生きがいであるダンスに夢中で更年期を感じずにいたら、たまたま受けた検診で、婦人科系の病気が見つかった鳥居かほりさん。まさに青天の霹靂だったという子宮卵巣全摘出で受けたダメージを回復させてくれたのもダンスでした。
◯ 鳥居かほりさん(57歳・女優、ダンサー、振付師)
私にとってダンスは命。
去年発覚した婦人科系の
手術後も2週間で復帰
去年発覚した婦人科系の
手術後も2週間で復帰
57歳のいまも毎日踊っているせいか、更年期などの体の不調をとくに感じずに過ごしていました。ところが昨年3月、コロナ禍ということもあり時間に余裕があったので何年かスルーしていた、自治体の婦人科検診を受けたところ、子宮筋腫が見つかりました。
すぐに、昔からよく診ていただいている自由が丘の女医さんに再検査してもらい、「子宮筋腫は閉経とともに小さくなるからほっといても大丈夫だけど、内膜が分厚いのが気になる」と言われてMRIを撮ったら複雑型子宮内膜異形増殖症だということが発覚。この病気は30~40%の割合で子宮体がんの前がん状態であることが多いそう。
子宮と卵巣を全摘したほうがいいと言われ、セカンドオピニオンでも同じ診断だったので、もうこれは取るしかないと覚悟しました。
◇ 子宮体がん→ 子宮卵巣全摘出…… その後の ホットフラッシュが唯一の更年期症状です
—— 鳥居かほりさんはダンサーでありながら1980年代から90年代にかけてドラマやバラエティ番組でも活躍されたTHE清楚系お嬢様女優。細身で華奢なスタイルからは想像もつかないようなバイタリティあふれる踊りで、今も現役ダンサー&振付師として宝塚歌劇団やOSK日本歌劇団などでも引っ張りだこ。そんな鳥居さんが自身の病気に気づいたのは時間があったから“たまたま”“久しぶりに”受けた市の検診でした。
7月に舞台を控えていたのでそれが終わってから手術をすると決意。7月26日まで舞台をやって8月1日に入院し、翌日に子宮と卵巣を全部取りました。
取って精検したらやっぱり子宮体がんでした。思い切って取ってよかったと胸をなでおろしました。ステージ1だったので、腹腔鏡手術で小さな穴を5つ開けるだけ。8月10日には退院し、その2週間後には踊っていました。
病も踊りに助けられました。4歳からバレエを始めて53年、ずっと踊りは私の命であり魂。嫌なことがあっても踊っている瞬間、踊りと向き合う時間はすべて忘れて没入できるんです。
22歳で日本におけるジャズダンスの先駆者・名倉加代子先生に出会って35年、一緒にいる時間が親より長くなってきたのでだんだん顔も似てきちゃって、よく親子に間違えられるんですが(笑)、57歳になった今でも師匠に叱られます。「ジャズダンスはもっと床と仲良くならなきゃダメ」とかね。
そんなふうに言ってもらえる57歳ってあまりいないと思うんです。プライドなんて全然傷つきません。叱ってもらえるということは伸びしろがあると思ってもらえているということですから。
◇ 更年期世代は人生後半戦の大チャンス期だから、新しい場所でどんどん人に出会ってほしい
—— まさに青天の霹靂。56歳で子宮体がんが見つかった鳥居さんですが、それまではよく食べよく飲みよく動き、健康体であるのが自慢だったそう。
更年期症状もそれまで感じていませんでしたが、卵巣を取ったことでエストロゲンの分泌がなくなった結果(*1)、ホットフラッシュは何度か経験しました。
でも先生からはホルモン治療を勧められたりはしませんでした。実は、複雑型子宮内膜異形増殖症と診断してくださった女医さんは、若いころ耳の病気でお世話になった耳鼻科の先生の奥様。ストレス過多で「内耳窓破裂症」を発症したのですが、そのとき丁寧に診てくださり、完治に導いてくださった先生の奥様に今回助けていただきました。
