「実は楽しい中学受験」シリーズ、様々な角度から中学受験を綴っております。そろそろ、時は中学受験本番。今回から、受験直前の注意事項をいくつか語ってみることにしましょう。
心配なことに、今年度の中学入試もコロナ禍の中での本番となりそうです。もちろん、すべての学校が昨年の経験を踏まえ、万全な対策で準備を進めている最中なのですが、それはそれとして、ママたちは、受験生本人は当然のこと、家族も含めた体調管理という重いノルマを背負っているようなものですので、その重圧、いかほどかとお察しいたします。
日本の受験は1年の中でも一番寒い気候の中で行われています。コロナウイルスだけでなく、インフルエンザ、ノロウイルスも心配の種ですが、季節的には忘年会、クリスマス、年末年始、新年会と世間ではイベントが続きやすい時期を経ての受験本番というスケジュールになります。
コロナがまだない時代であっても、この体調管理という課題は親を悩ますものだったのですが、この未知のウイルスとの共存を強いられる年の受験は「何の因果で…」となりますよね…。
こういう“非常事態”の時こそ、家族一丸となって体調管理も含めた受験対策をしていきたいものなのですが、意外と足を引っ張ってくださるのが「パパ」という存在。
昨年度、こんなケースがありました。
佐藤家(仮名)は会社員である寛さん(仮名)、専業主婦の明奈さん(仮名)、当時、小学6年生だった智樹君(仮名)と当時、小学2年生だった次男の4人家族です。
寛さんのお仕事は、平日は接待、土日はゴルフというものでスケジュールが埋まることが多いものだそうで、家事や子育てのすべては明奈さんのワンオペで行われてきたそうです。
「受験期間中、すごく止めて欲しかったのは、子育てに無関心の癖に、主人は気が向くと智樹の勉強態度だけを見て説教を始めたりすることでした。『そんな態度じゃ、ロクな学校には受からない』とか『高い学費を払う価値もない学校だったら、即、公立』って感じです。
智樹は父親にそういうことを言われる度に意欲をなくしていくようで、私はもう本当に主人には逆に『帰って来てくれるな!』とまで思っていましたね…」と明奈さん。
寛さんは県立王国と呼ばれている地方の出身。公立高校から東京の私立大学を卒業し就職。そのまま首都圏住まいということです。
一方の明奈さんは東京出身で中学から大学附属校に進学。そのまま併設大学に推薦で合格し、社内恋愛の末に寛さんと結婚したという経歴を持ちます。
明奈さんはのんびりとした智樹君には大学附属校の方が合うと思い中学受験を選択。夫の寛さんは「子育てはすべて妻に丸投げ」(明奈さん談)の方針のようで、「中学受験はどっちでもいい」派だったようです。
「今思えば、私たち夫婦には話し合いが全然、足りてなかったんですよね…。授かり婚ってこともありますが、互いの人生観とか、子育ての共通理念なんていう話し合いをしたこともなく、主人はただただ仕事に猛進。私は子育てで精一杯って感じでしたから…」
私は常々「中学受験は夫婦の今後を占う試金石」と呼んでいるのですが、ここを一致団結して乗り越えていった夫婦は互いの愛情が深まりますし、逆に反応する場合も多いものだよなぁと思っております。
それほどまでに、たかが受験なのですが、夫婦の価値観の相違が如実に出てしまう「人生の一大事」になりやすいものが“中学受験”なのですね。
更に、コロナ禍が明奈さん夫婦に襲いかかります。
「私は元々、喘息持ちなので、コロナウイルスは恐怖でしかないんです。それに似たのか、智樹も呼吸器系が弱いんですよね。智樹には、これまで、風邪を引くと肺炎にまで移行してしまうという苦い経験が数回ありまして、受験を控えていた私は相当、ナーバスになっていました」
当然のことながら、コロナ禍となって以来、明奈さんは考えられるあらゆる予防に努めたそうです。うがい、手洗い、消毒…。それこそ「除菌命!」というほどの毎日を過ごしていたようです。
「でもね、一生懸命なのは私だけなんですよね。子どもたちには何とかやらせることは出来ていたんですが、主人がもうダメ。コロナ関係なく『個室で少人数だから安心』『ゴルフは外だから問題ない』という理由で、生活態度を変えようとはしなかったんです。
オマケに『オマエは神経質すぎる!』という理由で、帰宅時に手を洗うことも拒否されたこともあります…」
幸いにして、智樹君は第一志望校の大学附属校に合格し、中学生活にも慣れ、楽しく通学しているということですが、明奈さんの思いはまた別にあるようです。
「智樹の受験生活で思い知りました。『ああ、主人は家族の命はどうでもいいんだな』って思った瞬間にすべてが崩れましたね。今は無理ですが、下の子が大学に入った時点で、離婚しようと思います。それまで、主人はATMなんだと思うようにします。
コロナの中の受験じゃなかったら、また変わっていたかもしれませんが、でも、主人の本性が分かったから、逆によかったです」
中学受験は強制ではなく、やりたい人だけがやればいい受験です。しかし、受験生はまだ小学生なので、親のサポートは必須。もちろん、時間もお金も膨大にかかります。元々、お気楽に参戦するようなものではないのです。
できれば、受験を決意する前に、ベストとは呼べないまでも、我が子にとって、より良い環境はどこで過ごすことなのかという視点から、夫婦で教育方針を擦り合わせる努力をして欲しいと願っています。
結果のいかんにかかわらず、「家族で素晴らしい体験をさせてもらった」という思いになれれば、それは家族仲にも好循環をもたらします。
もし、今、これをお読みの中学受験パパがいらしたら、このコロナ禍でナーバスになっているママを支えてあげて頂きたいです。家庭内でできる予防には、引き続き、パパも協力しながら感染防止に努めてくださいね。
鳥居りんこ・・・作家、教育・介護ジャーナリスト
2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。
その後シリーズ化され、悩める保護者から“中学受験のバイブル”と評され、中学受験を辛かった思い出ではなく、子どもとの絆を感じられ、子育てが楽しくなる内容に、心救われ涙する保護者が続出しました。
ブログ:湘南オバちゃんクラブ https://note.com/torinko
Facebook: 鳥居りんこ: https://www.facebook.com/rinko.torii
構成/加藤景子 イラスト/村澤綾香