第13回はマスク外しに抵抗がある子どもへの対応について伺いました。
尾木ママ’sAnswer
「マスク問題」―これは今の時期にとても重要な問題提起ですね。現在、マスクの着用に関しては厚生労働省が示しているように、「屋外では原則マスク不要」となってはいますが、多くの人が屋外でもマスクを着用しているのが日本の現状のようです。2022年10月現在、日本でも感染者数の低下傾向が続き、政府もマスク着用ルールの整理を検討しているという話も耳にしますから、今、この時期にマスク問題を考えるというのは、とても良いタイミングだと思います。
コロナ禍で強制的にマスク着用の生活になり、マスクをしていることに慣れたことで、今度はマスクを外すことに抵抗があるという悩みを持つ方は、世代問わずとても多いのです。
若い世代では、マスクを外したらイメージが違うと言われたり、「マスク美人」なんて極めて失礼な表現をされたりしたことに胸を痛めている方もいるようです。
それでも大人はマスクの着用を自分で選択できます。問題は一斉に行動することが基本の学校での子どもたちです。ちょうどニキビなどに悩み始めた子、マスクに慣れ顔を見られることが恥ずかしいと思う子などにとってはマスクを外すのは大人が想像する以上に勇気がいるのです。特別支援学級の子にもマスクで顔を隠していることが安心という子どもも珍しくなく、その子たちにとってマスクを外す行為は大きなチャレンジでもあります。
教師だった僕としては学校の立場もわかります。文科省からの通達にもあるように、体育などの激しい運動でマスクをしたままでは酸素が少なくなり健康状態に害を及ぼすというような時にはマスクを外すように指導します。ただし、命令するのではなく「抵抗がある場合には遠慮なく申し出てください」という丁寧なフォローが大切です。また卒業アルバム作成など、必要な時にはマスクを外してもらうように伝えることも必要でしょう。そのような時も「強制」ではなくあくまで「お願い」であるべきです。意図を伝えた上でもその子がマスクを外したくないというなら、それでいいのではないでしょうか。後々、写真を見たときに「あの時は思春期ニキビに悩んでいたな」と想い出になるかもしれません。ご自分を思い返しても昔の写真にはその時々の心情が写し出されているのではないですか?
マスク問題は学校と子どもだけで解決できる問題ではありません。こと思春期の子どもに関しては配慮が必要です。なぜなら思春期は、自分の内面を見つめ他者の目を意識するようになる発達上重要な時期だからです。自分を見つめ他者と比べたりする中で、自己(アイデンティティ)を確立していくのです。反抗的と思われる言動の裏にも、不安で繊細かつ複雑な感情があることを、大人は十分に意識しておきたいものです。マスクを外すことを反抗心からではなく、心の問題で悩んでいる子どもが多いようであれば、学校と親とが子どもを真ん中に据えて、マスク着用に対して合意や共通認識を持っておくことがとても重要でしょう。
ノーマスク生活も想定できるこの時期に学校、保護者、子どもそれぞれがしっかりと考える絶好のタイミングだと思います。保護者懇談会などでテーマにするのもいいかもしれません。一番大切なことは、マスクを外せないという子の心情に寄り添うことです。同じクラスにそのような子がいた場合には、クラスメート達も決して責め立てたり強制したりすることなく「僕は外すけど、君の気持ちもわかるよ。先生もわかってくれるといいね。」と共感してあげられたらいいですよね。これは多様性や個を認めるというテーマのひとつとも言えますから、これを機にそういう視点からも親子で話してみるのも深く考えられる良いきっかけになります。
もしもお子さんがマスクで顔を隠すことが自分の心を守る“お守り”となっているようでしたら、そこはきちんとお子さんと向き合ってあげてください。思春期は自己認識を形成している最中の大切な時期でもありますから、自分をマイナスに捉えていたり、自己肯定感の低い子にならないよう、大人が丁寧にフォローしていく必要があるかもしれません。
現在、感染者数は減り続けていますが、海外からの渡航者も増え、今年の冬は日本でもインフルエンザとコロナが同時流行することが予想されています。また、変異ウィルスも出てくるでしょう。そうなると、またマスク着用が義務化されるかもしれません。
思春期は反発心も芽生えますから、強制的にマスク着用させられ、今度は外せと言われる。そしてまた着用を強いられる―。そんなことを無理強いされるとより反抗したくなる場合もあります。しかし、強制されてやるのと自分の意思でやるのでは大きく違います。マスク着用問題は、状況によって色々と変わること、大人たちも悩みながらも子どものことを大事に考えていること、感染拡大防止に協力し合っているということについて、親子でしっかりと考えを話し合ってみる良いきっかけになるのではないでしょうか。
取材/小仲志帆