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かつての「エビちゃんOL」たちが今なお輝く理由を、作家・鈴木涼美さんが考察

20年前、社会現象まで巻き起こしたエビちゃんブーム。「人生で一番キラキラしていた青春時代のアイコンは、いつもエビちゃんだった」。そう語るSTORY読者たちの前に、再びカバーモデルとして蛯原友里さんが降臨します。今なぜ〝蛯原友里×STORY〟なのか。同世代の作家である鈴木涼美さんに考察していただきました。

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目次 ★ 今、再び〝エビちゃん〟が 私たちのシンボルである理由──


今、再び〝エビちゃん〟が 私たちのシンボルである理由──

惜しくもお蔵入りした表紙の別バージョン。

○ 〝大好きな可愛い服〟を着ることが全方位モテ=「めちゃ♡モテ」に

SNSがなかった20年前、10~20代だった私たちは、オシャレだけでなく生き方までも雑誌に正解を求めていた、まさに〝雑誌世代〟。当時、エビちゃんが表紙を飾っていた「Can Cam」は、最大で80万部超という爆売れ雑誌。発売日に重たい雑誌を持ち歩き、大学のカフェテリア、オフィスの昼休みなどで、隅から隅まで読んでいる女性の姿をよく見かけました。

ゼロ年代半ば、女のコたちの絶対的なアイコンだったのが〝エビちゃん〟。アプワイザー・リッシェ、クイーンズコート、サマンサタバサなどのフェミニンな「エビちゃんOL」ファッションを纏った女子たちは、職場や大学など、街中に溢れ、時代のど真ん中にいる───、まさにキラキラ女子の象徴として自信に溢れて見えました。

雑誌の提案するオシャレを心底楽しみ、人生を謳歌していたこの世代は、自分を磨くことで上昇婚を目指す一世代前の女性たちと一線を画していた気がします。フリル、リボン、パール、花柄、パステルカラーなど、女のコが本能的に好きなアイテムを身に着け、男に選ばれるためというより、自分が自分を可愛いと思えるように軽やかに自分自身を磨き続ける。そのスタイルは、自然と老若男女問わず全方位の人から好印象で、みんなにちょっとずつ好かれる「めちゃ♡モテ」女子がみんなの〝正解〟でした。

○ 仕事もちゃんとやるけど、「毎日を楽しみたい!」 そんな正直さが大人になっても変わらない世代

それまで、東大に行く女子と東大の男性と結婚する女子は真逆の人種でしたが、私たち世代から、女性たちは可愛くもありたいし尊敬もされたい。という新たな欲望をごく自然に抱くようになったと思います。

当時のいわゆるエビちゃんOLたちは、実はかなりの能力とパワーを持っていたとしても、職場でそれをひけらかすことなく、器用に爪を隠し、みんなに可愛がられながら毎日を過ごすようなところがあったのではないでしょうか。好きな服を着続け、オシャレを磨き、趣味や合コンなどでは軽やかに「めちゃ♡モテ」の反射神経を鍛えながら、いつの間にか仕事もしっかりこなしている、そういう女性ならではの器用さを持っていた気がします。

そんな「めちゃ♡モテ」出身の女子たちは、妻となり母となった今、幼稚園や職場などでもさまざまな顔をナチュラルに使い分けることができるから、母や妻、あるいは職場での役職など、一つの顔にとらわれずに活躍できる。まさにそれが今のSTORY読者です。母としても社会人としても十分上手くやれているのに、さらに資格取得や起業などにもチャレンジしようとする無限のバイタリティには、20代の頃の「めちゃモテ」体験が関係しているかもしれません。仕事か家庭どちらかに決めなくては。という制限で自分を縛らないから、人生に常に新たな目標ができるのでしょう。

○ バリキャリと専業主婦の属性の境が曖昧に。人生を自分でマネジメント!

