第16回は勉強に追われ、常に睡眠不足が続いている息子の状況が心配なママのお悩みについて伺いました。
尾木ママ’sAnswer
中学生で睡眠薬を使うという状況はとても深刻で心配です。背景など根本的なところから考える必要があるかもしれません。また、せっかく中高一貫の学校に通っているのに、そのメリットが生かせていないことも気になります。
このお子さんの現状ですが、睡眠不足が続いて、精神的に不安定なのか睡眠薬を飲まなければならないほど追い込まれているというのはあまりにもひどい状況で心配ですね。そもそも睡眠不足ではいくら学習しても定着しません。忘却曲線と睡眠の効果の実験でも実証されています。テスト前に一夜漬けで暗記した内容をテストが終わったらすぐに忘れてしまうという経験がある方も多いのではないでしょうか。学習したことを定着させるためには覚えた後すぐにしっかり睡眠を取ることが必須なのです。十分な睡眠を取ることで、記憶したことが脳の側頭葉で整理され定着するのです。ですから、まずは睡眠不足になるような学習方法や生活全体を根本的に見直した方がいいと思います。
第一に、何を不安に思っているのか。そして、なぜ追い詰められるように勉強ばかりしているのか。さらにどんな勉強に時間を取られているのか。お子さんの現状を親御さんが把握し、お子さんの思いを聞いてみてあげてください。塾にあおられるような形で勉強をしているのか、それについて本人はどう思っているのか。追い込まれている原因となるところを確認する必要があるように思います。まだ中学2年生ですから、大学受験まで今のペースでは心身が持たないように思います。少しペースを落とす方法を考えてみてはいかがでしょうか。
第二に、今通われている塾について見直す必要があるかもしれません。そもそも、なぜ塾に通うことにしたのでしょうか。大学受験の対策のためなのか、学校の勉強のサポートなのか。今一度、その中心的な目的を見直してみましょう。塾の先取り学習についていくのに必死で、学校の課題まで手が回らない、とありますが、塾によって学校の学習に支障が出るようでは本末転倒です。お子さんにとって第一に大事なのは学校生活そのものであり、そこを充実させることではないでしょうか。心身を壊してまで塾に通わせることが、お子さんのためになっているのか。考え直していただければと思います。もし、大学受験のためにどうしても塾に通わせる、というのであれば、せめてお子さんの学校生活を中心にした健康的な日常生活が安定しておくれる状態になってからだと僕は思います。
第三に、学校の先生に相談するのも良いでしょう。家庭と学校との信頼関係はとても大切です。塾の課題に追われている状況やお子さんの学校での様子、学校としての方向性などを先生にお話を伺ってみてはいかがでしょうか。外部の専門的なカウンセリングに行く前に、スクールカウンセラーや養護教諭などを含め、学校に相談することをおすすめします。
中高一貫の学校に入るにあたって、お子さんも親御さんも、この学校でどう過ごしたいのか思い描いていたものがあるかと思いますが、もしかしたら、現状はそれとはずいぶん違っているかもしれませんね。大学受験を視野に入れて学校を選ばれたとは思いますが、中高一貫校の大きなメリットの一つが、人間の発達にとって重要な思春期の6年間を高校受験で分断されることなく、学習や行事、部活動などに打ち込めるという点です。もちろんその先にある大学受験は重要かもしれませんが、息子さんの人生にとってかけがえのない中高6年間を大学受験のために大きく犠牲にするのではなく、勉強以外の活動や日々の生活をどう充実させて過ごすかについて、もう少し本気で見直してみてください。親御さんご自身も大学受験だけに巻き込まれることのないように。お子さんがこの先の残りの中高5年間の学校生活を楽しみながら充実して過ごすためにも、このタイミングで一度、親子でじっくりと対話してみてくださいませ。
取材/小仲志帆