★ 例年より、中学受験は盛り上がっている!
こんにちは。教育ジャーナリストの鳥居りんこです。
2020年度はご存知のとおりコロナ禍での中学受験でした。受験生家族の心労は計り知れないものがあったと推察しますが、それでも、中学受験者数は前年よりも増えた年となったんですよ。(群馬県を除く1都5県で約6万4千人、前年は約6万3千人。数字上は、小6生のおおよそ5人に1人が中学受験をした計算になる。エデュケーショナルネットワーク調べ。)
その理由は
①オンライン授業をはじめとしたICT教育の充実が功を奏して、非常事態宣言中であっても「学びを止めない私学」が多かったこと
②高校入試を取りやめ、完全中高一貫校に移行する私学が全国的に相次いでいること(=つまり高校からでは入れない)
③昨春より始まった高校授業料実質無料化(所得制限あり)の影響
④今現在は中高一貫校に難関大学合格実績の分があること
⑤今更、撤退できないという6年生親子の心情
などが挙げられています。
私はこれらに加えて、中高一貫校に対する保護者の期待感を感じています。
特に私学は「建学の精神」という教育理念、つまり「こういう人間に成長してもらいたい」という明確な教育方針の元に、6年間に渡る全てのプログラムが入念に組まれています。この教育理念に賛同したご家庭と共に、子ども自身が己の未来について、6年の月日をかけて、ゆっくりと考えていく時間を得られることが最大のメリット。
前回のコラムで「中学受験には『選べる幸せ』がある」と書きましたが、我が子に合っていると信じられる環境で、我が子自身が「己の道」をじっくりと選べる時間を持つことができるというのは、考えてみれば、ものすごく贅沢なことですよね。その良さが徐々に親御さんの間に認知されてきたことで「中学受験」が盛り上がっているのでしょう。これは、実際に入学した後に得られる“幸せ”です。
しかし、「中学受験」を目指している間も、その親子には実は様々な幸せが用意されています。中学受験は「子どもを勉強漬けにする虐待行為」と捉えられがちですが、もし、そうであるのならば、中学受験熱は盛り上がるどころか、衰退していくと思いませんか。
それを証拠に、中高一貫校で青春時代を過ごし親になった人たちが、我が子にも中学入試を体験させるというケースはとても多いのです。また一方で、我が子に「中学受験」を体験させた先輩親たちが、その良さを語る場面もまた多い。彼らが語る、中学受験が与える様々な「幸せのカタチ」を聞いている内に、後輩親たちも「ウチも!」と決意する循環ができているように感じます。
中学受験で感じる「幸せのカタチ」は色々あるのですが、そのひとつに「親子の成長物語」があります。ここでは今年、実際に起こった物語をちょっとだけご紹介しましょう。
将人君(仮名)はA学園を目指して3年間、彼なりに懸命に努力を重ねました。しかし、A学園1回目入試も2回目入試も不合格。それどころか、2月4日の時点で全落ちという最悪な結果だったそうです。泣いて泣いて、気落ちする将人君に親もかける言葉を失ったといいます。
残すはA学園3回目の最終入試のみ。ご承知のとおり、後半日程になればなるほど、同じ学校でも難易度はアップします。親はここで「明日は確実に合格が狙える学校」の受験を勧めたそうですが、将人君はキッパリとこう言い切ったそうです。
「A学園を受けさせてください。僕の中学受験はまだ終わってないから!」
お母さんは「もう、この言葉を聞けただけで、受験やって良かった」と思ったそうです。
未熟児として生まれ、体も決して丈夫とはいえなかった泣き虫将人君。最後のA学園入試に挑む我が子の背中を見送りながら、「この子はもう何があっても大丈夫」と確信できたといいます。
結果は見事な合格。A学園の先生が満面の笑みで「よく頑張った!」と称えてくれたので、お母さんはその場で泣き崩れたと聞きました。
12歳の受験は過酷です。努力が必ず実るとも限りません。しかし、自分の意見を表現することも苦手だったという将人君が自分の意思で己の道を決めたように、我が子が成長する“その瞬間”を見ることができるのも中学受験です。我が子の成長こそが親の最大の喜び。
それと同時に、親である私たちも成長しています。将人君の親御さんのように「心配でたまらないけれども、最後は子どもを信じて任せる」。
今年も、このように沢山の「いい受験」を聴かせてもらい“幸せのお裾分け”を頂いている次第。私は中学受験は「子離れの儀式」としてもいいものだなぁと思っています。
次回のテーマは「中高一貫校は思春期を過ごすのにうってつけの場所」4/15(木)配信予定です。
鳥居りんこ・・・作家、教育・介護ジャーナリスト
2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。
その後シリーズ化され、悩める保護者から“中学受験のバイブル”と評され、中学受験を辛かった思い出ではなく、子どもとの絆を感じられ、子育てが楽しくなる内容に、心救われ涙する保護者が続出しました。
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構成/加藤景子 イラスト/村澤綾香