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Lifestyle男の子の育て方【令和男子のミライ地図を描こう】

【男の子の育て方 対談連載vol.13】じゃれ合って股間を触るのは、男の子だったらOKですか?

男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。

【男の子の育て方 対談連載vol.12】過熱する中学受験のママの意識 vs. ジェンダーレスを地で行く高校教諭の授業・編

男子の性的尊厳について考えさせる都内中学校の事件

ライター東 この春、少年法の改正や、太田さんがお話されていたAV法案など、子どもに関する法律が変わってきています。男の子の子育てをするうえで、取り組まなければいけないことが増えているような気がするのですが。

太田さん(以下敬称略) 日本の法律は、おかしいと思うんですが、〈それが『猥褻』か、『猥褻』でないか〉ということに重きを置いています。
重要なのは〈個人の性的尊厳をどう守るか〉なのに、〈『性道徳』を守る〉〈社会の善良な風俗が乱れないように〉といった発想でできており、根本的に改められるべきだと考えています。
例えば売春防止法など、抜本的に変えないといけない法律がある中で、6月に施行されたAV出演被害防止・救済法は目的を「出演者の性を巡る個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資すること」としていることは重要です。
日本の教育では、“自他の性的尊厳を大事にするということはどういうことなのか”を学ぶ機会がなかなかないと思います。これは性別を問いませんが、特にいわゆる「男子ノリ」で、「エロでドヤる」みたいな言動がエスカレートしちゃうことがあることを懸念しています。
性的尊厳をあえて蔑ろにすることをネタにするみたいなことがありますが、そういうことの弊害は小さくないと思います。

先日、都内の中学校の男性教師が自殺した事件がありました。彼はその数日前に男子生徒に対する強制わいせつで逮捕され、実名で報道されていました。釈放されてすぐ自殺してしまったということです。
これについて報じていた文春オンライン記事によると、遺書のような内容がインスタグラムに残されていて、そこには「陰部を服の上から掴みました。(中略)正直、性的な狙いはまったくありませんでした。ですが、やられた生徒にとってはそれはとても嫌なことで、ノリや遊びでは考えられないことでした。私はよくほかの生徒とその様な軽いノリで付き合っていて、つい気持ちも考えずにその生徒にも同じことをやってしまったのです」と書かれていたそうです。
「学校で、生徒の陰部を掴んだ」というのは、この教師自身認めていたということのようなのですよね。どういう事情であれ自殺は痛ましいことで、防げなかったことは残念なのですが、しかし「陰部を掴んだ」なんて犯罪でしょう。

この記事で私が非常に気になったのは、その記事中に、「その教師を慕っていた卒業生の声」として、「頭を触ったり、肩を組んだり。時には尻を叩いたり、股間を触ることもあったけど、よくある男子同士のじゃれ合い。正直、気持ち悪いと思ったことは一度もないし、周りからそんな声を聞いたこともなかった。事実として触ったには触ったんだろうけど、それっていつものノリじゃないか……。それが僕たちの一致する見方でした」とあったことです。
本当にこういうふうに、教師が生徒の股間を触るということを「じゃれ合い」「いつものノリ」と捉えていた生徒がいたなら大問題です。それは性暴力なのに、性暴力と認知できないくらい、「男子どうしなら遊びでよくあることだから問題ない」という刷り込みがあったということでしょうから。
こういう誤った刷り込みを内面化していると、性暴力に対する認識が歪むと思います。

実際、性暴力だと捉えた生徒がいて、警察に通報したわけですが、そうしたら教師が自殺してしまった。
通報した男の子はどんな思いをしているでしょうか……。
SNSには「被害届まで出すようなことではないのに」といった書き込みまであって、これは被害生徒への二次加害ですよね。
「男どうし股間を触るのはよくあることだろう」という趣旨のSNS投稿も見かけました。本当に「よくあること」だとしたら、それを変えないといけないわけで、「よくあることだから問題ない」というのはおかしいです。
まして、教師が生徒に、ですから、ちょっと無理すぎる擁護だと思いましたが。

もし女の子の股間だったら? 男の子の場合は別問題?

