夜の世界や女性性を軸に幅広いテーマで執筆活動を行ってきた鈴木涼美さん。昨年ご出産されたことで新たな視点が加わり、作家として、女性としてますます目が離せない存在に。40代の今感じること、これからについて考えていることを探りました。
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★ 40代になっても常に新しい喜びを知ることを恐れないようにしたい
★ スワロフスキーの棚からキャベツスライサーの棚へ…
★ 作家としてのこれから。
40代に突入した今の自分の楽しませ方
「恋愛経験豊富だと思うんですけど…」とか、私もよく言われますけど、たとえば私がかつて水商売をしていたように、キャバクラで働いていろんなお金持ちや有名人と遊んでいた人、ラウンジにいる港区女子で芸能人と付き合っていた人、彼女たちが40代になって、今自分の楽しませ方を知っているかといったらそんなことないと思うんですよね。恋愛経験が豊富でいろんな人と付き合っていた人は1人の人と長く付き合ったことはないわけだし、その逆もしかりで。結局同じ地平に立っていると思います。だから「経験浅いままに結婚しちゃったのでこのままでいいのか」とか「楽しいことを知らないまま落ち着いちゃったんじゃないか」という思いがある人がいるんだとしたら、それはイコール今余裕とか自由ができて「何かしてみたい」欲求があるということだと思うので、その欲を大事にする方がいいですよね。それに、若い頃色々な遊びを経験しちゃって、これも退屈、あれも退屈となっているより「こんなに楽しいことあったんだ!」っていう40代の方が、楽しいこと探しは得意かもしれない。
40代になっても常に新しい喜びを知ることを恐れないようにしたい
若い時に比べてそれなりに自分の特性とか、ファッションでいえばどんな服が似合うかとかわかっちゃうじゃないですか。そうすると新しいことにあんまり挑戦しなくなったり、髪型を変えるだけでも腰が重くなるので、良くないなと思います。やっぱり変化を恐れるようになったら人間は一気に老けると思うので。仕事にしろ、私はこういうのが得意っていうのがわかってきちゃって、そういうのばっかり書いていても自分的に新しい面白味みたいなのがないので、変わることを恐れない40代にしたい。40代って平均寿命からするとまだ人生半分なんですよ。しかも20歳ぐらいからと考えると、たかだか20年ぐらいの積み重ねで、自分の限界値とか行動範囲が定まっちゃうのはちょっともったいない気がするので、新しい喜びを知ることを恐れないようにしたいなと思います。
周りを見ると、20代、30代に年上の人とずっと付き合っていた人が、40代になって15個ぐらい年下の人との方が自分的にしっくり来ているみたいな人もいます。それは、やっぱり40代ならではの発見じゃないですか。20歳の時は15個下だと5歳だし(笑)。カラオケ行った時の話題とかは合わないと思うんだけど、自分がどうやって思いやりを尽くせるかということとか意外なしっくり感とか、それって私は「おやじ好きです」っていう25歳の時の感覚で固まっちゃっていたらわからなかっただろうなと。恋愛に限らず新しいことはどんどんやるべきですよね。
スワロフスキーの棚からキャベツスライサーの棚へ…
普段は結構快適に生きたとしても、性的な香りがなくなってしまったことがどこかで何か引っかかる時があるんですよ。例えば、子供を産んで爪を短くした今、私にとってネイルはかなり重要だったなと感じます。爪が自分好みじゃないと「私の人生これでよかったのかな」みたいに思うことがすごくあって。でもやっぱり人生の折々の優先順位が変わるのはしょうがないので、何かしらの折り合いのつけ方というか、これまでジェルネイルはやったことがなかったけどこういうジェルだったら割と好きかなとか、海外の女優さんが短い爪に濃い色のネイルをしているのも可愛いなとか、新しく好きになれるものを探すしかないですね。うまくカスタマイズしながら、ギリギリ「自分は現役だ」と思えるようにした方がいいなと思いますね。お母さんが色っぽくないということは、ある種、人に安心感を与えるところがあって変な目で見られないからいいやと思っていたけど、でも街に出てくるとやっぱりなんか「失ったものがいっぱいあるな」と思うんです。「もう一度ちゃんと口紅塗ろう」みたいに思ったりするから重要なことですよ、街に出ていることは。
