夫婦関係を捨てました
野原広子さん イラストレーター
「私は夫が大嫌い。いつかこの人と離婚できますように……」。そんな気持ちを抱えながらも、子どもの前では夫を立て、いつもニコニコしている主婦、翔子。『レタスクラブ』で連載され反響を呼んだ『離婚してもいいですか?翔子の場合』の作者である野原広子さん。「この作品はエッセイとしながらも、フィクション設定が多く盛り込まれています。友人の話やブログ記事から拾った、離婚したくてもできない女性たちの声を翔子に語らせています」。
実は連載終了後、ご自身も離婚をされています。「離婚後、改めてこの物語を読んでみると、結局自分が離婚について考えた時に口に出すことができなかったことを、自然と選択して翔子に言ってもらっていると感じました。連載にあたり、女性たちの意見を拾っていましたが、実は私の物語でもあったのかもしれませんね」。
48歳で始まった一人暮らし。「これまでにない開放感を楽しんでいます。同時に、隙あらば楽しようという本当の自分と出会いました。家庭にいる時は、常に夫や子どもに合わせよう、そして期待に応えたいという自分がいたんです。でも、最初は不摂生さを楽しんでいたんですが、時間の経過と共に不安を覚え、自身の目標設定の意味も込めてジムに入会しました。まさか自分が入るとは(笑)。以前の私からは考えられないです! 人生変わりました。というか、変えました」。
自身の生活に大きな変化をもたらした離婚。それは、友人との関わり合いの中でも感じたそう。「親しい友人に離婚報告すると、以前はしてこなかったような話をしてくるんです。例えば、姑との確執やバツイチの男性陣からは、『俺、何のために生きているかわからない』と打ち明けられることも。男性は『妻には何をしても大丈夫だろう』って思っていたんでしょうが、いなくなったら急にしょんぼり。結婚は男性にとって楽な場所のようですが、女性にとっては閉じ込められている場所なのかな……。女性は離婚により、解放され羽ばたく感じ(笑)。男女問わず飾らない正直な話が聞けるのは、次の作品の題材探しに、とても役立ちます」。
「捨てる」ことでもたらされた変化。その中には嬉しいことだけでなく、時には寂しいことも。「離婚できて羨ましいと言われます。でもその代わり、多くのものを捨てていますからね。家、車、たくさんあった荷物、あとは、ご近所さんやママ友。捨てたとは言いませんが、元住んでいた場所からは離れるので、以前より自然と疎遠に。良いこともたくさん手に入れたけれど、反面、こういうこともあるという覚悟はあってするべきですよね」。
もう一つ大切なこと、それは仕事を持ち、社会と繫がり続けていることだと野原さんは言います。「翔子は自分に嫌なことをする相手に対し『怒る』ではなく『ニコニコする』ことで自分を守ります。でも、それを武器に戦っても限界がきてしまう。そろそろ他のアイテム加えないと戦えないことに気づくんです。心の中で夫の不満を呟くことしかしなかった翔子が自分と向き合い、行動に移す。その一つが仕事。私自身、幸いなことに漫画を描くということで社会と繫がり続けることができています。やりたいことがなければ求められることを仕事にするのもいいと思います。変化の先には必ず新しい何かがあるはずです」と語る野原さん。今日もジムに通い、準備に余念がありません。その来るべき“新しい何か”を迎える時のために。
撮影/BOCO 取材/上原亜希子 ※情報は2021年12月号掲載時のものです。