田中 これは、以前から話している「もし女の子だったら、どうか」につながりますよね。

太田 本当にそうです。女の子だったらありえない。いけないとすぐわかるのに……。
男の子だと性暴力被害が被害として顕在化しづらいですよね。周りが被害として捉えようとしなかったりする。

田中 今回の事件では被害があったという話になっているのに、周りがそれを打ち消そうとしているわけですからね。

太田 女の子の股間だったら同じことをいう? という話ですよね。
男の子の場合は、「男子どうしのじゃれ合い」という体裁で、性的尊厳を傷つけられたという本質が見えづらくなってしまうことがある。「笑ってやり返してやれ!」「男はそんなこと気にするな」というように。
でも、自分の尊厳を大事にする感覚があれば、同意なくプライベートゾーンを触られたら、傷つくほうがまっとうです。「男だから傷ついてはいけない」という間違ったメッセージを内面化した男の子は、自分が被害に遭ったとき、すぐには被害だと捉えられないでしょうし、他者の性的尊厳を十分に尊重できないことがあるのでは。

田中 これを踏まえて教訓としなければなりません。
自殺という痛ましい事件ですが、「嫌なことは嫌だと言っていいんだ!」としっかり言うべきです。それがかき消されてしまう社会は、大きな間違いです。

太田 「嫌だ!」ということで通報した男の子は、加害者である教師の自殺にどれだけ衝撃を受けているでしょう。
「あなたのしたことは、何も間違っていなかったよ」「自分を責める必要などない」と周囲の大人が伝えられているといいのですが。……。
「被害届を出したら教師が亡くなりました」では、今まさに同じような経験を受けている子どたちだって、怖くて声を上げづらくなってしまいますよね……。被害告発に向けてのエンパワーメントが必要です。
もし女の子だったら「教師が生徒の陰部を掴むなんてとんでもないことだ!」とわかるのに、男の子だと急に「気にしすぎだろ」となるのはおかしいですよね。

かつてはスキンシップが教育の一環だった

田中 教育社会学者の内田 良さんが出されている学校ハラスメントの本に「昔は女子に対する猥褻行為をした時に“教育の一環だった。コミュニケーションのひとつだった”という言い訳があった」という内容が書かれてありました。
今回の事件にも繋がるものがありますよね。これが教育現場ではない他の場面だったら、そんなことにはならないと思います。

太田 性暴力を性暴力として認知させないような何かが社会に漂っているとしても、それに流されず「それは性暴力だろう!」と言わないといけない。意識的にそういう教育をしていかないと、子どもたちを守れないと思いますね。

田中 そうですよね。

太田 “教育の一環”という言葉は隠ぺい装置のよう……。
それにしても、教師が生徒の股間を触ることを「よくある男子どうしのじゃれ合い」と捉えてるなんて、本当でしょうか。うちの息子だったら「とんでもないものを見てしまった!」と私に話してくると思うんですけど。

田中 男らしさが試されている、という問題もあるかもしれません。
股間を触って、じゃれ合っているような場面では、堂々としているほうが良しとされる。冗談として返すほうがカッコイイということ。男性内の集団では、ありそうな気がします。

太田 ホモソサークルへの入団テストのような感じですね。
そこでひとりぼっちにはなりたくないから、無理をして、自分の“イヤだ”という気持ちを押し殺すことで、仲間に入る。
そして中に入ってしまうと、今度は自分がそれを他人に求める立場になってしまいますよね。入団テストを強いるようになってしまいます。同じ男の子が被害者であり、加害者でもある。そうやって連鎖は続いていきます。
私の本の読者にも「自分は被害者だったけど、加害者だったとも思う」という男性がいました。
被害者であれば「これは間違ってる!」と訴えやすいのですが、加害者でもあると思うと、言いづらくなってしまう。自分にも嫌な思いをさせた人がいるのだから。
それもわかりますが、でも、そこは勇気を持って主張することが大切だと思っています。

東 中学生ぐらいになると、余計に言いづらい時期なんでしょうね。

太田 「他の人と違ってもいいじゃない!」と言いたいのですが、やはり同調圧力が怖いのでしょう……。

田中 うーん。そう思うと、男と女をかなり初期の段階で分けてしまっているのが問題なのかもしれません。

 

取材/東 理恵

太田啓子
弁護士。中2と小5男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわるSNS投稿が反響を呼ぶ。昨年出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。

田中俊之
社会学者。大妻女子大学人間関係学部准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では6歳と2歳男児の父。
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