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昔、夢中になったドラマのように、恋する心をもう一度!男女4人秋冬物語

2組の夫婦、男女4人の物語を
storyweb.jpでは女性目線から、
esquire.jpでは男性目線からご紹介します。

男性目線の「男女4人秋冬物語」はこちら
※esquire.jpへリンクします。

「ねえ、この間麗子さんとハンバーガーショップにいた?
公平ママが、二人が何だか楽しそうに話してたって……」

久しぶりに親子三人で外食しようと、サッカー練習に出かけた息子の直人を
迎えに行く道中、思い切って口火を切る。

一昨日、駅でバッタリ会った直人のサッカーチームのママ友が意気揚々と話しかけてきたと思ったら、どうやらそれが言いたかったらしいのだ。
貴史に問い詰めたい思いでいっぱいだったにもかかわらず、数日間、言い出せずにいた。
でも、息子の直人の前で話すわけにもいかないから、聞くなら今だとばかりに気が急いて、つい早口になる。

「ああ、ほら仁香がイベントがあった日さ、小腹が減ったから麗子さんに
ハンバーガー付き合ってもらったんだ。よく食べるんだよー、
麗子さんったら案外ね(笑)。あっ、ちょっとコンビニで水買ってくるね」

出た! またその悪びれないSMILE。
笑っていればすべては丸く収まると思ったら、大間違いなんだから!
しかも、人が休日出勤している間に、麗子さんとハンバーガー……。
青春してくれちゃってるじゃないの! 

「ん? 仁香、焼いてるの?
 ほら、仁香だってあるでしょ。同僚の男の人なんかとゴハン食べること」

「そりゃ、みんなと一緒ならあるけど、男の人と二人きりでなんてない!」

そう強く言い切って思わず息を呑む。
あっ! そういえば、先週麗子さんのダンナ様の直樹さんにバッタリ会って、
二人でワインを飲んだんだっけ……。

「なあ、貴史君と仁香さんって上手くいってるのか?」

仕事とゴルフしか頭ににない直樹が、私のママ友の話をするなんて珍しい。

「いってるんじゃない? 何で?」

「いや、年下男子は年下男子でそれなりに大変じゃないかなって」

「よそのことより、自分達の心配したほうがいいんじゃない? 私たち。
あなた、仕事だか何だか知らないけど、他の女性とも食事を楽しんでいらっしゃるようだし……。ほら、この間の天ぷら屋さんだって、私の前にどなたかと来てたんでしょ?」

「なっ、ないよ! 
二人きりで食事なんて……」

ふと前に目をやると、タイミングが良くか悪くか、仁香さんと貴史さんが歩いてくる。
サッカー場の前で、仁香さんと目が合う。

「こんにちは」

直樹との気まずさを気づかれないように、笑顔を作る。
それにしても、気のせいか、仁香さんの目が、心なしか鋭い気がする。
ハンバーガーショップのこと、仁香さん知ってるのかしら……?
やましいことなんて何もしてないけど、でも、貴史さんと過ごした時間にキュンとしたのは確かだ。

「こんにちは。この間はどうも」

「あっ、はい……」

えっ? 今、仁香さんに話しかけられて、直樹ったら目くばせした?
何、なーに? 怪しいのは、そっち!?
この間の天ぷら屋さん、会社の若いコとじゃなく、まさか仁香さん……!?

「ねえ仁香さん、雄太がキャンプ行きたいって言うんだけど、
直樹ったら、そっちのほうは全然ダメで。
この間、直人君が、新しいパパはキャンプが得意なんだってお話してくれたんだけど、
どうせなら、みんなで一緒にキャンプ行きませんか?」

「いいですね! カレーにバーベキュー、外で食べると美味しいんですよね!
 来週とかどうですか?」

わっ、わわっ、動揺して自分ながら大胆なお誘いしちゃったけど、大丈夫かしら……。
でも、何だか直樹と仁香さん、伏し目がちだし、やっぱり何かある……!?

