山本英里さん(46歳・東京都在住) 公益社団法人シャンティ国際ボランティア会事務局長兼 アフガニスタン事務所所長
読み書きができない。 教育が受けられない。
――そこから始まる負の連鎖を 断ち切ることが大切です
「学ばなければ、人を殺すことも、戦争に参加することが問題と知ることもできない」と語る山本英里さん。,19年、貧困地域での教育・文化支援事業や国内外での緊急人道支援も行う、シャンティ国際ボランティア会事務局長に就任されました。
,01年にインターンとして同会での活動を開始。入職以降、タイ、アフガニスタン、パキスタン、ミャンマー難民キャンプ、カンボジア、ネパールに赴き、現地でのさまざまな支援に携わってきました。中でも、,02年から6年間滞在したアフガニスタンでの活動は貴重な経験だったと言います。「現地へは当時の赴任先タイから直接入りました。忘れられ、悲惨な状況下で生きる子ども達を目にし、ショックだったことを覚えています」。
訪れる前まではアフガニスタンのことは知らなかった山本さんに対し、現地の人達が日本のことをよく知っていることに驚いたそう。「日本で目にするアフガニスタンの映像は戦争や内戦の映像が多く、映画では悪者として扱われがち。でもふたを開けてみれば、全然そうではない。むしろ日本人と通ずるものがあって、笑いのツボなんかも一緒なんですよ(笑)」。広い世界の中の遠い国の見知らぬ人たちと、実際に会話をして交流することで縮まる距離。しかし、彼らを取り巻く環境は日本とは大きく違います。「既に30年以上も続く紛争下の中、彼らに〝平和〟とは? と問うても、実際にどんな状態か経験したことがなく、想像することすら容易ではありません。また、子ども達は学びの場所を失い、同時にコミュニケーション能力や共感力、想像力を得る場所や機会も奪われてしまっているのです」。
そこで考えた支援の一つが、子どもたちを学校に通わせるための環境整備でした。「現地で学校は内戦時代に戦闘基地に使用され、校舎が残っていない状態。学びたくても学べる場所ではなかったのです」。しかし、子ども達は一家の重要な働き手。少しの時間でも学校に行くことすら難しく、山本さんたちの構想は厳しい現実に阻まれます。「次に考えたのは、自分の都合に合わせ、少しの時間でも立ち寄ることができる場所。図書館の設立でした」。
最初に設立された図書館には、窓もきちんと締まらない土壁作りの小さな民家が使用されました。本棚を知らない現地職員に写真でどんなものかを説明し製作してもらい、50冊ほどの絵本や本が置かれました。「開館初日には子どもが押し寄せ、中に入りきらない状態に! すごく嬉しかったです。環境や機会が乏しい紛争下では本や絵本の中で出会う人や動物、彼らを通して得る様々な経験は子どもたちには貴重です。それらが情緒を育み、心の成長に大きな役割を果たしてくれるのです」。
図書館設立にあたり、山本さんが一番苦労したのは、コミュニティーに掛け合うという作業。「まずは、図書館に置く絵本の選定です。内容のみならず、絵に対して長年閉鎖された国の中で根付いた、文化宗教的な独自の考えを持つ人々が違和感を持つ可能性がありました。案の定、絵本の中の女の子に対して『スカートから足が見えすぎている』という意見が。地域の長老や宗教リーダーの理解を得ることには、多くの時間を費やしました」。
多様な課題を乗り越え建設された「子ども図書館」。アフガニスタンで受け入れられたことで、現在では学校校舎に図書室も含む方向へと支援の形は発展していきました。
さまざまな地域での支援活動を終え、’15年に日本に帰国。現在は東京事務所から各地域の活動を支えています。
「これからも平和な社会を目指すため、私たちにできる支援を継続していきたいと思っています。一冊の本から希望を見いだした子ども達が自らの未来を切り開いていくため。そして、すべての子ども達が教育の機会を得られ、安心して眠ることができるために」。