私より先に母親になっている同年代の作家の作品を読むと、揺らぎみたいなものと向き合ってきた軌跡が見えて、すごく面白いし勉強になりますね。母親が幸福であることや恋愛をする自由を持っていることは、よくよくは子供のためになると思うんだけど、じゃあそのせいで円滑でなくなってしまった子供とのコミュニケーションをどう取り戻すかとかバランスに悩んでいたり。夫のことを裏切りたくないっていうよりは、娘にどう思われるかということがネックになっている人も意外といるんじゃないかなと思います。みんな夫より子供の方が失いたくないですからね。男は変えられるけど、みたいな(笑)。
作家としてのこれから。
子供を連れるようになると、自分の目のほかに娘から見る世界も想像するようになるから、恋愛とかセックスに関する考え方も結構変わるんじゃないかなと思いますね。傷つくのが自分だけの時はそれほどたいしたことないことでも、娘や息子がいるとなると「息子にこういう風になってほしくない」とか「娘にこういう想いをしてほしくない」という思いが芽生える人が結構多いと思うので。そうすると、社会にはびこっている女性に我慢をさせる根強い価値観みたいなものに対して「変えてほしいな」みたいな視点ができることはすごくあると思います。
私は基本的には夜の街とか、女性の女性性とか商品価値とかについて考えることが多くてそういう話が多かったですが、やっぱり自分の今の興味や日々考えていることってアンパンマンの世界観とかなんですよ。夜の女性についての興味が絶えるわけじゃないし、女性の薄れゆく商品価値とどう向き合うかとかはすごく私にとっての大きなテーマなので、子供を産んで「変わっちまったな」とは思われたくはないんだけど、でも自分が日々接しているコンテンツも変わるしやっぱり日夜考えていることも変わるので。変わる部分と、でも私の原点はここだって立ち戻る部分と、両方持っていたいなと思いますね。自分の中のアンパンマンの世界観と歌舞伎町がどう融合するのか、バイキンマンはたくさんいそうだぞ(笑)とか。だから、自分的には結構楽しみではありますが、今は書くリズムがまだ掴めなくて割とスローペースになっちゃてるので、まずはそこを。昔は歌舞伎町の深夜やっている喫茶店とかそういうところで書いていましたし、その方がライブ感もあって実際横でネタが生まれたり。小説を終わらせるときも息を止めて2日間徹夜で書き上げるみたいなことが多かったんですが、今は深夜疲れて寝ちゃったり、ノってきたところで娘のお迎えの時間になっちゃったり。深夜じゃなくてちゃんと昼間かける人間にならないと、と思いました。昼間9時5時で書いている作家さんとかもいるから、それを見習って。変わったものはしょうがないからその中で自分のペースを作らなきゃなとは思っています。
1983年生まれ。東京都出身。作家、エッセイスト、コメンテーター。慶應義塾大学在学中にAVデビュー。東京大学大学院修士課程修了後、日本経済新聞社に5年半勤務。著書に『「AV女優」の社会学』、『JJとその時代~女のコは雑誌に何を夢見たのか~』、上野千鶴子氏との書簡集『往復書簡~限界から始まる~』、『ギフテッド』『グレイスレス』 (両作とも芥川賞候補)、『YUKARI』(三島賞候補)他多数。フジテレビの秋元優里氏とのポッドキャスト番組「ねーきいてよ」がSpotify、Apple Podcastなどで好評配信中。
撮影/佐藤俊斗 ヘアメーク/川村友子 取材/香取紗英子









