第20回は自分の声がけはもしかしたら教育虐待なのでは?と悩むママからの質問です。
尾木ママ’s Answer
自分が子どもに対してしていることについて、「これは虐待にあたるのか」って悩まれている方、実は結構、多いんですよ。
近年は少子化が進み、一人の子どもに対する教育や習い事に熱心な親が多くなっている傾向もありますので、「教育虐待」がクローズアップされることも増えてきました。教育虐待の結果、子どもが亡くなってしまったり、逆に子どもが親を殺めてしまったなどという痛ましい事件も起きています。
教育虐待とは、児童虐待の一種で、「成績を上げるため」「いい学校に入るため」といった親の期待の高まりから、子どもの許容範囲を超えて勉強や習い事をさせ、思い通りの結果が出ないと激しく叱責したり無視したり厳しい態度をとったりすることをいいます。
虐待の特徴として、している側は「虐待ではなく躾だ」などと言うケースがほとんどです。厳しくするのが子どもへの愛情だと信じ込んでいるのです。そして教育虐待の場合は、「本人のためを思って」とか「子どもの将来のために」とか「もっとできるはず」といった親の一方的で過度な思いが高まった結果、指導やしつけが、それを受ける子どもの心身の限界を超えてしまうほど厳しくエスカレートしてしまうのです。虐待により亡くなる事例は年間50件近くにも及ぶという現実をお伝えしておきたいです。
こうしてみていくと、ご相談のお母さんの、強引に「ノートを破く」「ゴミ箱に捨てる」などの子どもを傷つけるような言動は「心理的な虐待」にあたってしまいますね。
では、一体どうしたらいいのでしょうか。
「教育虐待にならないように子どもに気を遣うのも違う気がする。」とおっしゃっていますが、実は「子どもにこそ、気を遣うべき」なんです。気を遣うというのは遠慮をするという意味ではありません。子どもが何を考えているのか、どんな気持ちなのかを気にかけ、子どもの声を聴き取り受けとめるということです。
息子さんがどうして塾の宿題を友達にやってもらったのか、何か理由があったかもしれませんよね。学校の宿題が多すぎて、塾の宿題にまで手が回らなくて、いけないとわかっていたけれど、悩んだ結果、友達にお願いしたのかもしれません。聞いてみると、そこには「なるほど、そうだったのか」と、共感できる部分も少しは見つかることもあります。やってしまったことは適切ではなかったとしても、まずは話を聞いて、「大変だったんだね」とわが子に共感してあげると、「お母さんはわかってくれた」とひと安心し、元気が出ます。そして、むしろ「自分でやるべきだったのに、恥ずかしいことをした」などと反省の気持ちが湧いてくるのではないでしょうか。親身になって子どもの気持ちに寄り添う姿勢があれば、子どもは「親をごまかせた」などと思い上がったりはしません。親が締め付けて、コントロールするのではなく、子どもがあるべき方向性に気づき、自分自身で考え、モラルを守ってやっていける方向にサポートしてあげるのが親の役割なのです。問題が起きたときほど、それを意識すると良いと思いますよ。
「そんなに勉強がイヤなら学校を辞めちゃいなさい」というのも少し飛躍しすぎてしまいましたね。ただ、「勉強しなさい」と言ったところで勉強する意義が自分の中でなければ、なかなか難しいでしょう。
息子さんは中学受験を終えた今も、塾に家庭教師にと、大変だと思いますよ。とくに中学受験を乗り切った子は、目標を達成し、一旦そこで意欲が燃え尽きてしまうこともよくあります。そこで、どういう風に次の目標を持たせてあげるかという点が大切なのです。
親のほうは中学受験を経験していると、勉強というものをつい受験の延長で捉えてしまい、「勉強=机に向かうこと」などとイメージしがちなのかもしれません。
しかし、学校での勉強は決して机上のものだけでなく、「友達との出会い」や「遊び、部活、学校行事」といった、中学校生活全てが勉強なのです。宿題をやることは大事ですが、宿題をやっていれば学力がつき成長するというわけではないのです。お子さんも中学に入学し、すでに親が知らない新しい世界で生活していますし、特に中高一貫教育の学校は体験型や探究型の授業など新しい学びの取り組みもたくさんされていると思いますよ。いわゆる受験勉強とは違う、新しい学びをしているお子さんに、「どんなことをしているの?」と聞いてみたり、今の学びが将来にどう結びつくかなど、お子さん自身の意欲がわくような声かけをするように心がけてみるのはいかがでしょうか。
特に思春期は、「自分とは何者か」とか、「なぜ生まれてきたか」「どこへ向かっているのか」と哲学的に考え始める時期でもあります。様々な体験学習やボランティア活動などを含め、自分の生きる目当てを探す学びや手応えのある取り組みに関わることで、自分自身の意思で学ぶように成長するのではないかと思います。お母さんもそのように導いてあげる声がけができるように心がけると、教育虐待なのでは?などと不安になるようなこともなくなると思いますよ。
取材/小仲志帆