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千葉市美術館館長であり、女性初の日本博物館協会会長も。文化財を守る人生でいちばん衝撃だった出来事とは

美術館はいま、静かな変化の中にあって、とても刺激的。知と感性を携え、アートをひらき、人を迎え入れる——。展示を見る場所から〝価値を創造する〟新たな場所へ。多様な価値を示しながら、美術館の未来を動かす、話題の女性館長たちの仕事と、その美術館の現在に迫りました。

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山梨絵美子さん・千葉市美術館 館長

作品と人、そして過去と未来をつなぎ
〝開かれた場〟として美術館を導く

千葉市美術館館長であり、女性初の日本博物館協会の会長も務める山梨絵美子さん。’21年の千葉市美術館長就任後、まず取り組んだのは〝文化の資源を見える化する〟ことだった。彼女が最初に提案したのは、所蔵品の全リストをウェブサイトで公開し、学芸員の活動や資料を含めたアーカイブを整えること。

「今の時代にあるべき美術館の姿を考えたとき、公立の美術館として、これだけの作品を持っているならば、それが市の財産であると伝えたい。学芸員たちの仕事を、市民にきちんと理解してもらうことが大切だと思い、スタッフにその重要性を伝えました」。

今年、開館30周年を迎え、創設期から関わってきた学芸員の世代交代を迎えている。その知識や判断、作家とのやりとりまでも、すべてが次代に渡すべき〝知の蓄積〟だといいます。「作品データも学芸員の仕事も、社会における文化資源。それを残していくことこそ、美術館の継続、未来につながると思うんです」。

折しも’22 年改正博物館法で、博物館は従来の「社会教育施設」から、地域と文化をつなぐ「文化の拠点」へと役割が拡大された。「資料のデジタル化や情報公開、地域連携など、展示だけでなく〝文化を社会に開く〟こと自体が博物館の使命とされ、この美術館の柱に据えられたと思います」。

当館の象徴である「さや堂ホール」は、戦災を免れ、市民運動によって保存された旧川崎銀行千葉支店を活用した建物。「古いものを残して新しいものを建てる。これこそまちづくりの姿。この建物を残してくれた人たちの思いを、次の世代に手渡していきたい」。

そんな山梨さんの原点は、秋田で過ごした幼少期。美術好きの父に連れられて平野政吉美術館で見た藤田嗣治の大壁画『秋田の行事』に圧倒された。また、館の出資者である平野政吉とも縁があり、藤田の作品を身近に見られる環境が感性を育て、その後、東京大学で美術史を専攻し、卒論は藤田嗣治、修論では高橋由一を研究。「日本近代絵画の出発点を、自分の手でたどってみたかった」。秋田で出合った藤田の〝生きた絵〟の記憶が、研究者としての原点に。

その後、東京文化財研究所(当時・国立文化財研究所)に就職し、黒田(清輝)記念館の運営や展示、巡回展などに携わってきて現職。美術館の現場に立つことは、とても嬉しかったのだそう。

数年前、千葉市美術館に誕生した「つくりかけラボ」は、子どもたちが作家と一緒に創作を体験できる空間、その重要性もこれからますます大事になると語る。「今の子どもたちはデジタルから入る傾向にありますが、人間には身体があり、触って、匂って、五感全部と体とで感じることが大切。日常の中で〝本物〟に触れる喜びや体験を広げたいですね。当館は国内屈指の浮世絵のコレクションがあり、多色摺の鮮やかさや摺の繊細さはデジタルでは再現できないため、ぜひ圧巻の〝本物〟を見に来て、体験してほしいです」。

長年、美術に関わる仕事をする中で、衝撃の出来事もあったとか。「ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、ロシアから借りていた作品の返却が困難に。航空便が止まり、担当学芸員が輸送業者さんと協力して北欧経由の陸路を探し出し、一度は国境で拒まれながらも、ようやく返却にこぎつけて。作品は社会の中で生きている。文化財を守ることは、人の信頼、国の信頼を守ることでもあるんだと改めて実感しました」。

その静かな情熱で、美術館を新たな知の芽吹く場所へと育て、作品と人とが響き合う未来を思い描いていました。

<編集後記>デジタルではない、生の色や質感を五感総動員で体験 ロシアへの作品返却の話は、学芸員の仕事の責任の重大さに胸を打たれました。所蔵品や企画展の作品も、人や国の信頼の上に成り立ち、作品への情熱や裏話を知り、今後の作品を見る眼差しが変わりました。浮世絵の所蔵も唯一無二、話題の映画に登場する浮世絵師のコレクションも豊富で、推し活としての来訪も増えているのだとか。(ライター 羽生田由香)

撮影/吉澤健太 取材/羽生田由香 ※情報は2026年1月号掲載時のものです。

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