コンプレックスをいつも抱えて後ろ向きになってしまう……。誰もがそんな悩みをひとつは持っているかもしれません。今回は、見た目のコンプレックスで一度は引け目を感じながらも、〝それが私の個性〟と受けとめて、世界を広げた方々を紹介します。
大倉加奈子さん 高身長アパレルブランド「ATEYAKA」代表
39歳・中華人民共和国・広州市在住
似合う服がないのは
「売っている服が悪いから」と
発想転換しました
「売っている服が悪いから」と
発想転換しました
隠すことができない180㎝という高身長をコンプレックスに感じていた大倉加奈子さん。何もしなくても目立つため、すれ違いざまに見知らぬ人に「でかい」と言われることも。
「苦痛でしたね。今思えば、日本は同じじゃない人を排除するような同調圧力が強い文化だなと思います」。
オシャレに関しては、興味があっても楽しめる服がなかったため、見ないふりをしていたそう。「高身長だから、なんでも着こなせるしうらやましい」という声があっても、何かが違うという服ばかり。袖丈は足りず、マキシ丈やセットアップを手に入れることは不可能でした。
大学、大学院では理論宇宙物理学を専攻し、ブラックホールの計算に没頭。アパレルとは全く無縁の企業に就職し、マレーシアで行われた新人研修がコンプレックスの意識を変えました。「国籍も違う新人が揃い、多種多様の中で高身長はただのひとつの特徴に思えました」。大した悩みじゃないと初めて思えたそう。
物理学をやっていたため、”当たり前を疑うこと”を信念にしている大倉さん。「似合う服や着られる服がないのは自分の体型のせいだと決めつけていました。けれども『それって本当かな』と疑うと、『私のせいじゃない、売っている服が悪いんだ』と思えました(笑)」。
結婚、出産をしたタイミングの’17年に思い切って退職。アパレル経験がない大倉さんでしたが、「高身長をポジティブに思いたい」と勢いで挑戦。「まずは日暮里の生地屋さんに良い工場はないかと尋ねることから始めました。知人からの『高身長は武器だし持ちたくても持てるものじゃないよ』という言葉に背中を押されたんです。
身長168㎝以上の20代後半〜40代女性は日本に約63万人。その10%に当たる6万人にブランドをまずは認知してもらい、3%を購買に繋げることを目指しました」。とにかく高身長女子に繋がりたいとインスタグラムで発信。自分を出すことでコミュニティ作りからリアルな声を反映した商品開発までスムーズになり、悩みを反映した納得いく服作りができるように。
お客様には涙を流して「人生が変わりました」と言われることもあるといいます。「人と違うことは個性であり強みだと思うようになりました。
今はモノ作りが楽しくて。楽しいと感じている時点でコンプレックスではなくなり、高身長は私にとって長所になりました。『ブランドがなくなったら困る』というお客様の声に、心躍る服の重要さを感じています。ビジネスとして存続させられるようがんばっていきたいです」。
取材/孫 理奈 ※情報は2023年8月号掲載時のものです。