20代ですぐ結婚していればストーリィ読者の中にも結婚20年越えを果たされた夫婦がいるはず。20年も夫婦なら何かしらの波風は必ず立ちます。今月はそのうまいやり過ごし方を教えてもらいました。
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夫婦の相性
◯ 話してくれたのは...大原麗美さん(仮名)
国内線客室乗務員だった25歳の冬、会社のクリスマス会の帰りに同期と立ち寄ったバーで夫と出会いました。夫も医者2人で飲みに来ていて、次回同じメンバーで飲みに行こうと、連絡先を交換し合いました。少し時間を置いて連絡があり、4人で食事の約束をしましたが、私の友人が来られなくなり、2人で会うことになりました。最初の出会いがお酒の席だったので、夫に対しても軽い印象があり、本当に医者なの? と半信半疑でしたが、優しくて誠実な人柄で大学病院勤務の内科医であることも本当でした。
当時私は同い年の彼と別れた直後で、その彼とは喧嘩ばかりしていたので、7歳年上の夫に落ち着いた印象を受けました。自然に交際が始まり、デートの後は必ず家まで車で送ってくれるので、家にも上がるようになり、両親も好印象。夫の家族も私のフライトに乗ってくれたりと、家族ぐるみのお付き合いになっていきました。1年後にプロポーズ。でも当時私は国際線に移行したい希望を持っていたので、結婚は先延ばしにしていたのですが、妊娠。悪阻で気持ち悪く、フライトができなくなり、その夢は諦め、急遽結婚式を挙げました。
夫も優しい、子供も可愛い。幸せでした。でも海外を飛び回る同期とは対照的に、子育て中心の生活に不満を感じることもありました。6年後には長女出産。同時に夫は大学病院を辞め、開業。もともと子育てには協力的ではなく、家のことはほぼ私任せでしたが、開業後一層夫は多忙で、一緒に家庭を築くというよりも、報告し合うだけの関係になっていました。私は子育てに振り回され孤軍奮闘し、自分のための時間は一切ないうえにPTAやママ友とのお付き合いなどで、夫のことは二の次になっていました。
あるとき、ふっと夫の行動にあれ? と不信を抱きました。気になり出すと、休日前は帰宅が遅い、毎週同じ日に夕飯がいらないなど一定のパターンがあることに気づき、オシャレにも気を配るなど……以前とは違う行動が目につき始めました。夫には何も言わず、静かに観察を続けていたある夜、夜中の2時に目が覚めると誰かと電話をしている夫の声が聞こえてきました。
そのまま眠れなくなり、夫が寝静まってからリダイヤルで電話番号をチェック。その頃はまだ家電話が主流でした。翌日その番号にかけると、女性宅にかかりました。咄嗟に、妻であることを告げ、相手の職業を聞き出すと、スナックでアルバイトをしているとのこと。信じませんでしたが、ご主人はお客さんだと言われました。
どんな顔をしてるのか見たい衝動に駆られました。会いたくなって「会いませんか?」と言うと、気軽に「いいですよー」と。翌日、きちんとしなくっちゃと私はスーツを着て、待ち合わせの喫茶店へ。すると、その女性は若くて可愛いけど、きょとんとした地味なタイプ。攻撃の1つもしたいと思っていたのになぜかすっきり。相手からは、最後までお客だとシラを切られました。
その日はあっさり、帰宅。夫にも会いに行ったことは言わず、何もなかったかのように振る舞いましたが、きっと女性から私と会ったことを聞いて何か言ってくると様子をうかがっていました。が、期待外れで何もなく、その後も不審な行動は続きました。何か証拠を摑んだら有利になると思い、次の日曜日に夫が出掛けたのを見計らって、探偵のように後をつけてみました。今思うとバカバカしいですけど(笑)、頭からスカーフを巻き、サングラスでバレないようにして、電柱の陰に隠れながら夫の後を追いました。
