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【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.4】「看護の仕事は、もともと男の仕事でした」

「職業と男女」について①

Q職業の男女差別があってはいけないと思っていますが、私自身もやっぱり航空機に乗ったら女性CAのほうが安心するし、一方で、家電量販店に行ったら男性店員のほうが信頼できるような気がします……。また、「看護婦」や「保母」さんは、「看護師」「保育士」と言い方が変わりましたが、そういった仕事は女性がすべきだと思っている人は未だに多いかと。やはり〈お世話するのは女性だ〉という価値観はまだ残っているのでしょうか。

それは、単なる生活習慣です。慣れですよ。
自分が見聞きした範囲のことがすべてだと思う人たちにとってはそうかもしれません。
それが事実だから、“まぁ、そういうもんだ”とみんな思い混んでいて。
CAは機内サービス業ではなく本来は保安職です。屈強な男性の方が安心、ということはありませんか?また携帯電話のショップに行けば女性の担当者がたくさんいますし、彼女たちが信頼できないなんてことはありません。見慣れたらそんなもの、と思えるようになりますよ。

では“そういうもんだ”って言うけれど、「いつからなの?」って聞いたら、「昔からそう」だとか……。
「じゃあ昔って、いつ?」と遡ってみると、大した昔のことではないんです。
看護の歴史を振り返ると、看護はもともと軍隊の中の看護兵の仕事。つまり男の仕事です。
そこにナイチンゲールというおネエさんが出てきて、看護という職業の女性化が始まりました。
100年ぐらい歴史を遡れば、もともとは男の仕事だったのです。

その次に保母さん。
「保母」というのは、保育園が制度化されてからできた新しい職業です。
昔から乳幼児を育てる人のことを、日本では“乳母”と呼んでいました。おっぱいが出ない男は乳母になれなかったので、“乳幼児を育てるのは女”というような思い込みがあって、それがそのまま職業としての保母になりました。
ですが、授乳期過ぎれば、おっぱいあろうがなかろうが子育てに何の関係もありません。
保育所に送り迎えするのに、母か父かは一切関係ありません。むしろ子どもが育つ環境に両性がいる方がよいと考えられるようになってきました。
そうなれば〈男もできて当たり前でしょ!〉と、これまで女性職と思われていた職業に、最近は男が参入するようになってきました。

男女の職業について考えるときに「水平的分業と垂直的分業」という概念があります。
水平的分業というのは、横並びで男向けの職種と女向けの職種が分離すること。
例えば、長距離トラックの運転手さんは男だが、看護師は女といった具合に。
水平分業は横並びで、お互いにその賃金や待遇の差がないことをいいます。ですが実際には男性職と女性職のあいだには、賃金の格差がありますね。
女性学の経験則によると、水平的分業の中で職業が女性化し、ある職業の女性割合が高くなると、その職業の社会的威信と賃金が全体的に下がる、という傾向があります。
そのいちばん典型的な例が、義務教育の先生です。

Q.え? 義務教育の先生ですか? 意外です。

義務教育が出来たのは明治時代。明治の時の義務教育の先生は地方名士でした。
男が多く、みんなから尊敬されていました。ところが、その後どんどん女が増えていって、今では、特に小学校の先生って、ほとんど女の人の仕事になっちゃってますよね。たまに男性の担任だと「当たり!」なんて。
その過程で、民間の賃金に比べて、教員の賃金は相対的に低下していき、社会的威信も低くなってきました。
逆に女性職と思われている世界に男が入っていくと、どうなるか。
看護師や保育士の世界に男が入ってくる。女性職に男が入っていくと、いじめにあって大変だろう、これまで男職場で女が経験したような辛い思いをするだろう、と思うけど……ところがそうじゃない。
今度はそこで、垂直的分業が起きるのです。

Q垂直的分業? どういうことですか?

垂直的という言葉のとおり、後から参入した男の看護師さんたちが出世して、管理職になっていくことです。
看護師さんも保育士さんも、後から参入した男たちのほうが出世して管理職になっていく。
看護師が男女共職になってからまだ日が浅いですが、男性看護師さんたちが今後勤続20年30年となっていったら、看護師長の男性割合が、看護師という職業全体の男性割合よりも高くなる。そういうことが容易に予想できます。
困ったもんでしょ~。

Qはい! 困ったもんです!

