女性としてこれからのキャリアについて悩むSTORY世代。’22年に女性活躍推進法が改定されてからはますます女性の活躍が期待され始め、徐々に女性管理職比率も高くなってきています。個人として評価され活躍される女性リーダーの方々には、キャリアの狭間で自身の生き方を見つめ、可能性を信じてチャレンジする姿がありました。
今回ご登場いただくのは、株式会社ファンケルの教育部門であるファンケル大学にて学長をされている田中淑子さんです。母として妻として、そして学長として。様々なシチュエーションで多くの学びを吸収しながら常に前を向き続ける。そんな彼女のSTORYをご紹介します。(全2回の1回目)
田中 淑子さん(50歳)
ファンケル大学 学長
株式会社ファンケル入社後、直営店舗にて開発業務や販売企画業務に従事。その後人事部での採用・企画・労務の経験を経て社内教育機関であるファンケル大学へ。全国直営店舗スタッフ、電話窓口スタッフ向けの教育体系を構築。現在はファンケルグループ全体の教育研修を統括している。夫と23歳の息子、20歳の娘の4人家族。
社内の教育機関を集約し、一気通貫した人材の育成を目指して「ファンケル大学」を開校
STORY編集部(以下同)――化粧品や健康食品の製造・販売の印象が強い御社ですが、なぜ“大学”という、教育機関なるものを設立されたんでしょうか?
2013年、ファンケルの創業者である池森賢二が10年ぶりに代表取締役会長として経営に復帰しました。その際、池森が気になっていた課題を3つ挙げました。「ファンケルらしさの希薄化」、「次世代経営層が少ない」と「店舗スタッフの専門知識・研修会の不足」です。これらの課題に対処すべく、「ファンケル大学」は同年3月、社内の教育機関を集約し、一気通貫した人材の育成を目指して設立されました。
――“大学”という名が掲げられた教育機関を設立し、「一気通貫」したかったこととは?
以前までは店舗スタッフの教育は、店舗の営業本部内の管轄、本社の研修や人材教育は人事部、といった形で別々でした。すると、各部署の研修内容に優先順位のばらつきが出て、教育ではなくなりがちに……。それよりも、第三者機関的なものを作り、そこで社内教育を体系立てて進めていく。職位を問わず全従業員の教育を専門に行い、「ファンケルらしさ」を体現するための理念教育や、接客・美容・健康のスキル向上による専門家集団の育成、次世代経営層の育成などを行っていきたかったのです。
――「ファンケルらしさ」とは?
「正義感を持って世の中の『不』を解消しよう」というのが、創業の理念です。不安・不便・不満・・・「不」のつく言葉を世の中からなくしたい、というのがファンケル創業時からの変わらぬ思い。そして、この創業理念がファンケルらしさの根源だと思っています。これが希薄化してしまうと企業としての存在価値が薄くなってしまう。なので、理念研修という形で、理念を今一度思い出し、どういう解釈なのかということを、皆で共有する場を設けるというのが、一つ大きな研修の中の柱になっています。
――具体的に「ファンケル大学」で行われている社内向けの研修内容を教えていただけますか?
大きく分けますと、お客様と接するスタッフへの教育と、本社や研究、製造など本社部門スタッフへの教育と二つに分かれています。前者は接客技術や商品知識、併せて美容や健康に関する専門的な知識を学ぶ内容です。後者に対してはマネジメントスキルや、各テーマごとに分かれ、グローバル研修やマーケティングに関する研修などもあります。階層や分野ごとに分けられ様々な研修が存在しますが、全社員に共通してかかってくるのは「理念研修」です。
――企業理念の柱の上に構築されてきた様々な研修ですが、時代の流れやニーズによってトピックや内容に変化などはあるのでしょうか?
私が入社した当時と比べると、大きく違うのがお客様との関わり方です。通信販売や直営店舗、そして流通・小売など様々なシーンでお買い物をしていただける環境が整い、通信販売と店舗を併用したお買い物も広がりました。その変化の中で、どういう形で接し、どうお客様に満足していただくのか? ということを突き詰めていくために行われているのがデジタルマーケティングに関する研修です。弊社としてもかなり力をいれて行っています。
――社外向けの研修などは行っていらっしゃるのでしょうか?
団体様からのご依頼はお受けしています。例えば、ある企業様の場合は、列車内で乗務するアテンダントにふさわしい身だしなみを習得いただけるセミナーをかなり前から実施しています。女性にはメイクレッスンを、男性アテンダントの方たちにはヘアスタイル、スキンケア、眉、爪のお手入れを学んでいただいています。また、ある企業様からは「食と健康」に関するセミナーを、というご依頼をいただき、野菜の優れた機能や美味しく召し上がれる理想の野菜を使用した料理を実際にいただきながら、今日から手軽に作れる野菜料理メニューも学べるセミナーを開催させていただきました。なお、現在は一般個人の方からのご依頼はお受けしていない状況です。
――多くの研修、学びの機会に携わり、実際に立ち会われ、感じられることとは?
学びの機会というのは色々あるということですね。仕事を持っていると、帰宅してから自分一人で勉強するという方は多いと思います。もちろんこれも学び。そして研修というように、みんなで勉強するという学びのスタイルもある。みんなで学ぶことで、自分にはない意見に気づいたり、他者を賞賛する気持ちから自分の心に火が付いたり。ファンケル大学の3つの教育方針の中に、「競育」というのがあります。切磋琢磨し、成長し合える関係を築く手助けをする、そして健全な競争環境を意識した研修の実施を意味しています。仕事の一環として学びの機会を設けてもらえること。それは仕事へのモチベーションアップや自身の成長に繋がります。社内は勿論のこと、沢山の企業様に多くの可能性を秘めた“研修機能”を大いに活用していただきたいと思っています。
――田中さんが感じる、研修機能に秘められた”可能性“とは?
社内でいうとシャワーを浴びるかのごとく、様々な研修が企画・運営され、それを受講する機会を提供しています。最終的には、自分の中に多種多様な引き出しを持ってもらいたい。今の会社のあり方がこのまま続くわけでもなく、何かが閉じ、新しい世界や事業に変化していく。そんな時に引き出しをぱっと開けて、立ち向かっていってほしい。ファンケル大学のミッションは、“バックアップすること”。こちらが教える、受講しなさい! というスタンスではなく、活躍してもらうためにバックアップ、サポートし続け、最終的に従業員の方が自立的に主体的に自分で学ぶものを選択したり、こちらが用意しなくても勝手に学ぶという姿が作り上げられていけばいいなと思います。研修機能には、そういう人たちを作り上げてくれるであろう可能性が秘められています。実際、私自身も、まだまだ学びたい! という気持ちに駆られているんです。
(後編に続く)
撮影/BOCO 取材/上原亜希子