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ジェンダーレスモデル井手上漠さん「獏は獏のままでいいからね」。母のこの言葉で、怖いものがなくなりました

人と自分を比較したり、人と違うことを悩んだり、承認欲求を満たしたり……。SNSが発達している今、子どもたちは自分の存在価値を見いだしづらくなっています。自分がかけがえのない存在だと認め、失敗を恐れず前向きに進む子どもを育てるには? ジェンダーレスモデル井手上漠さんが今の自分を肯定できるようになったのは、”お母さんからの言葉”にありました。

井手上 漠(いでがみ ばく)さん 2003年1月20日生まれ、18歳。高1で第31回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでDDセルフプロデュース賞を受賞。現在はモデル、タレントとして多方面で活躍。

何でも話せる関係性を生んだ 「母からの悩み相談」

高校卒業後に上京するまで、島根県の隠岐の島で育ちました。家族は母と1歳上の姉、私の3人。父がいなくても寂しさを感じなかったのは、母が父と母2人分の強さと愛で育ててくれたからだと思います。母は器が大きくて、一言で言うならハンサムな人。私が3歳で初めて見たウェディングドレスに一目惚れして、可愛いものに惹かれるようになった時、周りから否定的な声があっても、母だけは味方だった。誕生日にねだったリカちゃん人形を買ってくれたり、私の趣味を何も言わず見守ってくれました。母は働いていたので忙しかったけれど、毎日ご飯は3人で話しながら食べていました。友達には躊躇する学校の愚痴も家族になら言えたし、母もまるで同世代の友達に話すかのように仕事の悩みを相談してくれた。そんな食事の時間が私はすごく好きでした。家族なんだけど友達のように何でも話せる関係性が私たち家族の形でした。

母を悲しませたくない。 だから言えなかった

母に唯一言えない悩みが出たのが小5の時。高学年になると体の発達から着替えなどで男女に分けられる機会が増えます。当時の私は髪の毛を肩まで伸ばして、毎日遊ぶのも趣味の合う女の子。着替えでは男の子に分けられる私の見た目や仕草に違和感を覚えた男の子から「気持ち悪くない?」と言われて……。初めて〈自分はおかしいのかな〉と考えるようになりました。性別に関して無知すぎて、自分の違和感は体に何か腫瘍があったり、何か臓器が欠けているからなのかもと疑ったりして。自分で自分自身がわからなくて怖かったです。この違和感を母に言っても変わらない気がしたし、「自分の産んだ子がこんな子だった」と母を悲しませたら……と思うと、打ち明けることができませんでした。この出来事から私は髪の毛を切って服装も変えて、男の子っぽく装うようになりました。心から楽しいと思えることがない生活は、想像以上に辛かったですね。今でも怖いけど、この時に1人で生きていかなければいけないと感じた孤独感や絶望感は今より何倍も怖かったです。

「隠していることない?」の 一言から始まった人生の大逆転

中2の時、帰宅すると母に「隠していることない?」と部屋に呼ばれて……。その後、「恋愛対象はどっち?」と聞かれました。中学生になると自分なりに性別について調べて大体恋愛対象でLGBTのどれに当てはまるかわかるんです。どう聞けば私を傷つけないか、母も調べて聞いたと思うけど、いきなり核心をつく質問だったので、私は言葉が出ませんでした。〈これまでの葛藤を打ち明けたら、母は喜ぶだろうか、悲しむだろうか〉。迷った結果、打ち明けることを決意しました。打ち明ける怖さと、母が知ろうとしてくれる嬉しさ。〈一言じゃ説明できない〉。涙が溢れてきました。男の子も女の子も好きになることがあって恋愛対象はわからないこと、そんなわからない自分が怖いこと、小5の学校での出来事から今に至るまで母にすべてを打ち明けました。
母は5分ほど考えて「そっか。漠は漠のままでいいからね」と言葉をかけてくれたんです。母も声が震えていたので、泣いていたんじゃないかな。翌朝起きると普段どおりに机にご飯が並び「早く食べなさいよ」と日常に戻っていました。私はちょっと気まずかったけど、母は普段喧嘩しても普通に戻っちゃうんですよね。

悩んでいたのは私だけじゃない 初めて知った母の葛藤

あの日以来、私には怖いものがなくなりました。母が味方で、家に帰ればなんだって打ち明けられる。それだけで私は無敵でした。我慢していた大好きなメークやファッションにチャレンジし始めるとプラス思考になって、気づけば人と関わることが怖くなくなっていました。私が楽しそうにしていると、偏見で見ていた子も寄り添ってくれて、周りの目は自分次第で変わるんだと気づきました。もっと挑戦しようと当時の葛藤をテーマにした作文で弁論大会の全国大会や、ジュノン・スーパーボーイコンテストに出場して、それが今の活動につながっている。母のあの一言がなければ、今の私はありません。最近、私が出版した本の感想を母がLINEで送ってきたんです。「ドーンと構えて何があっても大丈夫、ってタイプのお母さんでやってきたけど、18年間正解がわからず、何が正しいかどうしたら良いか、ずっと悩み続けてきました。普通だったらどんなに漠は幸せだっただろう、お母さんのせいなんじゃないか……考えても考えても出ない答えを探す日々でした」と。母も悩んでいたことを初めて知りました。そんな葛藤の末に「漠の幸せは、漠がありのままに生きていくことだ」と中2の時に言葉に託してくれた。LINE嫌いな母が当時の思いを長文で伝えてくれて、外出先でLINEを読んで、まんまと泣かされましたよね。当時は苦しかったけど今は乗り越えた。母が私を産んでくれなければ、こういう心の問題を抱えることも克服することもできなかったので、母には本当に感謝しています。

撮影/森脇裕介 ヘア・メーク/奥戸彩子 スタイリスト/鈴江英夫 取材/竹永久美子、小菅祥江 井手上さん衣装:シャツ¥19,800〈Y.A.Bera〉ジャケット+ジャンパースカートのセット¥61,600 水色スウェットベスト¥66,000〈ともにMAISONALTERNATIVE〉(すべてHEMTPR)ネックレス¥28,600 右手中指のシルバーリング¥15,400 左手人差し指のシルバーリング¥19,800(すべてe.m./e.m.表参道店)ブーツはスタイリスト私物  情報はSTORY11月号に掲載時のものです。

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