8月19日に封切りされるやいなや連日満席の大ヒット!『ミッドサマー』のアリ・アスター監督も惚れこんだ“ホラー・フェアリーテイル”アニメーション『オオカミの家』、9月からは上映館がぐんと増えての全国順次公開中です。

チリ南部のドイツ人集落。ある日、若い娘マリアは命令ばかりの日々に耐えられずコロニーから脱走。森の中の一軒家に逃げこみ、そこにいた 2 匹の子ブタをペドロ、アナと名付け一緒に暮らしはじめる──。
ストップモーション・アニメーション(コマ撮り動画)でありながら、液体のごとく自在にかたちを変えて滑らかに流れる映像。壁に現れた平面の人物や物体が立体に変容したり、2次元と3次元を自由に行き来する世界に初っ端から釘づけ!
何もかもがかたちを持ってはまた溶け出す、不穏に繰り返される解体と再構築。その狂気に不謹慎ながらもうっとりしたり。
物語のヒントとなるのは、ピノチェト軍事政権下のチリに実在した元ナチスのパウル・シェーファーを教祖とするコミューン「コロニア・ディグニダ」。美しい共同体に見せかけた教団の実態は強制労働、拷問、少年への性虐待が日常のカルト集団で、教祖が逮捕され事実が明らかとなった現在も「ビジャ・バビエラ」と改名し存続している──という負の歴史を頭に入れておくと映画の恐ろしさがより迫ってきます。

カルト集団に限らず、そもそも「家」とは閉鎖性を持つもので。普通の家だって実際には他所からは見えないことばかり。
そして、保護者や指導者が子どもに「献身と愛情」を注ぎ「いい子になって」と導くことは、自覚があろうがなかろうが「安全でいたいのなら私の言うことを聞くのよ」というメッセージにもなり得るということ。子どもを支配しコントロールし得る存在だということ。
子どもが育ち自分よりも力を持ったとき、その子に復讐される恐怖に怯える姿まで見えるようで、昨今の痛ましいニュースが頭をよぎったり・・家、それから環境と教育についても考えてしまいました。
するとこれは遠い国の見知らぬカルトの話ではなく、それこそ普遍的な教訓を含んだ大人向けの寓話なんだなと改めて。ますますリアルな恐怖がそこに・・。
ぜひ暗い映画館で、生きもののような未知の映像と不気味な音(耳に残るはオオカミの声・・マリィ〜ア)に震えて、厳しい残暑を乗り切りましょう!