抜群の歌唱力で知られる西川貴教さんが、8月に開幕するミュージカル『スクールオブロック』で主演を務めます(柿澤勇人さんとWキャスト)。友人になりすまし、厳格な規律がある名門進学校の臨時教師になったアマチュアギタリストのデューイが、無気力だった生徒たちとロックバンドを組んで大会に出場するまでを、アンドリュー・ロイド=ウェバーのキャッチーでノリのいい楽曲にのせて描く大ヒット作です。コロナ禍での全公演中止を経て、3年越しで日本初演される本作品への意気込みや今後の展望などを、7月のプレライブイベントに出演した西川さんにお聞きしました。(全2回の2回目)
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西川貴教さん「もともとは人に合わせることが苦手で、音楽の道を選びました」
――稽古で改めて感じている『スクールオブロック』の魅力を教えてください。
子どもたちとの向き合い方をはじめ、色々なことを考えさせてくれるところが、やっぱり魅力ですね。僕は以前『ザ★ミュージックマン』(2010年)というミュージカルをやらせていただいたことがあるんですけど、その現代版のような印象もあります。劇中で子どもたちが演奏していたユーフォニアムやトロンボーンが、エレキギターやベースになったような感覚があって。
――『ザ★ミュージックマン』は、楽器や制服を大量に売りつけるために、詐欺師が音楽教授のふりをして少年マーチングバンドを作る話。言われてみれば、似ていますね。
そうなんですよ。両作品とも、子どもたちの個性が認められていく話になっていて。『スクールオブロック』は、そこからさらに「自分らしく生きるって、何だろう?」と問いかけてくれている気がします。色々な個性を持った生徒が出てくるので、子どもたちも役柄に合った髪型やスタイル作りに一生懸命で、楽しそうです。それぞれの個性を多様性として寛容に受け入れようという考え方は、すごくいいなと思います。
――そうですね。
ただ、ちょっと話は逸れるかもしれないんですけど、だったらミスコンに出ている人や、自分の外見磨きに一生懸命な人たちも受け入れたほうがいいんじゃないの? って、僕は思うんですよ。時に、見かけを重視する=ルッキズムとして非難されがちで、そういう人たちを叩く人がいるけれど、それも多様な生き方の一つなわけだから、全部受け入れたらいいんじゃないの? って。そういうふうに考えていかないと、おかしなことになる気がします。
――運動会でかけっこの順位をつけるべきではないと言いながら、普段のテストや成績表には何も言わない人と似ていますよね。それでは、勉強は苦手でも運動会では輝ける子が割を食うことになります。
そうなんですよ。その人が一生懸命になれる場、輝ける場を、取り上げないでほしい。「3位までに入れなかった、悔しい」という気持ちがあるから、また頑張れる人もいると思うし、結局は周りの伝え方じゃないですかね。何かを悪だと決めつけることは簡単だけれども、それが決して正しいとは思えないです。
――そんな西川さんの40代は、どんなものでしたか?
自分がやろうとしていることの方向性が、やっと見えてきたのが40代かな。10代、20代は、自分のことしか考えられてなかったと思うんですけど、30代半ば頃から何となく目線が変わって来て、40代に入ってやっと、自分はこっちに行かなきゃいけないんじゃないかなって、ふっと方向が見えた感じでした。なので、“不惑”という言葉は結構当たっているなと思います。まあ、いまだに迷ってばかりではありますけど(笑)。
――滋賀県ふるさと観光大使としての活動や、今年で15周年を迎える大型野外音楽イベント「イナズマロック フェス」の開催も、40代に見えてきた方向性の一つですか?
そうですね。でもそれも、何というか……周りに見せてもらった感じなんですよ。考えてみたら、僕の人生で「これを取りに行くぞー!」っていう気持ちで自分から取りに行ったものなんて、果たしていくつあるのかな? フェスにしても、母が病気をして、イベントを地元でやろうと思わなければ、たぶん始めなかったと思うし、色々なきっかけをもらって、今ここにいる感じなので。今回の舞台も、ホリプロさんから機会をいただいたから、今の景色を見られているわけで、本当に“連れてきてもらった”感じがすごくあるんですよね。
――50代をどんなふうに過ごしたいですか?
自分的には、50代になってやっと、これをしたい、あれをやりたいと思ったことに、今までよりもずっと短い時間でリーチできる環境ができてきたなと感じているんです。僕の周りの信頼している皆さんも同じように年を重ねて、それぞれが自分で決裁できる立場になってきたことが、大きい気がしますね。やりたい企画が浮かんだ時に、「できたらいいね」じゃなくて、「よし、こうしよう」とか「あの人のところに行けばいいんじゃない?」というふうに、人脈やアイディアも含めて、より形にしやすい年齢になってきたのかなあと思っていて。
――その分、責任も伴いますが、確かに自分たちで決められることが増えてくると、話は俄然早く進みますよね。
なので、ここからのものに関しては、自分で取りに行きたいですね。まさにこれから、自分の夢を叶えていくというか。そしてそれが、自分以外の人のためになったらなと思います。誰かのためになるようなことを形にするのが僕の仕事で、僕の夢なんだなということが、40代ではっきりと見えて、誰かが喜んでくれたり、楽しいと思ってくれることが、自分にとっていちばんの幸せなんだなと思ったので。この作品でも、一人でも多くの方にそう感じてもらえるように、僕の精一杯のデューイをお届けしたいです。
――ありがとうございます。最後は観客がバンドバトルを見守る観衆となって、子どもたちの生演奏で一緒に盛り上がる本作品。コロナ禍が一段落した中で上演できることになってよかったなと、つくづく思います。
本当ですよ。人が集まっているだけで「密になってる!マズいんじゃないの?」っていう空気になるような状況では、上演できないですから。何よりも、子どもたちには、本当に伸び伸びとこの舞台を生きて欲しいです。子どもにとっての1年は大きいですからね。50代にとっての1年は1/50だけど、10歳にとっての1年は1/10。それだけ、この3年間の経験の喪失は大きなものだったと思うので。
――心優しい西川さんの今の課題は何でしょう?
まずは、泣かないことですかね。最初の台本の読み合わせで、もう感動して泣いちゃったので。
――なんとまたチャーミングな。
『ザ★ミュージックマン』の時もそうだったんですけど、僕、舞台はどうもダメなんです。ほかの人のセリフにぐっときて、涙が出てきたりして。「お客さんを泣かせにいくのに、自分がいちばん泣いてちゃダメだ」って、前に共演した役者の先輩に言っていただいて、そうですよねと思ってはいるんですけど、毎回泣けてきちゃう(苦笑)。今回は、なんとか泣かないようにしながら稽古を頑張りますので、たくさんの方に楽しんでいただけたらなと思います。
ミュージカル『スクールオブロック』
アマチュアバンドをクビになったデューイは、居候先の友人の名を騙り、厳格な名門校の臨時教師に。生徒たちの音楽の才能に気づき、バンドバトルへの出場を思いつくが……。
音楽/アンドリュー・ロイド=ウェバー 脚本/ジュリアン・フェロウズ 歌詞/グレン・スレイター 翻訳・演出/鴻上尚史 訳詞/高橋亜子
出演/西川貴教・柿澤勇人(Wキャスト)、濱田めぐみ、梶 裕貴・太田基裕(Wキャスト)、はいだしょうこ・宮澤佐江(Wキャスト)ほか
8月17日~9月18日/東京建物Brillia HALL 9月23日~10月1日/大阪・新歌舞伎座
https://horipro-stage.jp/stage/sor2023/
撮影/古水 良 ヘア・メーク/浅沼 薫 取材/岡﨑 香