――確かに、知らない強みというのはあると思います。
でも、やっていくうちに段々、現場のことや、その外側にある色々な仕組みがわかってきて。たとえば、「自分が出演した作品が一度世に出ると、何十年、何百年後も残っていくのが、この仕事なんだな」とか。そういうことを考え出すと、カメラの前に立つことが怖くなってしまって。それを乗り越えるには、どうしたらいいんだろう? と、10代後半の頃はすごく考えていました。変わってきたのは、20代になってからですね。仕事への取り組み方とか、何より芝居への向き合い方が少しずつ変わってきて。それこそ、思い切って飛び込めるようになりましたし、発見もたくさんあります。それはきっと、10代後半の苦しい経験があったからこそだと感じています。
――苦しんだ10代後半、それでも逃げずに俳優を続けていらしたのですね。
そうですね。俳優をやめようと思ったことは、ないです。やっぱり好きなんでしょうね、この仕事が。観てくれる人に、何かしらの影響を与えることができる仕事だと思っているので。僕は小さい時から、周りの人を驚かせたり、笑わせたりすることが好きでした。たぶん基本的に、その頃からずっと変わっていないんだと思います(笑)。改めて考えると、そうやって人を驚かせたり、笑わせたりするために、たくさんの方が集まって、たくさんお金をかけて作り上げるエンターテインメントって、すごいなと思いますし、そうやってみんなで作り上げたものがお客さんに届いた時は、本当に幸せな気持ちになります。
――俳優をやっていてよかったといちばん実感するのは、やはりそういう時ですか?
はい。作っている過程にも面白さはありますけど、お客さんに観てもらわないと僕らがやってきたことは完成しないので、やっぱりお客さんに届いた時がいちばんですね。そういう意味では、『鎌倉殿の13人』の畠山重忠の最後の回は、色々なところからたくさん反響をいただいて、すごく嬉しかったですし、ありがたいなと思いました。
――舞台では、お客さんに生で届けられる上に、その場で反応も得られます。今回の『歌妖曲』でまた新たな面白さを味わえるのでは?
そうだといいのですが、正直、まだそういう状況が想像できていなくて。映像の現場で芝居をしている時に、何がいちばん邪魔をするかと言ったら、自意識なんだと思います。「周りからどういうふうに見られているんだろう」とか「自分はどういうふうに映っているんだろう」と考えることが、お芝居の敵になる。今回のように、大勢のお客さんの前で芝居をして、そのリアクションや温度を感じながらもキャラクターを演じ続ける状況になった時、自分はどうなってしまうんだろう? と思っていて。