3人の主人公のどこかにあのころの自分を発見して、懐かしくなったり恥ずかしくなったりするはず
角田光代さんの本、大好きなんです。この一冊も女性の細かな心理描写、絶妙なリズム感、刺さる言葉の数々に心つかまれながらあっという間に読了。舞台となっている時代は2004年から2005年、当時35歳の女性達の話。私も15年前は35歳でしたから「確かに30代ってこんな感じだったな」といろいろな感情を思い出しながら楽しめました。
登場するのは高校時代に少女バンドで一躍有名になったという輝かしい過去を持つ3人の女性。夫が若い女と浮気をしていることを知りながら気づかないフリをしているイラストレーターのちづる。早くに結婚して母となり、自分ができなかったことを幼い娘に託し人生をやり直そうとしている麻友美。著名翻訳家の母のように非凡に生きたいと願いながら何一つうまくいかない独身の伊都子。3人は大人としての自立や成熟しているという実感を充分に得ないまま35歳という年齢に。
繰り返される日常に充実感や達成感を見いだせずにモヤモヤしています。女性は、幼い頃は可愛がられる少女であり、大人になってもある年齢までは女ということで甘やかされてきた部分が多かれ少なかれあると思います。決定することや解決することを放棄して生きてくると、なかなか「生きる手応え」を感じることは難しいのかもしれません。
3人が35歳でようやく自分の人生と向き合った時、「浮き輪に乗って漂っている」状態から「自分の手でがしがし泳ぐ」ことをしたくなるのは非常にわかります。私も「ずっと子供のままでいたい」とか「男性に甘えて生きていきたい」と思っていました。いや、いまだに思うことがあります。だって楽ちんですから。
でも仕事柄、否でも応でも自己責任で数々の決定をしなければならなかったのもあって、苦しいことがありつつも3人よりモヤモヤは少なく生きてきたのかなと思います。物語の最後に3人は、自分にまで馬鹿にされたくないから動きます。それぞれの「生きる手応え」求めて人生を変化させていく逞しい姿に胸が熱くなりました。
15年経って女性の生き方は多様化し、男女の役割分担も激変。収入のある夫と結婚して安定した人生を送るのが幸せという専業主婦神話が崩れ、時代はめまぐるしく移り変わっています。でも35歳という年齢の女性が抱く焦りや所在なさというのはあまり変わらないのかもしれません。
15年ぶりに掘り起こされた彼女たちの物語に触発され、今を生きる40代の読者の皆さんが自分の来た道や選んできたモノを棚卸しするきっかけになったら面白いなと思います。
角田さんは、あとがきで「この3人は50歳になった今、どんな風に暮らしているだろう?」と書かれています。間もなく50歳になる私も、改めて自分に馬鹿にされない人生を送るために何を選択すべきかを考えようと思います。なんなら「男性に思いっきり甘えて生きる」という選択肢だってアリですから。
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おおくぼかよこ/ ’71年、愛知県生まれ。千葉大学文学部文学科卒。’92年、幼なじみの光浦靖子と大学のお笑いサークルでコンビ「オアシズ」を結成。現在は「ゴゴスマ」 (TBS系)をはじめ、数多くのバラエティ番組、情報番組などで活躍中。女性の本音や赤裸々トークで、女性たちから絶大な支持を得ている。
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