第17回は学校で嫌な思いをしている息子さんのことで悩むママの相談です。
息子は学校で意見を発表したり、皆の前で作文を読んだりすることをとても嫌がります。恥ずかしがり屋というタイプではないので、なぜ発言を嫌がるかを問い詰めたところ、「馬鹿にされるから」という答えでした。どうやら、クラスに2.3人、いじめっこ気質の子がいるらしいのです。特に正義感で行動したりすることに対してバカにされることが多く、それに対して言い返すと「何ムキになってんの。ばかじゃね。」と言われ、相手にしないと「無視すんじゃねーよ。」と言われるらしいです。それを先生に言うと「告げ口野郎」と攻撃されるからできず、ただただ耐えるしかないという状況を聞き、親としてどうすべきか悩んでいます。先生に面談で話そうか息子に言うと絶対にやめてくれと言われます。先生の前ではちゃんとしているらしいので、先生も気づいていないとのことです。「正しいことをするとバカにされる」と息子に思って欲しくないのですが、子どもにも社会があるので、口出すわけにもいかず・・・。先生に「様子を見て下さい」と相談しようかと思ってはいるのですが。噂ではいじめっ子主犯格の母親もモンスターらしく、自分の子どもが責められると抗議するという話も聞き、何もできずにいます。クラス替えまで耐えるしかないのでしょうか。
尾木ママ’s Answer
これは、非常に難しいテーマですね。小学校5年生というのは発達段階でいうと、プレ思春期にあたりますが、お子さんのクラスの様子は、この時期の学級の特徴的な一面も表しています。思春期には、大人が言うことや社会の規範などを疑い始めたり、真面目に取り組むことや、真剣なものや人に対して、批判的な目で見たり、斜めに構えたり、時にはバカにしたりするような心理や態度を取るようになる時期です。これは発達段階においてみられる自然な現象で、自分自身を相対化し、自立していくために重要な過程です。中学生くらいがピークかもしれませんが、特に5年生くらいはこのような問題が増え始める時期だと思います。ただし、ご相談のケースは度が過ぎていて、「いじめ」のレベルになっていますから、早急にこの状況から脱する対策をとる必要がありますね。
クラスメートも気づいているのでしょうけれど、自分がターゲットになったり浮いてしまうことを恐れて、行動できないでいるのでしょう。正しいこと、一生懸命やることに対して、冷やかしたり嫌なことを言う子がいても大人や周囲の友だちに咎めらず、言われた子が守られないような状況は、特に正義感が強いタイプのお子さんには耐えがたいと思います。これがきっかけで、行き渋りや不登校が始まる子もいます。もしかしたら、同じような思いをしている子が他にもいるかもしれませんが、声に出せない子どももいます。このような学級の状況が放置され、歪んだ学級文化、学校文化が形成されてしまえば、直接被害を受けた子だけでなく、周りの子たちや、加害側の子どもの人間形成に影響を与え、成長も阻害してしまいますから、すぐにでも改善される必要があると思います。
原則的には、親と学校とで一緒に対策を考えるのが一番いいのではないでしょうか。どんないじめであれ、心の傷になりますが、このお子さんへのいじめ行為は悪質で、お子さんが苦痛を感じている今の状況は深刻です。学校がその状況をどれほど把握できているのか。それを確認する必要があるように思います。息子さんの「先生には言わないで」という気持ちもとてもよくわかりますし、子どもには子どもの社会があるというお母さんのご意見も理解できます。いじめ問題に切り込んでいった時の学校やクラスの反応、そのことによって事態が余計に悪化し、我が子がよりつらい思いをしたり、クラスで居心地が悪く感じてしまうのではないか。また、相手の親御さんからの反応も心配されていますね。しかし、事態の改善には学校と親の協力がどうしても必要ではないでしょうか。子どもの「言わないで」という気持ちや、絶対に守って欲しいというところはしっかりと伝えた上で、学校に対応してもらうことをおすすめします。担任の先生に限らず、お母さんが一番信頼できる先生に相談されるのが良いかもしれませんね。
5年生の3学期という時期は4月には最上級生になる直前の準備期間でもあります。もうすぐくる新学期には可愛い新1年生を学校に迎え、6年生はお兄さんお姉さん役として、1年生のお手伝いをしたり、お手本になる役割を期待されます。また、委員会活動やたてわりの班活動など、学校の活動を中心的に担い、学校をリードしていく立場になっていきます。学級として、子どもたちに「君たちは最上級生としてこの学校の文化をつくっていく担い手になるんだよ」ということをしっかりと伝えているのか。正しい理想に向かい、間違ったことには真剣に立ち向かって正していくような雰囲気づくりができているかどうか。先生に問いかけてみてもいいかもしれません。
また、学校によっては、一年間の振り返りや現状の問題点などをアンケート方式で実施しているところもあります。このようないじめ問題があるような学級では場合によってはそのようなアンケート方法で、問題点をすくい上げてもらうのも解決の糸口になるかもしれません。もし保護者側から提案できる状況であれば、それも一つの有効な手段ではないでしょうか。
そして、お子さんとの対話もとても大切です。「あなたのやっていることは全然間違っていないよ。お母さんはあなたを支持しているよ。」と伝えてあげてください。このような状況下では親子の信頼関係や絆というのはお子さんにとって心の支えにもなります。この学校では毎年、学級編成があるようですので、今の辛い状況もクラス替えによって、良い転換点になるかもしれませんね。どうか、お子さんの気持ちを尊重しつつ、学校側に伝える方向で考えてみてください。
編集部注:文科省の2021年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によると2021年度における【小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの 認知件数は615,351件(前年度517,163件)であり、 前年度に比べ98,188件(19.0%)増加】となっています。いじめの認知件数としては小学校2年生をピークに徐々に減少はしていますが、小学5年生で7万件あります。
取材/小仲志帆