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映画『 私、オルガ・ヘプナロヴァー』── ある無差別大量殺人の実話。

「選択肢は自殺か殺人か。私は決断する。私、オルガ・ヘプナロヴァーはお前たちに死刑を宣告する」
1973年、22歳で無差別大量殺人を犯しチェコ最後の女性死刑囚となったオルガ・ヘプナロヴァーの、実話にもとづく映画。

銀行員の父と歯科医の母という良家に生まれたオルガ。家庭でも学校でも孤立し精神的に不安定だった彼女は、13歳のとき薬物過剰摂取で自殺を図る。入院した精神科病棟では集団リンチを受け、退院後は家を出て職に就くも長続きはせず、同性の恋人とも安定した関係を構築することができない。精神状態は悪化の一途をたどり、ついにオルガは「私の人生をダメにした加害者である社会」への復讐を実行する──。

逮捕後も反省の色はなく、自分の行為は「人々から受けた虐待に対する復讐」であり「自分のような“いじめられっ子”を生まないため、二度とこのような事件が起こらないようにするため社会に罰を与えた」のだと主張。
映画は感傷を一切排し、ドキュメンタリーのように淡々と進行する。彼女の精神疾患が先天的なものなのか後天的なものなのかもわからない(おそらくはその両方だろう)。性的マイノリティである自分を「性的障害者」と呼び生きづらさを抱えてはいたけれど、被害妄想的なまでの疎外感に苛まれ孤立を深めていくその根源にあるのは家庭、親による虐待と無関心であったことは想像がつく。

関係のない人々を殺めたオルガには共感も同情もできない。でももし彼女に、たったひとりでも寄り添ってくれる人がいたならば。理解しあうことはできなくても、彼女を理解したい、理解しようとする人がいてくれたなら。
もしくは抱えこんだその闇を、彼女の豊かな表現力で文学として昇華させることができていれば。
自分自身や社会と和解するまでには至らずとも、なんとか折り合いをつけてやっていくことはできたかもしれない。

1973年7月9日、オルガはプラハの中心地で路面電車を待つ群衆にトラックで意図的に突っ込み、8人が死亡12人が負傷。1975年3月12日、絞首刑による死刑執行。
やはり重なるのは秋葉原無差別殺傷事件と加害者の生育環境。そして社会から孤立した人の拡大自殺願望と復讐願望による無差別大量殺人は、なくなるどころか今も世界中で起き続けている──。

オルガを演じるのは女優、歌手、作家として幅広い活躍をみせるミハリナ・オルシャニスカ。『レオン』のナタリー・ポートマンを思わせるマチルダボブからのぞく、鋭い眼光。背中を丸めうつむき歩くおどおどした態度と、突然牙をむく攻撃性。ひっきりなしにタバコを吸う神経症的な姿と、読書家で知的な面と。圧倒的存在感に、一瞬も目を離せない。

犯行時のオルガの静かな冷めた世界と現実の惨劇との乖離。すべてが過ぎた後の家族の風景、そこに残される私たち。彼女が見ていた空虚、絶望を、目を逸らさずに映画館の暗闇で見届けたい作品。

『私、オルガ・ヘプナロヴァー』
(2016年/チェコ・ポーランド・スロバキア・フランス/105分)
監督・脚本:トマーシュ・ヴァインレプ&ペトル・カズダ
出演:ミハリナ・オルシャニスカ、マリカ・ソポスカー、クラーラ・メリーシコヴァー、マルチン・ペフラート、マルタ・マズレク

4月29日(土) 〜 シアター・イメージフォーラム ほか全国順次公開

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