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プロ野球オリックスのT-岡田選手、専門家たちが語る「おばちゃん野球コーチ」の魅力とは

「ここに入ると子どもが自立する!」と噂の少年野球チームを取材。名物〝おばちゃん〟コーチの子育て哲学について、オリックス・バファローズT-岡田選手をはじめとした皆さんに、お話を伺いました。

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結成52年、名門少年野球チーム「おばちゃんコーチ」の生きる力の育て方

目次 ★ おばちゃんコーチって?
★ T-岡田選手もOB!
★ うちの子が自立して、どんどん大人になってゆく!
★ 教育方法学の専門家に聞きました


おばちゃんコーチって?

○ 棚原安子さん(83歳)

少年野球チーム「山田西リトルウルフ」の低学年チームのコーチ。1940年大阪府生まれ。ソフトボール選手として実業団で活躍。4男1女の母。母親たちへの料理教室も開催。独自の指導哲学とお金をかけない運営が評判で、注目されている。

T-岡田選手もOB!

近くで昆虫採集をしていたらチームに誘われて(笑)でもボクにとってはかけがえのない場所です

○ オリックス・バファローズ T-岡田選手
1988年生まれ。履正社高校卒業後、2005年高校生ドラフトで1巡目指名を受け、オリックスへ入団。2010年に本塁打王、ベストナイン、2014年にゴールデングラブ賞を獲得。

小2の頃、友達と昆虫採集中に声を掛けられて。最初は本当に遊び感覚で〈友達が行くから自分も…〉と始めましたが、いつしか野球そのものが楽しくなっていました。失敗した時の悔しさ、成功した時の嬉しさや喜び、努力してダメな時もありますが、それでも努力し続けて成功したこと。それらはかけがえのない貴重な経験です。このチームだったからこそ、自分自身も成長できたと思います。

当時も「ユニフォームは自分で洗うこと!」と毎日のように言われていたのが良き思い出です。『自分のことは自分でやりなさい』という人間教育に重きを置いた山田西リトルウルフは、僕の
〝人〟としての土台を築いてくれた大切な場所です。

うちの子が自立して、どんどん大人になってゆく!

子どもが 「山田西リトルウルフ」に所属しているママたちの座談会

  • 左から、馬島仁美さん(46歳)・浦井扶実子さん(42歳)・吉岩成美さん(48歳) 
  • 左から、馬島彰孝さん(12歳)・浦井翔太さん(12歳)・吉岩瑞貴さん(12歳)
  • 当初は渋々だった彰孝くんは、センターのポジションで抜群の身体能力を発揮。自ら公文の宿題も進んで取り組むように。
  • キャプテンでエースの翔太くんは、家では洗濯物畳みや掃き掃除を手伝います。「頼まなくてもやってくれるので助かります」。
  • 体が小さくとも、走塁力、守備力はチームイチの瑞貴くん。目玉焼き作りにハマり、試行錯誤しながら作って楽しんでいます。

吉岩さん
チームでまず覚える社会勉強は、電話のかけ方。先日、私の職場に息子が電話をかけてきて「吉岩ですけどお母さんいますか」と先に自分の名前を名乗っていた。

浦井さん
息子が電話を全然切らないので「何してんの?」と聞いたら「おばちゃんに『目上の人が先に切るまで切ったらあかん』と言われた」とか(笑)。あと、荷物や道具は全部自分で用意して持っていくようになったのだけど、荷物が重そうだから私が持ってあげようとしたら「持ったらあかん!」とおばちゃんに怒られたわ(笑)。

馬島さん
練習後のミーティングでは、みんなの前でマナーを教えてくれたりする。本当にありがたいです。

浦井さん
低学年の頃は、そのミーティングがやたらと長い(笑)。

馬島さん
うちはチームに入った弟たちが自分でユニフォームや靴下を洗っているのを見て、サッカーをしていたお兄ちゃんもドロドロのユニフォームを自分で洗うようになって、すごく助かった(笑)。

吉岩さん
昔よくいた〝ご近所のおばちゃん〟の雰囲気で温かいよね。

浦井さん
私たち母親は、お弁当作りと応援だけしかしてない(笑)。

教育方法学の専門家に聞きました

〝おばちゃん〟コーチ の教え方は古いような気もしますが、どうなんでしょう?

大前暁政先生(46歳)
大前暁政先生(46歳)
京都文教大学こども教育学部教授。公立小学校教諭を経て、大学教員へ。教員養成課程において、教育方法論や理科などの教職科目を担当。理科の授業研究が認められ「ソニー科学教育プログラム」に入賞。著書多数。

棚原さんは子どもの自立を促すうえで、とても理にかなった指導をしていると思います

棚原さんの指導法は、私も賛成です。子どもを自立へと導くためには3つの段階が必要です。

まず第1のステップは大人が子どもに〈お手本を見せて教える〉こと。まずは子どもにやり方やコツを教えてあげることです。それが終わったら、次のステップでは〈やらせてみる〉。親が関わりながら子どもと一緒に取り組んでみます。そこでやりきることができると、例えば「掃除をすると綺麗になって気持ちがいいな」、「自分なりに頑張って良かったな」という具合にプラスの感情が生まれます。

そして大切なのが、3つめのステップ〈手を離す〉ということ。棚原さんが実践されているのはこの部分です。〈手を離す〉といっても、いきなり放置するのではなく〈見守る〉。実はここがいちばん難しいのです。

子どもがやらないと親はつい手伝ってしまいますが、棚原さんが言う「親が手伝うな」というのは、ある意味で子どもにデメリット体験をさせることも必要だというメッセージ。シューズを洗わないで放っておく→次の試合の時に汚くて臭いシューズを履くことになる→気持ち悪い。そうなれば本人もシューズを洗う気になります。教えられたことは自分でやろうとしないといけないことを理解します。やがて、親がうるさく言う必要もなくなり、自分からやるようになります。

また、他の野球チームにはない「おばちゃん」という呼び名でコーチをされていますが、そこには集団における〝心理的安全性〟があると思われます。親しみやすい雰囲気があって〈失敗してもいい〉と思える安心感。それがないと人は挑戦することをやめてしまうという研究結果もあるほど重要です。それに加えて、野球チームには子ども同士でお互いの力を高め合う効果があります。「野球が上手くてカッコイイ先輩お兄ちゃんたち=素敵なロールモデル」がそばにいることで、子どもたちはゴールを目指して頑張っていくのです。

子どもを自立へと導く3STEP <1>子どもにお手本を見せる。*大人がしっかりと教える
<2>関わってあげながら、子どもにやらせてみる。*子どもにプラスの感情が生まれる
<3>手を離す=見守る。*ここで大人が手伝おうとするのはNG

撮影/久保嘉範 取材/東 理恵 ※情報は2023年8月号掲載時のものです。

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