STORY世代に発症の多い乳がん。乳がんは、がんを摘出できたとしても乳房や乳首を失うことが多く、傷跡を見る度に精神的にも大きな傷を残してしまうと言われています。「人工の指や鼻はあるのに、なぜおっぱいは無いのだろう?」という想いから立ち上げられた人工乳房専門の『natural breast』。女性たちに寄り添う人工乳房とはどういうものなのでしょうか。
※こちらの記事では、実際の患者の方の胸部の写真があります。
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★ まるで本物のおっぱいのよう「人工乳房」とは
★ 「人工乳首」もひとりひとりの特性にあわせてつくります
★ 最後に……乳がんの患者さんと向き合い続けて感じること
今回お話を伺ったのは・・・
喪失感を抱えている女性たちが、これ以上諦めることがないことを願って
――人工乳房を作ろうと思ったきっかけは?
元々、かつら制作の専門の会社を経営していたのですが、そこにウィッグを買いにくる人の3分の1が、病気によって髪の毛を失った女性たちでした。その女性たちのなかでも圧倒的に多いのが乳がんを患っている方々。皆さん片方のおっぱいを失いながらウイッグを買いに来るんです。その時に、人工の指や鼻は存在するのになんで人工のおっぱいはないの?と思ったのが会社を作ったキッカケです。手探り状態で人工乳房について一から研究し、今では設立から10年経ちました。おっぱいがあるうちは気がつきにくいのですが、おっぱいがなくなってしまうと温泉やプールに行き辛くなったり、体のラインが出るオシャレが楽しめなくなったりするんです。何より、喪失感も大きいですよね。そんな女性たちに少しでも寄り添えるものを作りたいという気持ちで作りました。皆さん作り物だからとあまり期待せずに作ってみたら、出来上がりの自然さにとてもびっくりされるんですよ。本物のおっぱいとそっくりなので、今まで諦めていたこともできるんです。
②カラダのラインを気にせず、オシャレができる。
③パットと違ってズレないので運動を楽しめる。
④他者に病気になったことなどを悟られない。
⑤何より自分の気持ちが楽になる。
まるで本物のおっぱいのよう「人工乳房」とは
人工乳房はシリコンで作られており、重さは110g〜300g程度。本当の乳房よりは少し軽くできています。内側は空洞になっていて周りのシリコンで胸に着く構造なのでズレにくく、ほとんどの全摘手術の方の手術跡に使えるようになっていて、ヌーブラのような感覚でつけられます。
ーー人工乳房の種類は?
人工乳房は『完全フルオーダー』と、セミオーダーによる『ベーシックタイプ』『ベーシックプラス』『プレミアムタイプ』の中から選べます。フルオーダーはおっぱいを3Dカメラで撮影し、その人にあわせて設計して作るので3ヶ月ほど時間がかかりますが、撮影の時と2回目の色つけの時の2回の来店だけで作るので負担は少ないと思います。全国に45店舗もあるので近くのサロンへ行くことができます。また乳がん全摘だけでなく「部分摘出手術」「乳房再建手術」「火傷」「腫瘍」「漏斗胸」「豊胸」「ポーランド症候群」など様々なケースに対応しています。
一方セミオーダーは、『ベーシックタイプ』『ベーシックプラス』『プレミアムタイプ』があります。『ベーシックタイプ』は日本人の胸の形でよくあるパターンをコンピューターで割り出した、左右で28パターン(片側で14パターン)の型から選んでつくります。この中から約90%は自分のおっぱいに似た形を見つけることができます。誰でも左右同じおっぱいではないので、左右少しくらい形が違っても違和感はありません。『プレミアムタイプ』はさらに健側を見ながらピッタリに色付けし、肌感までそっくり仕上げるので元のおっぱいと分からないレベルにまで仕上がります。
*ベーシックタイプ人工乳房 (¥198,000/1個)、ベーシックプラス人工乳房 (¥220,000/1個)プレミアムタイプ人工乳房(¥253,000/1個)、フルオーダーメイド人工乳房(¥398,000/1個)
実際に「人工乳房」を装着しているご様子。肌馴染みがよく浮きません
左の胸と同じような形、色で、人工乳房を装着しているとは分からないほど。温泉に行っても周りの人に気づかれないほど自然です。
「人工乳首」もひとりひとりの特性にあわせてつくります
人工乳首も、シールのように装着が可能。自分の残っている乳首の特徴にあわせて色と肌感、乳輪の大きさを揃えます。乳房の再建手術をしても乳首は再建しない人が多く、そのようなお客様が乳首だけ購入されるというパターンも。再建手術で腿や建側の乳首半分と鼠蹊部の黒っぽい皮膚から移植して乳首を作っても、時間が経つにつれて吸収されてしまい形が残らなかったり、黒いシミになったりして身体的負担と見合わないことも多いのです。
ーー人工乳首の種類は?
人工乳首もフルオーダーとセミオーダーの中から選べます。フルオーダーは写真を送るだけの非対面・非接触だけで作れる日本初のサービスです。一方セミオーダーは、6種類の乳首の型と15種類の乳首の色の、10,800通りのサンプルの組み合わせの中から選ぶことができます。乳輪はその人に合わせて色と形を専用に作るので本人の乳首と同じように作ることができて、2~3週間で完成します。
フルオーダーメイド人工乳首(¥90,000/2個)、セミオーダーメイド人工乳首(¥29,800/2個)
実際に「人工乳首」を装着しているご様子。左右のバランスも◎
実際に左胸を再建手術した方が、人工乳首を装着している様子。形や乳輪の色などそっくりで違和感はありません。
最後に……乳がんの患者さんと向き合い続けて感じること
自分のカラダの一部を失う「乳がん」は特別ながんだと考えます。他のがんだったら、お腹から患部を切って、取って、縫って完治すれば、がんだったことを忘れて生活することもできる。でも乳がんは10年経って「もう大丈夫」と言われても、おっぱいがない自分を見るのは毎日で、一生続くのです。元の体に戻りたいという気持ちは消えないし、人工乳房を試着した瞬間に涙を流す人もたくさん見てきました。母親に乳がんの手術したことを話せずバレないように買いにくる人もいるし、温泉で周りの人を驚かせないようにと人に気を遣って買いにくる人もいます。ヨガやゴルフなど手を動かすとパットがズレる運動は、制限してしまう人もいるのです。セクシャルな部分なだけに、人に相談できずに悩んでいる大勢の女性たちの気持ちに寄り添いたい。人工の乳房や乳首があることを選択肢の一つとして知ってもらい、一人でも多くの女性たちの乳がん後の生活をサポートできたら嬉しく思います。
取材/北野法子
〒812-0018 福岡県福岡市博多区住吉3-1-18 福岡芸術センター507
TEL:0120-66-1167
https://www.naturalbreast.co.jp/