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藤代冥砂さん写真集「NOW&THEN」いま、手に取りたい。家族の原点を思い出させてくれる一冊

 

見ているだけで、ほのぼのとした温かい気持ちになれる写真集が発売されました。撮影者は藤代冥砂さん。奥様である、モデルの田辺あゆみさんの日常を描写した『もう家に帰ろう』など、さまざまな写真集を世に送り出してきた、藤代さんに、この一冊に込めた思いを語っていただきました。

藤代冥砂さん fujishiro meisa 1967年千葉県生まれ。女性、聖地、旅、自然をメインにエンターテインメントとアートを横断した作品を発表。写真集に『ライド ライド ライド』、妻の田辺あゆみを撮った『もう、家に帰ろう』など多数。「新潮ムック 月刊シリーズ」で第34回講談社出版文化賞写真賞受賞。小説家として『誰も死なない恋愛小説』『ドライブ』などを発表し、近年は詩作にも取り組んでいる。

―今回出版された『NOW & THEN』を拝見しました。心がポッと温かくなるような素敵な本でした。

ありがとうございます。この本は、産前・産後のパートナーをシンプルに対比させた作品集です。結婚や出産は、すべての人がするわけではないんですが、自分たち誰もが誰かの子どもとしてこの世に生まれてきているんですよね。その意味で、誰もが当事者として見ることができる。そこに、普遍的なメッセージも含まれるかなあと。
でも、ビジュアル的には、”ビフォー・アフター”なので、一見して、伝えたいものがストレートに届くと思います。

ーこのテーマで撮ろうと思ったきっかけは?

親しい友人夫婦が赤ちゃんを授かったことです。長く不妊治療をしていたこともあって、とても喜んでいたんです。何かいいプレゼントはないかなと考えたときに、産前・産後の写真を贈ろうと思いつきました。臨月でお腹が大きくなったときと、産後1か月たって、赤ちゃんが外に出られるようになったときの2回、撮影しました。出来上がった2枚の写真を並べてみたら、すごくよかったんです。
同じ時期に、もう1組の友だちも妊娠出産を迎えたので、2度撮影したのですが、やはり並べてみたら、自分の作品なんですけれど、胸を打たれるものがあったんです。
今までいろいろな立場で、いろいろなタイプの写真集を作らせてもらってきて、数限りなく写真に対峙してきたんですが、そんな自分にも、新鮮だったし、感動があったんだから、もしかしたら、多くの人に届くメッセージが含まれているんじゃないかなと思いました。
そこで、SNSを通じて一般の方に「産前・産後の写真を撮ります」と呼びかけたんですね。すると、けっこう方々から手が挙がり、結局61組の方の写真を撮らせていただきました。

―一般の応募者さんがモデルということは、撮影は日本各地で?

ええ。自分は沖縄在住で、地元の友だちや応募者の方も撮影しましたが、北陸から、中国、四国、九州など各地に行きました。61組、必ず2回行くので、撮影は122回。
撮影場所は、それぞれ、思い入れのある場所をご自身で選んでいて、昔デートした思い出の場所だったり、お気に入りの場所だったり。デリケートな時期なので、ご自宅やご近所で、という方もいました。ただ、こだわったのは、”同じ場所で”ということです。他の要素がなるべく同じほうが、ビフォーとアフターの違いが際立ちますし、そのほうが、生まれてきたひとつの命に焦点があたりやすくなるんですね。

ーみなさんとてもリラックスした表情ですね。

写真は、鏡みたいなもので、撮影者が被写体に写るんですね。だから、こちらが緊張していると相手も緊張してしまう。初対面ですから丁寧に接しますし、お互いが心地よくいられる距離感は保ちつつも、できるだけニュートラルでいるようにしています。そうすると、相手も自然体になってくれる。
でも、2回目の撮影ともなると、こちらはもう”親戚のおじさん”みたいな気持ちになってきて。元気に健やかに育ってほしい、家族円満で笑顔の多い家庭でいてほしい、この家族にどうか不幸がありませんように、と、61回欠かさず思いました。大げさな言い方になりますが、祈るような気持ちでした。

ーご自身も、奥様、お子さんがいらっしゃるわけですが、撮影する際には、そういう視点もお持ちでしたか?

うちは子どもはもう高校生で大きいのですが、撮っていると、子どもが生まれる前に夫婦だけだったことや、妻のお腹が大きかったころ、子どもが小さかったころとかを思い出して、重ねることもありましたね。
家族の出発点って夫婦ふたりですよね。この写真集では、ビフォーがすでに、3人家族とか4人家族の方もいるんですが、例えば大家族になった人でも、最初は2人だった。その出発点をもう一回再確認する機会になったらいいなと。
大きくなった高校生でも、この写真を見ると「私も小さい頃は、こうやってお父さんお母さんに抱っこされてたなあ」とか。子どもが今反抗期のお母さんなら、写真を見て、「生まれたばかりのころは、ただこの子が健康ですくすく育ってくれることだけを願って世話をしていたのに、なぜ今、親の希望を押し付けちゃってるんだろう」とか。そうやって、お互いに 原点に戻って、家族仲良くするためのきっかけになってくれたらいいなと。

ーリビングにポンと置いてあって、家族がそれぞれに見てくれるのがいいですね。

でも、メッセージが押し付けがましくならないようにとは思いました。それが全面にガンと出ると鬱陶しいから、アピールしすぎない佇まいにしたいなと思って、デザインや紙の手触りや色味もやさしくて癒しになるような感じに仕上げました。

―本当に素敵な本ですね。さて、今後はどんな作品にトライしたいですか?

同じ路線を継続していくというより、一つ終わったら、次は全然カラーの違うものをやるのが好きなんです。旅、ヌード、花などいろんなことをやってきましたが、やってないことを目指したいと思っています。
ちょっと前から温めているのは、海底水中の写真集をモノクロで撮ったら気持ちいいかなということ。沖縄でよく素潜りをするんですが、景色として見るときっと癒しになるんじゃないかと。そういう写真集を出してみたいですね。

ー今から楽しみです。では、最後に藤代さんにとって写真とは?

「どこでもドア」みたいな、”ツール”。
カメラがあるだけで、いろいろな方と会う機会が生まれますし、山や海に行くにも、写真を真ん中に置くと、自分の道がどんどん定まってくる。別の場所に行く通路のようなもので、カメラがあるからいろんな場所、世界に行けるし、行きたくなっちゃうんだろうと思いますね。

書名:『NOW & THEN』
著者:藤代冥砂
発行:光文社
価格:2.640円(税込み)
発売日:2022年7月15日(金)
判型:A5変型版160ページ
購入はこちら(amazon)

写真展も開催! 「産前産後」プロジェクト
藤代冥砂写真展『NOW &THEN』

開催中~7月19日(火)
ジェイアール名古屋タカシマヤ 8階特設会場(ローズパティオ前)にて開催
愛知県名古屋市中村区名駅1丁目1−4 (名古屋駅直上)

8月10日(水)~23日(火)
梅田阪神百貨店4階「コミュニティスタジオ」にて開催
大阪府大阪市北区梅田1丁目13−13

東京でも開催予定

取材/秋元恵美

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