パワハラ防止法が義務化され、ますます必要になる私たちのコミュニケーション能力。「自分が若手社員の頃とは時代が変わった」と痛感することも増えた社内において、令和の後輩たちは、上司のこんな矛盾した発言や、時代錯誤な考え方に疑問を抱いているよう。あなたは大丈夫?
【教えてくださったのは、『言いかえ図鑑』の著者・大野萌子先生】
●後輩voice1
「やる気あるなら休日も出勤するよね?俺の時はそうだったよ」と言われる。
ベンチャーIT/男性 28歳
大野先生からのアドバイス 比較、非難、批判、否定は上司としてやってはいけない4つのポイントです。「俺の時は休日にも出勤していたよ」という言葉、これは比較にあたるのでNG。また、前半部分のように「?」で終わる表現は、相手を責めているように感じられることもあるので、注意が必要です。
●後輩voice2
「報連相して」というくせに、いざ報告すると「それ知ってる。」ってどういうこと⁉
飲料メーカー/女性 25歳
大野先生からのアドバイス 会話はキャッチボールのように進めるとスムーズです。キャッチボールは一度ボールを受け止めますよね。この上司の言い方はキャッチボールではなく、ラリーになっていて、バシーンと打ち返してしまっていることが問題です。上司としては相手の言葉を一度受け止めることを心掛けてください。
●後輩voice3
「人に聞くな、失敗して学べ」という風潮もあって、本当にわからないことでも聞きにくい。
上司が「新卒は質問しすぎ」と裏でネチネチ言っている。質問が多くなるのは、調べても分からないことを詳しく教えてくれない人がいたり、人によって教え方が違ったりするからなのに…。
出版社/女性 24歳
大野先生からのアドバイス 「失敗して学ぶこともあるよね」などの相手に寄り添った声掛けはいいけれど、「失敗して学べ」はハラスメントです。相手がわかるように、できるように指導するのが今の上司の役目。「仕事は見て覚えろ」、「技は盗め」という考え方は終身雇用制度が定着していた時代の話であり、時代錯誤です。
●後輩voice4
「報連相を細かくして」と言っていた上司から「もっとある程度まとめてから報告して」と言われて「え??」と思った。
またある時は、提出資料の中に、一応使うかもしれないと思って予備データを入れておいたら「余計な仕事は時間の無駄」と言われてしょげた。
出版社/男性 26歳
大野先生からのアドバイス この上司は「ダブルバインド」していますね。日本語では「二重拘束」といい、2つの矛盾する命令をすることです。相反する要求はしないようにしましょう。また、「無駄」は否定になるのでNGです。比較、非難、批判、否定の4つのポイントは上司としてやってはいけないということを心に留めておいてください。
●後輩voice5
女性上司のモテマウント。
週3くらい女上司と強制的な飲み(しかも割り勘)をさせられ、さらには毎回上司を送ることが当たり前に。その女上司に、取引先からのセクハラについて報告したら「私なんてこんなことがあったわよ」って…。逆に男性上司の方が気遣ってくれています。
ベンチャー広告/女性 24歳
大野先生からのアドバイス 実はハラスメントは同性同士も多く、女性の敵は女性だったりするようです。この上司の場合、断れないような雰囲気を出していることや、有無を言わさない関係性にしているところが良くないですね。そのような関係であればなおさら、相手の意向を丁寧に確認しなければいけません。ただ、「仕事中に言うほどのことではないけど、話したい」や、「体験談を聞いてみたい」といった後輩側の意見もあるので、先輩の自慢話を延々されるような一方的な飲み会ではなく、双方向コミュニケーションをとることができる場にすることが、先輩としてやるべきことです。
●後輩voice6
「挨拶は社会人の基本」と言っているが、挨拶をしても答えてくれない。
「報連相は大切」と言うので、細かく報告しに行っているが自分の作業を止めず、目も合わせず「うん、うん」としか言わない。こんな上司って…?
メーカー/女性 25歳
大野先生からのアドバイス 挨拶を返さない、無視するなどは、もはやモラハラです。後輩側としては名前を呼び掛けて、「〇〇さん、おはようございます」と言ってみてはいかがでしょうか。上司も忙しいでしょうから、話をしている間ずっと目を見て話を聞く必要はありませんが、声を掛けられたら、一瞬でもいいので目を合わせましょう。
●後輩voice7
飲み会にいない女性社員の容姿の悪口を言う上司。
容姿に対するルッキズム的発言や「○○はメンタルが弱い」などの精神論は今の時代には合っていないと思うのですが…。
銀行/24歳 男性
大野先生からのアドバイス 身体的特徴を面白おかしく話題に取り上げたり、容姿を評価したりするのはタブーです。特に体型についての話題はハラスメントになりやすいので避けた方がいいでしょう。「髪を切った」などの外見について言いたい場合は、評価するのではなく、変化に気づいたことだけを伝えましょう。もし陰口を言うのであれば、本人に絶対に届かない関係の人の前でだけにしてください。
今年の4月1日から、すべての事業主に「パワハラ防止法」が義務化されます。「上司の言うことは絶対」や、強制、抑圧されるといった雰囲気は昔のものです。自分たちが昔ハラスメントをされたからと言って、後輩にしていいということにはならず、相互理解が重要です。日本の察する文化や、「言わなくてもわかりなさいよ」という考え方は通用しないのが今。自分が明確と思うような言葉も、じつは曖昧な場合もあるので、私たちも具体的で明確な言葉を介したコミュニケーションを学ぶことが大切です。思いがけない言葉が比較、非難、批判、否定につながることもあるので注意が必要です。年齢、性別、世代などを引き合いに出す発言はしないようにしましょう。
イラスト/二階堂ちはる 取材/片岡かこ
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