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読みたくないのに読んでしまう…読み手の暗部をゴン攻め、 グイグイ突いてくる|大久保佳代子のあけすけ書評

イッちゃってる金原ワールド全開。 強炭酸な過激&刺激でヒリヒリします

ステイホーム時間が長くなり、マンネリ気味だなと閉塞感を感じている日常に強炭酸級の刺激が得られる一冊です。著者の芥川賞受賞作『蛇にピアス』を読んだ時の衝撃もかなりのものでしたが、今回の最新作も人間の弱さと深部をえぐるような痛々しさ、さらに生々しい官能描写が満載でかなり高カロリーです。

描かれているのは、コロナ禍でより人との繫がりが淡泊になる風潮と逆行するように、自分の欲望と執着を持て余し、自分自身も人間関係もグチャグチャに壊れていく5人の女性たちのお話

タイトル通り激しくアンソーシャルディスタンスです。それぞれの主人公が大学生から35歳くらいの年齢で、かつ何かに過剰な依存をしているので「分かる、そうだよね」という共感できる気持ち良さは、さほどありません。とは言え「20代の時は多少こうだったかも」とか「状況次第では、多かれ少なかれなり得るのかも」と思わされる部分もあり、自分の中にある小さな闇を拡大して暴かれているようで読み進めるのがしんどかったりもします。破壊的で独特な表現力と冷酷で執拗、緻密な描写に唸らされ、徐々に「読みたくないのに読んでしまう」という中毒性も。

5つの短編の中で最も理解できたのが、お酒に溺れていく「ストロングゼロ」。心を病んだイケメン彼氏との同棲に疲れ果て、仕事中もストロングゼロを飲まずに はいられなくなる女性の話。コンビニのアイスコーヒー用の氷入りカップにストロングゼロを入れて会社で炭酸水と偽って飲むなんて。謎の爽快感と「下には下がいる」という妙な安心感を与えてもらいました。現実とクリアな状態で向き合うのを避けたい、意識をぼんやりさせ思考を停止させたいから飲むって気持ち、非常に分かります。酒が好きっていうより酔いたいから飲むんです。

また11歳年下男子とつきあうことになりアンチエイジングにハマってしまい、顔のバグ修正スパイラルに落ちていく「デバッガー」も、今後あり得るかもしれないと興味深く読めました。一度 整形を始めたらどんどん加速し、手段が目的になっていく恐ろしさは想像できます。

どの短編も〝何かに過度に依存〞し狂っていく人間のお話。それがアルコールだったり、整形、承認欲求、あるいは共依存、位置情報共有アプリだったり。そしてどの主人公もSEXという行為で生きている実感、自己肯定感を得ようとしているのがこれまた切ない。SEXという他者との最も濃密な交わりで、埋めようとするけれど埋まらない空虚さや孤独、絶望。それらを臆せずガツンとぶつけてくるので、受ける方はまずまずしんどくなります

50歳の私には、主人公たちのややこしい激情が若さからくるのか、そういう人種なのかはよく分かりませんが、「生」と「性」を求める生々しさと情熱はストロング級の刺激です。長引くステイホーム、たまにはアリです。

『アンソーシャル ディスタンス』 金原ひとみ 著 新潮社 ¥1,870 SEXやアルコール、整形など何かに依存せずにはいられない人間のヒリヒリするほど苦しく、不器用な生き方が読む人自身の見たくない闇を突いてえぐってくるような短編5編。商品の詳細はこちら(アマゾン)


おおくぼかよこ/’71年、愛知県生まれ。千葉大学文学部文学科卒。’92年、幼なじみの光浦靖子と大学のお笑いサークルでコンビ「オアシズ」を結成。現在は「ゴゴスマ」(TBS系)をはじめ、数多くのバラエティ番組、情報番組などで活躍中。女性の本音や赤裸々トークで、女性たちから絶大な支持を得ている。2021年9月10日公開予定の映画『浜の朝日の嘘つきどもと』 に出演する。 

撮影/田頭拓人 取材/柏崎恵理 ※情報は2021年10月号掲載時のものです。

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