私は自分で言うのも恐縮ですが出会い上手、と言ってもいい(笑)。以前、田舎に泊まる番組で12月30日という、すごく迷惑かつ失礼な(笑)日に九州にロケに行ったことがあります。そんな年末、田舎には人が歩いていないんですよ。だからピンポンして突撃しなくちゃなりません。できれば老人から子どもまで3世代で住んでいるような家族がいいなと思ってちょっと知恵を働かせました。
干してある洗濯物を見てバリエーションが多いと大家族の可能性大だと思ったら大正解。1泊しただけなのにその家族と今でも仲良し。当時20歳のお嬢さん、18歳、16歳の息子さんがいて、それから10年以上経っているけど、その3人の結婚式の司会をしに九州まで行きました。今私が毎日食べているお米はそのお宅のお父様が趣味で作っていらっしゃるお米です。私の人生、そういう繫がりがいろんなところでできています。
人との出会いに支えられて恵まれて今生かされていると感じます。とは言ってもレンアイみたいな出会いには少々恵まれていなくて、男友だちはゲイのほうが多いんです。日本各地にゲイ友だちがいるのでどこに仕事に行っても旅行に行っても彼らの家に泊まってご飯を作ってあげています。料理は舞台に似ているんです。同じように作っても全く同じには絶対ならないのが好きですし、そのときの食材と気分で作るのが大好きです。
私、体は細いように見えますが、筋肉量が多いので食べても食べてもお腹がすくという燃費の悪さ。朝は白米と味噌汁、20年もののぬか床で漬けたぬか漬けや納豆などの発酵食品を必ず何種類か摂ります。昔はヨーグルトも手作りしていました。夜は日本酒や焼酎、ワインを飲みますが、食べずに飲むなんてことはできない性分なのでガンガン食べてガンガン飲みます。我慢しないで動いて食べて飲む。それが健康維持にひと役買っていると思います。
—— 今回取材をして驚いたのが、お嬢様女優のイメージがいい意味で覆えされたこと。大きな声でおしゃべりしてくださってよく笑って、気取らず飾らず、オープンマインドな鳥居さんの姿を見ていると自然とこちらも笑顔になります。
私、案外がらっぱちで驚いたでしょう?(笑) でもこれが私だから、飾ることも隠すこともなく、いつも人のいいところを見つけて生きています。歩くパワースポットって言われてますから(笑)。
でも私はすごく幸運だったと思うんです。ダンスという一生涯かけてこよなく愛せるものに4歳で出合ってここまで続けてこられましたから。やっていたら何もかも忘れることがある人は本当に幸せ。
40代50代は子どもの手が離れてくる方が多いでしょうから、今一度自分と向き合って、自分の好きなことを見つけてほしい。例えば名倉加代子ジャズダンススタジオだと金曜日にシニアのクラスがあって、50代から85歳まで、北海道から飛行機で通ってらっしゃる方もいます。皆さん踊るのが好きでしょうがなくてキラキラしていらっしゃるんです。ちゃんと踊ることが大事ではなく、好きなことに夢中になれている自分を楽しむことが大事なんじゃないでしょうか。
面倒くさがらず恥ずかしがらず、何でもいいから好きなこと、興味があることにトライするその1歩が大切なんだと思います。溶け込めるかしら、本当に夢中になれるかな、などと二の足を踏んでいたら人生つまらない。すぐ終わってしまいますから、人の一生なんて。
こよなく愛せるものを見つけ、フットワーク軽く身を投じて自分自身を大事にしてほしいです。そして検診! 毎年必ず受けてくださいね。早く分かれば分かるほど対処が楽ですから。自分の体を知って好きなものを知って人生後半戦を豊かに過ごしてもらいたいですね。
撮影/田頭拓人 ヘア・メーク/きくち好美 スタイリスト/長友妙子 取材/柏崎恵理 撮影協力/名倉加代子ジャズダンススタジオ ※情報は2022年9月号掲載時のものです。