重い! けど重さだけではなく「救い」のある映画です。
難病ALSを宣告された元NFLのスター選手が生まれてくる息子のために作ったビデオレター、と聞くと父子の感動のドキュメンタリーかと思いますが、私たち世代なら完全にツボは別。刻々と進行する病気は「この年なら自分自身にだっていつ降りかかるかも分からない病」であり、どんどん自由を失っていく夫を世話する妻の心境を想像するとキレイ事ではすまないリアルな「夫婦介護物語」として迫ってくるんです。
NFLの伝説のヒーロー、スティーブ・グリーンソンは現役引退後の2011年、ALS(筋萎縮性側索硬化症)だと告げられ、同時に妻ミシェルの妊娠が分かります。まだ見ぬ子のためにビデオレターを残すことにし、毎日カメラを回し続ける数年間が記録されているのですが、病気の進行が本当にリアル。ALSは運動神経だけが選択的に侵され全身が麻痺し、やがて呼吸まで止まる進行性難病で原因は不明。呂律が回らない口調で「夜は怖い、昼は耐えがたい」と語るスティーブがやがて話すことも出来なくなり、話せない人でもコミュニケーションを取れる視線入力装置や音声合成装置機器の保険適応運動を開始。制度化に成功しますが、そこで起こった妻とのすれ違い。人工呼吸器導入によって延命をはかるも、それはすなわち多大な費用と延々続く過酷な介護も必要となるため、さらに家族に負担が強いられることに。スティーブが病によって逆にまたある種のヒーローになっていくに従い、妻ミシェルの葛藤と犠牲も肥大していく過程も赤裸々に描かれているんです。
でもそこで目を見張るのはミシェルの逞しさ。元パリピ系の明るい女性は、最初NFLの有名選手の妻にはどうなの?と周囲には思われていたようですが、夫が病に冒されるという運命の前では「だからこの妻だったのか」と納得出来ます。24時間、夫の世話をしなければならない環境ながら、検査時の空き時間を利用して細かな絵を描くという楽しみを見いだし「いつかは個展を!」と夢見るなんてなかなかの根性です。自分がそんな立場に置かれたら、そんな風に夢を持てるのか? 「夫婦って何だろう」「添い遂げるってどういうことだろう」と考えたら自分自身のあり方を見つめ直したくなりました。
病気という残酷な運命を突きつけられたからこそ生まれる、スティーブの功績ミシェルの自己覚醒はある意味「救い」です。でもその「救い」も観る人によって色んなとらえ方があるはず。自分が歩んできた人生によって切り口はそれぞれだし、どこを切り取るかで自分に響く感性を改めて知ることが出来る。
自分にとって「愛する人」は誰なのか。究極の環境に置かれたらいったい誰のために生きていきたいのか。まさに人生を軽く総括できるリトマス試験紙のような映画だと言えるのではないでしょうか。
『ギフト』8/19よりテアトルシネマグループ系にて公開。