「実は楽しい中学受験」シリーズ、様々な角度から中学受験を綴っております。東京・神奈川の中学受験生にとっては、運命の2月1日目前です。
あ~、ホント、今、辛いでしょう? 母にとっては「生きた心地もしない」日々ですもん。母の頭の中はすべて「受験本番」のプレッシャーに覆われていると言っても過言ではない状態。本番を前に心のシーソーは「まだ、来ないで!」と「もう、サッサと終わらせてしまいたい!」の間で激しく揺れ動いているかと思います。
母は、こと我が子に関しては過剰なほど「心配症」に陥る生き物ですので、「良くない未来」を想像しては落ち着かなくなる。これは、もう「そういうもの」なので、あなたが変だからでも、弱いからでもありません。敢えて言えば「母だからこそ」の憂いですね。
ただ、人間、落ち着かなくなると、どうにか解決策を求めて「何かしないといけないのでは?病」にかかりやすくはなります。
以前、本番1週間前に息子さんの「弱点」を補強しようとしたお母さんがおりました。焦りのあまり、新たな問題集を買って来て、解かせようと必死になっていらしたんですが、息子さんの自信を失くすだけの結果になりました。
レアケースではありますが、不安のあまり、本番直前に、このような暴挙に出る母(父)もいないわけではありません。このように、冷静な時には決して起こさない行動が出ちゃったりするのが、我が子の受験の怖さでもあります。
特に、この直前期からは、これまで全くチャレンジしてこなかったことを突然、始めるようなことはお勧めしません。
例えば、いつも以上に過剰に家族に除菌を強要するとか、23時台まで勉強していた子を朝型にせねば!と焦って、無理矢理21時前に寝かせようとするとか・・・。今まで、それで滞りなく回っていたルーティンを突如、一気に崩すと、それに心と体が慣れるのに時間がかかるので、良かれと思うことも逆に作用しやすいということがあるんですね。
さらに、識者の先生方がよく「受験本番前後こそ、母は女優に!」ということをおっしゃいます。例え、苦しくとも、辛くとも、子どもの前では笑顔でいろ!って意味なんですが、それはそのとおりで、女優業を貫けるのならば、貫くに越したことはない。
しかしです。私たちは母だからというだけの理由で、なったこともない女優にいきなりなれるなんて“技”は持ち合わせてないんですよ、実際。
「早くしなさい!」「何時だと思ってるの!?」「やる気あるの!?」と、この長きに及んだ受験生活の日々、怒りまくっていた母が突然、天女のようにやさしい笑みを浮かべたとしても、子どもにとっては余計に「怖い」だけです。そんなことは考えなくていいです。
もうね、直前期で大切なことは「淡々と」ということだけなんです。
この時期、塾では壮行会なども開かれ、受験生の周りは「気合い」と「緊張感」の一色に包まれます。生まれてはじめて経験するであろう“空気”に、お子さんは少なからずナーバスになっていることが普通です。それを平常心に近い状態にするためには、親子で今までのルーティンを淡々とこなすことを優先させた方が有益です。
今までどおり、お子さんは、その日の学習スケジュールに従って行動する。お母さんは、今までどおり、そのスケジュール進行が、食事・入浴・就寝・起床に至るまで、スムースにいくように後方部隊に回ることに徹する。
要は、言葉かけも含め、何か突飛なことをするというよりも、淡々と今までと同じように暮らしを回していくということに重きを置いた方が、お子さんはこれまで培ってきた力が普通に発揮できますし、お母さんの心も落ち着きます。
それでも、不安な気持ちは繰り返し、母の心を襲ってくるでしょう。
そういう時にお勧めな方法は“神頼み”ですね。
お掃除ついでにトイレの神様に祈るでもいいですし、合格祈願のお守りを拝むでもいいですし、お日様に向かって挨拶するでもいいですし、自らの内なる神様に「頼る」ことはとても良いことだと思います。
その際、当然「合格」をお願いしているとは思いますが、一番、感じていただきたいことは「この幸運に感謝」です。
中学受験は誰しもに与えられる経験ではありません。とりあえず世の中が平和で、家族が健康で、経済的にも比較的恵まれており、何より、あなたのお子さんが「中学受験をする!」と決意し、勉強をやり続けてきたからこその“今”があります。
数々の幸運がなければ、この地点に立つことすらも出来なかったということに思いを馳せてください。それが「合否の不安」に引っ張られそうな自分の心を落ち着かせることになりますから、やってみてくださいね。
2月1日の朝、あなたは志望校の校舎に吸い込まれていく我が子の背中を見送ることになります。
そして、その時、お腹にいる時からずっと一緒だった我が子が母から離れ、たった一人で戦いの場に自らの足で向かう姿を目で追っていることでしょう。
あなたが一生懸命、育ててきたからこそ、今、「自分の道は自分で拓く」というお子さんがここにいます。
中学受験は「巣立ちの一歩」です。母として一生忘れられない2月1日の朝を目に焼き付けてくださいね。ご武運を祈っています。
鳥居りんこ・・・作家、教育・介護ジャーナリスト
2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。
その後シリーズ化され、悩める保護者から“中学受験のバイブル”と評され、中学受験を辛かった思い出ではなく、子どもとの絆を感じられ、子育てが楽しくなる内容に、心救われ涙する保護者が続出しました。
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構成/加藤景子 イラスト/村澤綾香