、新たなものの見方・見え方を探求する姿がここでも。

  • 《8枚のガラス》2012年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 《8枚のガラス》2012年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 《8枚のガラス》2012年 © Gerhard Richter 2022(07062022)

8枚のガラスが様々な角度で組み合わされたこちらの作品。
そこに映り込む映像は見る人の立ち位置とともに変化して、乱反射しながら幾重にも重なります。まるで異空間への入口のような、実像と虚像とが混ざり合う神秘的な光景は、見ていて飽きることがありません。

多種多様な作品スタイルを持ちながら、一貫して「見る」という行為を考察し続けてきたリヒター。見る人それぞれの経験や記憶、固定観念、認知バイアスなどが複雑に絡み合うなかで、はたしてその目に映るものが真実だと言い切れるのか──そんな問いを投げかけられているような気がします。

  • 左:《モーリッツ》2000/2001/2019年、右:《エラ》2007年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 左:《トルソ》1997年、右:《水浴者(小)》1994年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 《ヴァルトハウス》2004年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 左:《頭蓋骨》1983年、右:《花》1992年 © Gerhard Richter 2022(07062022)

私のいちばんのお気に入りは、家族の肖像画や古典的ともいえる風景画が並ぶこちらのコーナー。
特に息子モーリッツと娘エラの肖像画は、実験的でありながらもどこか親密なまなざしが感じられて、他の作品にはない、リヒターの視線そのものにふれているような感覚を覚えます。

家族で滞在した森の中のホテルを描いた《ヴァルトハウス》は、リヒターが好きだという19世紀ドイツ・ロマン主義の風景画家、カスパー・ダヴィト・フリードリヒの影響も垣間見える作品です。

  • 《アブストラクト・ペインティング》 2017年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 《アブストラクト・ペインティング》 左:2017年、右:2016年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 《アブストラクト・ペインティング》2016年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 《アブストラクト・ペインティング》2000年 © Gerhard Richter 2022(07062022)

リヒターの抽象画の代名詞といえば「アブストラクト・ペインティング」。長いスキージ(へら)で絵の具を引きずったり削り取ったりを繰り返すことで生まれるシリーズです。《ビルケナウ》以降はキッチンナイフも用いられ、より細やかな表現が目立ちます。
画像1枚目、2017年制作の《アブストラクト・ペインティング》を最後にリヒターは絵画制作の終了を宣言。こちらも見逃せない作品です。

偶然性にまかせた抽象画とはいえ、スキージを動かすのも最終的にこれで完成と見極めるのも作家自身なわけで、やはりどうしたってその主観性から逃れることはできないのではないか。偶然によって立ちあらわれる必然、そこで見えてくる潜在意識や集合的無意識というものがあるのだろうか──たくさんの「?」がぐるぐるする、そのわからなさが難しくもあり、面白くもあり。うーん、これぞ現代アートって感じ!

  • 《4900の色彩》2007年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 《グレイ》1973年 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 《ストリップ》2013~2016年 © Gerhard Richter 2022(07062022)

《4900の色彩》は約50cm四方のパネル196枚を組み合わせた作品で、空間にあわせて11通りの展示方法があるのだそう。今回の3日間にわたる展示作業は公開中のタイムラプス映像で見ることができます。
この作品の対極にあるような《グレイ》──絵具は全色を混ぜ合わせると灰色になる──も同空間に展示されていて、その対比も興味深く。

ほかにも、1990年に制作された1枚のアブストラクト・ペインティングをスキャンしたデータがもとになっている(そのプロセスは複雑すぎて私には説明すらできない・・)縦2m×横10mの大作《ストリップ》や、写真に油絵具をたらした「オイル・オン・フォト」シリーズ、ガラス板にラッカー塗料を転写した「アラジン」など、絵画に何ができるのか?に挑戦し続けるリヒターをいろんな角度からとらえることができます。

  • ドローイング作品展示風景 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • ドローイング作品展示風景 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • ドローイング作品展示風景 © Gerhard Richter 2022(07062022)
  • 《9月》2009年 © Gerhard Richter 2022(07062022)

絵画は終了宣言したものの、ドローイングは現在も精力的に描いているというリヒター。最後の空間には2021年に描かれた新作のドローイング作品がまとめて展示されていて、御年90歳にして衰えることのない創作意欲に改めて脱帽・・!

私がリヒターをちゃんと認識したのは、おととし日本でも劇場公開された映画『ある画家の数奇な運命』を観てから(完成作品にリヒターは激怒したようですが・・)。
リヒター初心者の私としては、この夏訪れたポーラ美術館国立西洋美術館で彼の作品と向き合い新たな視点を持てたことが、今回の個展を鑑賞するにあたってとてもよい体験となりました。

東京国立近代美術館ではさらに、同時開催中の収蔵作品展「MOMATコレクション」でも同館が収蔵するリヒター作品をまとめて展示中です。「ゲルハルト・リヒター展」のチケットで当日に限り入場無料で観覧できますので、こちらもどうぞお忘れなく!!

 

【 展覧会情報 】
ゲルハルト・リヒター展
会期:開催中~2022年10月2日(日)
会場:東京国立近代美術館
開館時間:10:00-17:00(金・土曜は10:00-20:00)※入館は閉館30分前まで
※ただし、9月25日(日)〜10月1日(土)は10:00-20:00で開館します。
休館日:月曜日[ただし9月19日、9月26日は開館]、9月27日(火)
※最新情報は展覧会ホームページでご確認ください。
※巡回情報:2022年10月15日(土)~2023年1月29日(日)豊田市美術館

 

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