企業のフォロー体制などが徐々に整い、産後の職場復帰がごく一般的になったのもそう昔ではありません。かつて高収入の男をゲットすることが勝ち組の証しという時代もありましたが、女性の管理職起用や社会全体の景気悪化など、さまざまな要因が重なり、「働くママってカッコいい」という価値観ができていきました。自分の理想の生活水準を満たしてくれる男はそう転がっていないし、せっかく努力して手に入れた自分の学歴やキャリアを活かし続けたいという考えはとても自然なものに思えます。かといって、男の人を排除するような怖さがないのが現在の40代の特徴かもしれません。「仕事命!」だとか「家庭を守る!」という頑なな覚悟を持つのではなく、自分にとって自然な選択を柔軟にできる、ある意味真似しやすい理想の女性像が増えてきました。人の欲望というのは、今日は可愛がられたい、明日は仕事で認められたい、と当たり前に揺れ動くものですから。

○ 美しく、軽やかでナチュラル。そんな40代が新たな時代を作る

今月号から、蛯原さんが「STORY」の表紙モデルになるんですね。それは感慨深い読者も多いのでは? みんなエビちゃんを目指し、青春時代を歩んでいたわけだから、当時の憧れはもちろんですが、同じように年齢を重ねながら同時代を駆け抜けた同志感があると思う。「今は雑誌が売れない」と言われますが、40代は雑誌でファッション、ブランド、ビューティ、恋愛までも学んだ世代です。今の20代と話していてとても現実的でクールな印象があるのは、一つには雑誌に載っているスタイルに憧れを抱いた世代じゃないからかもしれません。年末、紅白を見ていたら、ラブソングが少なすぎて驚きました。私たちの時代は小室ファミリーやELTなど、カラオケでは恋愛ソングばかりでしたよね(笑)。

ここ2~3年で私の周りでも、40歳になったのを機にますます活動的になる人が増えました。かつて女性には「女盛りは20代」。というような勝手な印象が押し付けられていて、子どもを産んだらお母さん、40代になったらおばさん、というイメージがあったと思うのですが、今の40代ってきれいで若々しい。蛯原さんは驚異のナチュラルな美しさ、そして天性の軽やかさがあるから、彼女を嫌いな人って聞かないんですよね。20年後も変わらず「みんな大好き♡エビちゃん」なんです。

子育てやキャリア形成で思うように動けなかった30代、コロナもあったし、いろいろ抑圧されていた人も多いと思います。コロナ禍が明け、子育ても一段落したことで「ここからもうひと頑張りして人生を楽しみたい」というポジティブな想いが溢れ出る。そこに青春時代のアイコンだったエビちゃんが、また自分たちの前に毎号現れることで、みんなキラキラしていたあの頃を思い出し、自分も頑張ろうと鼓舞される。いったん雑誌から離れた人も戻ってくるかもしれませんね。もちろん、ママだけじゃなくて私のように独身の人もいるし、仕事を持っている人も勉強中の人もいる。それぞれ違った生活を送っていても、かつて同じ方向を向いていたマインドはどこかしらに染みついているはず。この年になると、みんな多かれ少なかれ破綻はあります。でもそこを重く捉えすぎず、他にポジティブなことを見つけ、うまくやりすごそうとする柔軟さと軽やかさはエビちゃん世代の得意分野。

そんな同世代どうし〝エビちゃん×STORY〟が新しい40代を盛り上げてくれるんじゃないかと楽しみです。

イベントでエビちゃんとの2ショット&毎週末、スーツケースに私服を入れ撮影へ行っていたという読者さん達。

Suzumi Suzuki 作家。1983年生まれ。神奈川県鎌倉市出身。高校時代は渋谷でギャルとして楽しく遊ぶ毎日を送り、慶應義塾大学環境情報学部在学中にAVデビュー。東京大学大学院社会情報学修士課程、日本経済新聞記者を経て、2013年より作家として活躍。ファッション誌全盛期の女性たちのリアルを描いた著書、『JJとその時代 女のコは雑誌に何を夢見たのか』(光文社)がSTORY世代に人気。近著に『グレイスレス』(文藝春秋)、『浮き身』(新潮社)など。

撮影/渡辺修身 取材/石川 恵  ※情報は2023年9月号掲載時のものです。

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