 

「雄太と直人君、二人で川のほうに遊びに行ったけど大丈夫かしら?」

「僕、この野菜切ったら見に行ってきますよ」

貴史さんは、子供達に歓声を浴びながら器用にキャンプテントを組み立てると、
次は手際よくバーベキューの準備に取り掛かった。
手持ち無沙汰そうにしている直樹とは大違いだ。

「直樹、私が作ってきたポテトサラダ出して。
私は、パエリア作りますね!」

「わー! さすが麗子さんね。
作り方教えて!」

仁香さんが、髪をキュッと束ねながら、私の手元を覗き込む。
大自然の中では、わだかまりもどこか影を潜め、和やかに時が過ぎる。

「ほら、野菜切れたし、そろそろバーベキュー始めましょう!」

自然の中では、俄然イキイキとリーダーシップを発揮する貴史さんが、声をかける。

「肉、奮発したんで食べてください。
仕事の取引先から美味しいと聞いて買いに行ったんです」

「さっすが直樹さん! 久しぶりに美味しいお肉が食べられて嬉しいな」

そう言って仁香さんがふと直樹へと流した色っぽい視線に目が留まる。
そして、私の視線に気づいた直樹と眼が合った。
直樹は何か言いたそうにしながらそれを飲み込むようにして、肉を焼き始める。

 

「わっ、やっぱりイイ肉は、焼ける匂いまでイイですねぇ。
この匂い、空きっ腹に響きますね。麗子さん、ポテサラいただきます!」

口いっぱいにポテサラを頬張る貴史に、麗子さんがすかさずおしぼりを差し出した。

「貴史さん、ほら、またココ、唇にマヨネーズついてますよ」

麗子さんがにこやかに唇の端を指さして、貴史にマヨネーズが付いている場所を教えている。

「また、って……。
そういえば、貴史と麗子さん、この間二人でハンバーガー食べたんだもんね。
公平ママがみかけて、やたら楽しそうだったよって」

わっ、こんなこと言うはずじゃなかったけど、能天気な貴史とお嬢奥様の麗子さんとのやりとりを見てたら腹が立って、つい……。

「なんだよ、仁香に話しただろ。小腹が減って、麗子さんにハンバーガーショップに付き合ってもらったって」

気まずい空気が4人の中に流れる。

「仁香さん、ごめんなさい。私も久しぶりにジャンクなものが食べたくなって……。
お仕事中にホント、ごめんなさい」

えっ? 私がヒステリー起こしてるみたいじゃない!

「いいの。おあいこだから。
私も、この間直樹さんと会社帰りにバッタリあって、ワイン飲みながら悩みを聞いてもらったし」

「直樹さんと二人で? なんだよ、仁香! 男と二人きりで食事することなんてないって言ってたじゃないか!」

「……」

「……」

「……」

気まずい空気は、いっそうの重さを持って4人にのしかかる。

 

あの後、重い空気の中で、とびきりの肉を美味しいとも感じることのないまま口に入れ、
子供達が「まだ遊びたい!」とごねる中、暗黙の了解のように帰り支度を始めた。
帰りの車でも、一人はしゃいでいた雄太が寝てしまうと、私も寝たふりをして
その時間をやり過ごした。
そして、直樹が翌日から海外出張へと出かけたため、あれから1週間、幸か不幸か
直樹とは口をきかずにすんでいる。
そんな中、直樹からLINEが入った。
「土曜の夜帰る。日曜、外で一緒に食事しないか?」と。

直樹は、出張から帰ったばかりにもかかわらず、溜まった仕事を片付けると
朝から会社に出て行き、予約してあるからとレストランの場所と名前だけ告げられた。
まさか、別れ話だったりして……。
ドレッサーで口紅を塗りながら、ふとそんな思いがよぎる。
私のほうだって、10年前、結婚当初はあんなにクリアに見えていた毎日が、最近では
くもりガラスを通したようにどんよりと見えることがある。
でも、直樹という大きな懐の安心感の中で私は10年過ごしてきたのだ。
不満はもちろんあるけれど、10年前の愛とは違う、家族としての温かな思いがある。
料理やテーブルコーディネートの勉強も
もとはといえば、直樹に喜んで欲しいから始めたものだ。
今では、人に教えるようになり、私が私でいられる時間だ。
私が私でいられるのは、直樹のおかげかもしれない――、そんな思いで
最近お気に入りのワンピースを手にとり、念入りにその姿を鏡に写してみる。

