今、58歳の私は「乙女オバさん」
40代、その年齢は、今のあなたにフィットしていますか?
私も、58歳になった今、イメージしていた50代って、こんなだっけ? と自分の中でものすごくギャップがあるんです。
50代って、もっともっと大人だと思ってた。
年齢的には、もちろんオバサンだけど、まだまだ少女のように夢見がちな心もある。そんな今の自分は、まさに「乙女オバさん」。それで、先日出したエッセイ本のタイトルも、「乙女オバさん」としました。
変化を楽しんで、自称“○○歳”でいい
実年齢以上に大切なのは心持ちの問題で、言ってみれば独自の年齢設定でいいんじゃないかと思うんです。年齢を重ねることは、老化ではありません、進化です。老化とか、劣化とかいう言葉を使うと、「若いほうが良し」とする価値観に陥ってしまいます。その価値観を自分で変えていけば、寄る年波も怖くない。変化していくことを楽しむことです。
むしろ、ずっと同じ自分でいるほうが不自然。
そして、変化がない人生ほどつまらないものはありません。
私は、裸眼が2.0だったけれど、老眼が始まり、眼が見えないってこんな不便なの? と初めて知りました。新聞など細かい文字を見るときに、「メガネ、メガネ……」と、探している自分も、コントのようで面白い。そう、先日は、息子夫婦に「私のメガネ知らない?」と聞いたら、ニットの胸元にフレームを引っ掛けているメガネを指さされて、「そこっ!」と指さし突っ込まれたっけ……(笑)。
40代からが、本当の自分の人生のスタート。
初体験、適齢期です。
私は、“本当の自分の人生”は、40代からスタートするのだと思っています。20代、30代はがむしゃらすぎて、見えないものがたくさんありました。でも、40代になるとだいぶ視野が広くなって、自分のことも知るし、他者のことも知る。それで、今まで感じられなかったことを感じられるようになるんです。私は、そういう感情をもって、57歳の大冒険、初体験をしました。
昨年の誕生日、1月20日に私は単身、カナダのバンクーバーへと旅立ちました。コロナ禍でリモートオーディションを重ね、ようやく出演決定のオファーをいただいたアップルTV制作のドラマの撮影のためです。ドラマ『パチンコ』は、在日韓国人を描いたファミリーヒストリーで、自身のファミリーヒストリーとも重なり、運命を感じずにはいられませんでした。しかしながら、37年女優をしているとはいえ、「Kaho?」と現場では私のことなんて誰も知らない。50代の新人にして、英語も下手っぴ。でも、やればやっただけ、自分の足りないところがわかり、自分の勇気を測り知ることができる。現場の中でお互いの信頼関係を築き、スタッフが自分を認めてくれる喜びを感じる――それは、すごくシンプルで、人間的な時間で……。改めて、仕事をする意味を再発見しました。そう、人生って、思う方向にしか進まないんです。
一歩踏み出せば、宝のような出会いも待っている
57歳の大冒険は、新しい出会いもありました。『パチンコ』で共演した、韓国映画界を代表する女優、ユン・ジョンさんには、よく「ご飯を食べにいらっしゃい」と、お家に呼んでいただきました。現場ではみんな彼女をYJ(ワイジェイ)と呼び、温かな人柄の方で、私のつたない英語をふんふんと聞いてくれました。そして、一緒にご飯を食べながら、仕事を休んでアメリカで二人の子供を育てながらアメリカで10年過ごしたこと、離婚後は韓国に戻り、女優復帰したことなど、自身のストーリーを話してくださいました。ドラマの撮影を終え、私が帰国して間もなく、YJが映画『ミナリ』で第93回アカデミー賞助演女優賞に輝いたニュースに、家族のように嬉しかったのを覚えています。
こんな人生のお手本となるような先輩が得られたのも、初体験に飛び込んだご褒美です。
YJは、とてもユーモアがある方でしたが、私が人生の師と仰ぐ瀬戸内寂聴先生も、とても面白い方でした。健康的な笑顔やお話の面白さに、お会いするたびに心惹かれました。そして、まだ先に続く人生の中、私も、先輩たちのように、面白い人になりたい! そう思うのです。
もしかしたら、「そんな出会いがあるのも、女優だからでしょ?」そう思う人もいるかもしれません。
でも、私にとってこの5年はすごく長かった――。乳がん、離婚、うつ病……。ネガティブワードのてんこ盛りだった私が、目の前にあることを一つ一つやっていたら、バンクーバーに行きついたのです。オーディションはとても長く、落ちたオーディションだってたくさん。宝くじに当選するような確率の手探りの中、唯一拾ってもらったのが、『パチンコ』というドラマでした。そして、こんな挑戦ができたのも、離婚して一人になったからこそ。そう思うと、人生って、かなり面白いと思いませんか!?
50歳を過ぎたって、折り返し地点はなく
真っ直ぐとまだ見ぬ景色が続く――
人生100年時代、50歳になる前は、箱根駅伝のように、往路と復路を分ける折り返し地点があるものだと思っていました。でも、50歳になってみたら、折り返し地点なんてどこにもなくて、下るどころか人生ずっと面白い。こうやって、最後まで新しい景色が続くんです。
40代なんて、まだまだ見たことのない景色だらけ。日々の葛藤は、そのためのバネ。だから、人と比べることなんてせず、自分にとって心地いい人生を楽しんでくださいね。
ブラウス¥44,000(参考価格)スカート¥52,800ベルト¥35,200(すべてサポートサーフェス)イヤリング¥24,200イヤリングチャーム¥19,800リング¥41,800(すべてアガット)靴/スタイリスト私物
撮影/沼尾翔平 ヘアメーク/黒田啓蔵 スタイリスト/坂本久仁子
取材・文/河合由樹
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