「ステージ4」と告知され、“最期の仕事”と 自身の闘病生活を記録し続けた
中井
私は、今「グリーフケア(大切なものを失い深い悲しみを負った人に対する心のケア)」を勉強中なのだけれど、笠井君の場合、自身ががんだと告知されるだけでもかなりのグリーフが生じるけれど、フジテレビを辞めてフリーになるというタイミングで。そのグリーフたるや計り知れない……。
笠井
うん、フジを辞めて2カ月の時だったからね。決まっていた仕事も全部キャンセルになった。
中井
フジテレビも仕事もこれだけ大好きな人が、意を決してフジを辞めて、掴んでいた仕事を全部キャンセルせざるを得ないなんて、相当きつかったよね。そういうことってなかなか人に言えないし、笠井君はどうやって対峙したの?
笠井
映画の主人公が最初は自分を諦めかけていたけれど、僕もそれと同じだった。全身が痛む中、ステージ4の悪性リンパ腫と告知され遺伝子異常も見つかって、通常の治療では治らないと言われて……。それで、通院では治らないからと入院し、普通の人だと10~20時間打つ抗がん剤を、僕は120時間打った。「死ぬのかな」そう思った。
SNSで僕のがんの型から闘病生活までを発信したけれど、「死ぬ」と思われたくなくて、「ステージ4」だけは隠した。知っていたのは、妻と長男だけ。親にも言わなかった。「笠井アナ、がんステージ4」と出た瞬間、「ダメだな」と皆に思われるのが、悔しかったから。毎日闘病の様子を公表したり、「とくダネ!」の取材を受けたりしていたけど、「死んだら、この映像の価値が上がる」と思っていたんだ。マスコミにいるとわかるのは、亡くなる人の情報は価値が高いということ。それがわかっていたから、積極的になった。
中井
その気持ちは、すごくわかるな。マスコミ魂はどこかにずっとあるよね。
笠井
マスコミの中で30年以上、しかもワイドショーの世界で生きてきたから、それが僕の最期の仕事だと思った。
中井
私達が新入社員の頃、一緒に働いていた逸見政孝さんが病気を公表したのを目の前で見て、すごくショックだったけれど、こういうやり方もあるのかと感じたのを覚えてる。
『愛する人に伝える言葉』
監督:エマニュエル・ベルコ 出演:カトリーヌ・ドヌーブ、ブノワ・マジメルほか
フランスを代表する名女優カトリーヌ・ドヌーヴと、本作でフランスのアカデミー賞にあたるセザール賞最優秀男優賞を受賞した演技派、ブノワ・マジメルの共演によるこの物語は、癌を宣告された主人公とその母親が、衝撃や悲しみを克服しながら、限られた時間のなかで人生を見つめ直し、「人生のデスクの整理」をしながら、穏やかに死と対峙できるようになる過程を感動的に描く。
撮影/田頭拓人 取材・文/河合由樹