舞台『闇に咲く花』に出演する松下洸平さん(36歳)
NHK連続テレビ小説『スカーレット』で一躍注目を集め、話題作に次々と出演。俳優業と並行してシンガーソングライターとしても活躍する松下洸平さんが、こまつ座の舞台『闇に咲く花』に出演します。敗戦から2年後の夏のある日、焼跡にかろうじて建つ愛敬稲荷神社に、戦死したと思われていた神主の息子が帰ってきて……という、松下さんが生まれた1987年に初演された井上ひさしさんの作品です。さて、稽古を前にした心境は? 〝花〟にまつわるエピソードや今後挑戦したいことなど、たっぷりとお届けします!
《前編》
――連続ドラマに、重要な役どころで立て続けに出演なさっている松下さん。7月スタートの『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』に続いて、9月にはTVer初のオリジナルドラマ、その名も『潜入捜査官 松下洸平』でドラマ初主演を果たされるとか?
はい、ありがたいことに。本人役で出演するドラマのお話をいただきまして、実は松下洸平は、15年前から芸能界に潜入している警視庁の潜入捜査官だった……という設定のサスペンスコメディです。見たことがないようなドラマになっていると思います。
――8月4日には舞台『闇に咲く花』が幕を開けます。初めて挑戦する井上ひさしさんの作品の印象はいかがですか?
敗戦後の日本の話ということで、暗い物語を想像してしまいがちですけれども、ほぼ喜劇という印象です。僕はゲラゲラ笑いながら台本を読みました。これは、井上さんのほかの作品を観ていても感じることなんですが、戦争中とか戦後が舞台になっている話だということを忘れてしまうくらい、出てくる人たちがみんな明るいんです。もちろん、みんながみんな前向きに生きているわけではないけれども、苦しい時代を小さな幸せを噛みしめるように生きている人たちが、たくさん登場する。そういうところが井上さんの作品の大きな魅力じゃないかと思います。
――確かに井上さんの作品には、逞しく生きる庶民の姿が生き生きと描かれています。
だから余計に、この人たちは大変な時代を生きているんだなと思わせる言葉がポンと出てくると、ハッとするんです。僕が『闇に咲く花』の2012年の再演の映像を観せていただいた時もそうでした。笑いながら観ていると、ふとした瞬間に我に返るというか、ああ、そうだ、まだ戦後2年しか経っていない頃の話なんだと、ハッとさせられて。そうやって、ただただ悲しいことや悲惨なことばかりを描いていないところが、やっぱりすごいですよね。
――松下さんが演じるのは、失っていた記憶を野球をきっかけに取り戻し、ようやく実家の神社に帰還する牛木健太郎役。記憶を巡る作品ですが、松下さんは記憶力はいいほうですか?
記憶力は……自分に関することはダメですね。忘れ物もよくしますし(苦笑)。自分以外のことでは、結構いいほうかなと思います。セリフ覚えも、今のところはそんなに悪くない気がします。ただ今回の『闇に咲く花』は、セリフの量が多いうえに、祝詞(のりと)を唱えるシーンがあるんです。どうやって覚えたらいいんだろう!? と思って苦戦しています。
――健太郎は元野球部のエース投手ということで、キャッチボールのシーンもありますよね。以前、球技は苦手だと伺った記憶があるのですが……。
そうなんですよ……子どもの頃、野球とかサッカーをやる機会が全然なくて。演出の栗山(民也)さんにキャスティングミスだと思われないように、キャッチボールもしっかり練習して頑張ります。せっかくなので、この機会に〝球技が苦手〟というイメージもちょっと払拭したいですね。
――栗山さんとは、ミュージカル『スリル・ミー』の初演(2011年)に始まり、こまつ座公演『木の上の軍隊』(2016年・2019年)、『母と暮せば』(2018年・2021年)でもご一緒されています。『闇に咲く花』の稽古に向けて、栗山さんとは何か話をされましたか?
いえ、まだ何も。ただ、栗山さんはずっと「井上さんの戯曲、やりたいよなあ」と言ってくださっていました。『母と暮せば』の初演の稽古をしている時だったと思うんですけど、「僕、いつか井上さんの戯曲をやりたいです」と栗山さんに言ったら、「あれ?やってないっけ?」と言われたことがあるんです。「やった気になってたわ、俺」って(笑)。
――そうでしたか(笑)。まさに念願の井上作品なわけですね。父親役の山西惇さんとは、『木の上の軍隊』でも共演なさっていますね。
『木の上の軍隊』では、本当に色々なことを教えていただきました。なので、わからないことがあったら山ニイに聞こう、何かに躓いたり、悩むようなことがあったとしても、山ニイがいるから大丈夫、という安心感があります。決してすべてを山西さんに頼るわけじゃないですけど、山西さんが現場にいてくださるだけで心強いです。
――そんな松下さんが、最近いちばん嬉しかったことは何ですか?
今ちょうど、7月にリリースする楽曲(シングル「ノンフィクション」)の制作中なんです。みんなで、ああだこうだ言いながら作ってきた曲がちゃんと形になった瞬間は、やっぱりすごく嬉しかったですね。
――では、最近いちばん焦ったこと、ヤバイ! と思ったことは?
健太郎のセリフを覚え始めた時ですね。台本をいただいたのは結構前だったんですけど、なかなか向き合う勇気がなくて、自分の中でちょっとゴネていたら、開くまでに時間がかかってしまって。よし、やるぞと思って、覚え始めたら、やっぱりすごいセリフ量で、これはヤバイと思いました。ただ、セリフの量でいえば、山ニイのほうが多いと思います。山ニイは、この間まで別の大変な舞台に出ていたから、頭の切り替えが大変だとおっしゃっていて。「お互いに慰め合っていこうな」って連絡をいただきました。でも、山ニイは覚えちゃうんだろうなあ。台本を持ったまま稽古しているのを見たことがないですもん。困っちゃいますよ、本当に(笑)。
<後編へ続く>
こまつ座第147回公演『闇に咲く花』
戦後復興がままならない1947年の東京・神田の愛敬稲荷神社を舞台に、庶民から見た日本、戦争責任、記憶を巡って展開する悲喜劇。
作/井上ひさし 演出/栗山民也 出演/山西 惇、松下洸平、浅利陽介、増子倭文江ほか
2023年8月4日~30日/紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA 愛知、大阪、福岡公演あり。問/03-3862-5941(こまつ座)
http://www.komatsuza.co.jp/program/index.html#444
次回は、松下さんが30代後半にやりたいことや、どのような40代になりたいか、などなど。松下さんのさらなる魅力に迫ります!
撮影/古水 良 ヘア・メーク/赤木悠記 スタイリスト/渡邊圭祐 取材/岡崎 香
【衣装クレジット】
ジャケット¥71,500パンツ¥28,600(ともにバーンストーマ―)シューズ¥13,200(オポジット オブ ブルガリティ)
問/すべてHEMT PR ℡03-6721-0882
シャツ¥12,100(セカンドエグジスタンス)
問/エフエムワイインターナショナル ℡03-6421-4440