レストランに着くと、直樹は既に席についていた。

「ごめんなさい、私のほうが遅くて……」

「いや、何だか今日、麗子キレイだな」

「洋服を選ぶのに時間がかかっちゃって……」

「そっか。何だか昔と同じだね。
麗子、いつも洋服選びに迷って、デートに遅れてたから(笑)」

「優柔不断、昔から全然変わらないの(笑)」

「お仕事お疲れさま」

グラスを合わせると、直樹がバッグを探り私の目の前に
小さなケースを置いた。

「開けてみて」

「あっ、うん」

ケースを手に取り開けると、小さな11粒のダイヤが並ぶリングが光った。

「ちょっと早いけど、結婚10周年だから。
いつも、ありがとう……改めて、11年目も麗子に一緒に歩いてもらえるよう、11粒のストーンが並んだリングを選んだんだ」

「急にどうしたの?」

「いや、この間、仁香さんから悩みを聞かされて思ったんだ。
自分は幸せだな、って。僕は10年仕事ばかりだったけど、それができたのも
麗子が穏やかな‟帰る場所“を作ってくれてたからだって。
麗子の美味しい手料理を食べると、いやなことがあっても頑張ろうと思えたんだ」

「直樹……。あの、私こそありがとう。
私、支度しながら、もう一度直樹に恋していた頃の気持ちを思い出して。
そしたら、服選びに時間がかかっちゃった(笑)」

直樹が微笑みながら、10年前のようにリングを私の指にはめる。

「これからもよろしく……」

あのキャンプの日から、貴史は何だか私を避けるように仕事に出かけ、毎晩帰りも遅い。
私自身も、年末のイベントの準備に追われ、貴史のことが気になりながら、
1週間が過ぎ、久しぶりに二人揃っての休みとなった。

「最近、忙しそうね」

「ああ。仁香もね」

「年末のイベントの準備なの」

しばらく沈黙が流れた後、意を決したように貴史が口を開いた。

「仁香、僕たちの子供、作らないか? ずっと、考えてたんだ。
まずは、しっかりと直人君の父親になることが一番大切だって思ってる。
でも、その上で、やっぱり欲しいんだ、仁香と僕との子が……」

「貴史……。嬉しいけど、わかってる?
うちの今の経済状態じゃ、直人を大学まで行かせられるかどうか……。
貴史、そういうところが、いつも甘いのよ」

「わかってるよ! だから、自分で営業かけて新しい仕事を幾つかとって、
大きな案件も今、進行してるんだ」

「だから最近、遅いんだ……」

「ああ。俺だって、尊敬される父親になりたいから」

直人という大切なものを共有した証のその言葉は、私にとって今、
「愛してる」以上の愛の言葉だ。

「嬉しい。私も欲しい、貴史との子供……」

貴史の手の上に自分の手を重ねてみる。

「それから……。今後は僕意外の男と二人でゴハン食べないで。
自分がこんなに焼きもちやきだなんて……。
この一週間思い知らされたよ!」

「ふふ……。貴史も、ね(笑)」

やっぱり、貴史は顔だけじゃなくイイ男だ。私と直人が認めた男だけのことはある。
ちょっぴり頼りないけど、この先もこの人を信じて前へ進んでいこう――。

 

 

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撮影/嶋野 旭(モデル)、坂根綾子(静物) モデル/高垣麗子、仁香、直樹、櫻井貴史
ヘアメーク/YUMBOU(ilumini) スタイリスト/大埼ちほ 文・構成/河合由樹

お問合わせ先/タトラス&ストラダ エスト TEL:03-3407-2700 https://www.strada-est.com/

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チームSTORY
FROMチームSTORY 雑誌「STORY(ストーリィ)」の製作に携わる編集部員たち。日夜雑誌作りに勤しむなかで得た知見、タメになる情報、愉快な話などなどファッションからライフスタイルまで、STORYらしさ溢れるトピックを、webでも存分に披露していきます。
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