ところが、気づかれたのか、一瞬で見失ってしまったのです。啞然としたものの、ずっと抱えていた悶々とした気持ちが、何かしら行動に出たことで落ち着き、冷静になれました。ここで私が次の一手に出たら、家庭がごたごたしてしまう。長男が中学受験目前でしたのでそれは避けたい、受験が終わるまでは我慢しようと決心し、自分の中で完結する道を選びました。しばらくすると少しずつ夫の行動が変わり始め、家に帰ってくる時間も早くなってきたのです。
そもそも私たち夫婦は性格が真逆。私は自分にも人にも甘いですが、夫は自分にも人にも厳しいタイプ。夫から頼まれた書類を滞らせていたりすると、頭をパンとぶたれたこともあるし、常にどこか緊張感が漂います。大学病院を辞めるときも開業するときも私には相談はなく、いつも事後報告。夫婦は相談しながら歩むのが理想なのに、本当にこの人でいいのか、悩んだ時期もありました。だから浮気のときより、性格や価値観の違いが浮き彫りになる方が離婚がよぎるんです。
私自身も煮詰まっていました。家の中だけに目が向くよりも、外に出ようと思い、受験が一段落した後、友人の紹介でMCを始めたのです。39歳のときでした。最初は子供も戸惑うし、家事と仕事の両立は大変でした。ところが意外なことに夫が優しくなりました。仕事を理由にすると、夫から頼まれたことでできないことがあっても許されるんです。それまでは絶対に許されなかったことが「仕方ないなあ」で終わるようになりました。
規則正しく、きちんと生活する夫は、主婦でだらだらしている私の姿を見ているのが好きじゃなかったそうです。私も1万円稼ぐことが、どれだけ大変なことかを身に染みて感じました。仕事に生きがいを感じるようになり、45歳頃まではとても忙しくて、あっという間に時が過ぎていきましたが、気がつくと夫への不満は消えていました。
年を取ったこともありますが、帰宅も早く、毎日家飲み。夜は2人でドラマやDVDを観て過ごすように。子供たちも成長し、2人で出掛けることも多くなり、年に数回は夫婦で海外旅行にも行くようになりました。旅先でも昼間はそれぞれやりたいことをやって別行動だったりするんです。ご飯だけ一緒に食べるみたいな旅行。それに話が弾んでしょうがないわけでも、ラブラブなわけでもありませんが、お互いの誕生日にはちょっと贅沢なレストランに食事に行くことも習慣になりました。
そういうときに、ちょっと前に車をこすってしまったことや、書かなきゃいけない夫の知人へのお礼状をまだ書けていないことなど、怒られそうな私の失敗を話すようにしてるんです。同じことを家で言うと夫を怒らせてしまうことも、レストランだと、「仕方ないなあ」と許してくれます。結婚して20年以上たって、やっと今、上手く関係を保つコツみたいなものがわかってきたのです。如何に言うタイミングが大事だということや、その場での夫の気持ちを思いやることの大切さを実感しています。
浮気の件は、数年たったときに過去の出来事として、相手の女性に会ったことを夫に話しました。もちろん夫はシラを切り通しましたが、数日後、夫のカードでバーキンを買って、気持ちに決着。それに対しては夫は何も言いませんでした。夫婦は突き詰めなくてもいいんじゃないでしょうか? 白黒はっきりさせなくてもいいんですよ。もしあの時大騒ぎをしていたら、絶対に今はなかったなあと思います。
今は労わり合いですね。何よりもお互いの健康管理が一番。私は毎晩せっせとご飯作り。なるべく無農薬野菜を使い、野菜と魚を多くして、上質な調味料を使った健康的な和食を出すようにしています。
じっくり長い時間をかけて、夫婦は作られていくものです。酷い暴力とか浮気して帰ってこないとか、どうしようもないことがない限り、耐えてみることも必要。苦楽を共にして一歩一歩近づいていくのが夫婦だと思います。
先日私の好きな韓流のコンサートに韓国まで夫婦で行ってきました。純粋に楽しかった。何十年も連れ添った夫こそ、人生の唯一無二の存在だと思います。
取材/安田真里 イラスト/あずみ虫 ※情報は2022年11月号掲載時のものです。