女向け職業に男が入ってくると、よいことばかりではありません。

Qなるほど。そうかも知れないですね。

それと、男性は看護職に参入しやすい。なぜかというと相対的に賃金がいいからです。
一方で、保育や介護の世界は待遇が悪すぎるから、男性はあまり参入しません。
やっぱり有利な職業に男性は入っていき、不利な職業に女が集中します。
その職業に女が向いてるから、男が向いてるから、ではないんです。

Q賃金が高いと男の人が来るんですか?

当たり前です。

Q結局、女の人は安い賃金で、ひたすら頑張るみたいな?

女性には選択肢が狭いから。
男性は他に有利な選択肢があれば、そちらに移動します。「男性介護士の結婚退職」って聞いたことがありますか?結婚したら介護職の給料ではとうてい食べていけないので、転職するという意味です。

Qなるほど。でも看護師長が男の人ばっかりになるのは、ちょっとイヤな感じがします。

イヤだよね。でも彼らは、長時間勤務も、残業も、夜勤も、こなしてしまうでしょう。

Qじゃあ、そんな仕事の仕方に他の人たちも合わさなければいけなくなるのでしょうか?

これまで看護師長になっている女性たちの多くは、独身率が高くて、残業も夜勤もこなして、就労継続をしてきたおばさまたちでした。
それと同じ条件の男たちがこれから生き残っていけば、どんどん師長になっていくわよね。

Qそうなったら病院内は男の人ばっかりになっちゃいますよね?

いや、なりませんよ。
女の職業集団のトップに男が立つだけです。

Q会社みたいになっちゃいそうですよね?

女の多い職場といえば、生保業界だって、小売業界だって、そうでしょ。
生保のおばさんたちを管理しているのは大卒男なんだから。百貨店も今は大卒女性の採用が増えましたが、昔は女子社員は高卒のみ、それを大卒男子社員が管理していました。

Q確かに生保の上の人たちは男ばっかりで、下の営業の人は女性ばっかりです。

そうでしょ。
女向けの職種で、なおかつマーケットも女性が対象というと、代表的なところではコスメ業界があります。化粧品セールスの最前線は、美容部員のおネエさんたちですよね。でも、その業界も管理職は男の人が多数。資生堂の管理職の女性比率の低さを聞いてショックを受けました。それでも業界ではまだましなほうです。
まさに垂直分業の典型です。

介護業界については、これから先は同性介護、同性介助がだんだん当たり前になっていく可能性があります。男の介護士はイヤだという高齢者の女性も多いですよね。
男の保育士がロリコン趣味で、子どもに猥褻行為をしたという問題も取り沙汰されています。

Qそんな事件もありました。

だから、男に子どもを預けるのはイヤだという人もいる。要介護の高齢者や障がい者の人たちだって、異性にはやってほしくないと思う人たちがいます。
身体接触を伴うようなケアの仕事は、同性介助、同性介護が基本になっていくのかもしれません。

Q私も将来は、男性介護士には担当してほしくないかも……。

でもさ。オッサンは若い女性にケアをしてほしいんだって(笑)。

Qそうそう、私も介護の仕事をしている女性の友だちに聞いたことがあります。おじいさんたちって結構わがままになってるから、からだを触ってくるって言ってましたよ。

それはセクハラです。事業者がきちんと対応しなければなりません。
まとめていうと、ある職業で女性化が起きると、その職業の社会的威信や賃金が下がると言いましたが、それならその職業の社会的威信と賃金を上げるには男性の比率を高めればいいのかといえば、そうとは限りません。先ほど言ったように、その職業内での垂直分業が起きて、男が出世するだけ。これが経験則です。
恐ろしいよね。どこまでも男はおいしいとこ取りをするみたいですね。

Q恐ろしいですよね、どこまでもかっさらっていくみたいな……。

そのとおり。男であるだけでトクをする…これを男性の既得権益と呼びます。

 

取材/東 理恵

上野千鶴子 1948年富山県生まれ。社会学者。京都大学大学院修了、東京大学名誉教授。東大退職後、現在、認定NPOウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長として活動中。2019年東大入学式での祝辞が大きな話題に。『おひとりさまの老後』や『在宅ひとり死のススメ』など著書多数。

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