コミュニケーション講師、心理セラピストして活躍する吉井奈々さん。元男性の吉井さんは性別適合手術を受けて戸籍を女性に変更。4年ほど前に10歳年下の航平さんと結婚し、現在は吉井さんが外で働き、航平さんが専業主夫をしています。二人にとっての理想の夫婦や仲良くい続ける秘訣とは?
「お互いができることをしてサポートする“きのう何食べ”の二人が理想」
私たちは私が元男性のトランジェンダー、私が外で働き、夫の航平が専業主夫。子どもを持たない選択をするなど、世間一般の夫婦とは少し違うかもしれません。でもこれまでに大きな喧嘩や危機はあまりありませんでした。秘訣は「自分ができることはするけれど、相手に同じことを求めない」だと思います。例えば我が家では料理は専業主夫の夫がつくってくれていますが、「たまには奈々が料理をしてよ」とは絶対に言いません。逆に私も、「外で働いて欲しい、私がやっていることを航平にもやってほしい」とは決して思いません。
自分が当たり前にやっていることって、同じように相手に対しても求めがちですよね。でもそれが相手にとっても得意なこととは限らない。だから押しつけるようなことはお互いしないように気をつけています。二人ともどうしても苦手なことは、協力してやるか、外部の委託やそういうサービスを利用するときもありますね。
それに気づけたのはコロナ禍。結婚してすぐに二人でいる時間が増えたため、つい口喧嘩になることも。そのときにお互いに価値観の押しづけはよくないと気づけました。逆に私が重く受け止めていることを、「大丈夫でしょ」と楽観的に捉える面を知ることができ、こういう考え方ができる人もいるんだと、気が楽になりましたね。
「年齢に合わせた変化を楽しみながら、ずっと仲良くいたい」
私の両親は旅行が大好きで、年齢を重ねるごとに、その歳に合った楽しみ方を見つけています。若い頃は世界一周の旅に出ていましたが、最近はゆっくり観光ができるクルーズ船の旅がお気に入りだそう。今のままでも楽しいのですが、私たちも年齢に合わせた変化を楽しみながらずっと仲良くいたいと思っています。最近の理想は、漫画やドラマでも話題の「きのう何食べた?」の二人。夫のつくったおいしいご飯を食べながら、お互いができることをサポートしながら生活していく姿は憧れですね。
「元男性のトランジェンダーと夫婦ってどうなの?」と感じる人もいると思いますが、私たちは二人だからこそ面白いこと、楽しいことが多いように感じています。元男性だから食べる量や食の趣味は似ているし、小さい頃は男の子カルチャーで育ったので話も合う。ゲイの友達を呼んで家でパーティーをするなど、普通の家庭ではないことがたくさんあります。
「二人がいつも楽しくいられる形を選択したい」
私たち夫婦は世の中から求められている夫婦のモデルとは違うかもしれませんが、二人がいつも楽しくいられる形を選択しています。世の中から色眼鏡で見られることもまだまだありますが、世間のために生きているわけではありません。
実際に一歩踏み出してみると離れていく人もいますが、私たちが楽しむ姿を見て応援してくれる人もいます。もし不安だったり反対している人がいても、私たちがずっと幸せな姿を見ていたら、きっと安心すると思うんです。何度も話し合うよりもそれが一番効果的なはず。もし私たちと同じような環境で悩んでいる人がいるならば、ぜひ二人の楽しいことを大切にしてほしいと思います。
写真提供/吉井奈々さん 取材/酒井明子