美術館はいま、静かな変化の中にあって、とても刺激的。知と感性を携え、アートをひらき、人を迎え入れる——。展示を見る場所から〝価値を創造する〟新たな場所へ。多様な価値を示しながら、美術館の未来を動かす、話題の女性館長たちの仕事と、その美術館の現在に迫りました。
蔵屋美香さん・横浜美術館 館長
アートと人々をつなぐ、
開かれた美術館へ。
「1枚の絵から、夢は広がっていく」
開かれた美術館へ。
「1枚の絵から、夢は広がっていく」
みなとみらいの街中にありながら、潮風を感じる開放的なロケーションで一際存在感を放つ横浜美術館。建物の大規模改修工事を経て、2025年2月に全館オープンを果たしました。
そんな注目の美術館を支えるのは、館長の蔵屋さん。「幼い頃から絵を描くのが好きで、美大へ入学したものの専攻した油絵が性に合わず…。その後、大学院で取り組んだ美術作品の批評が想像以上に上手く書けたんです。それを機に、東京国立近代美術館の学芸員に。美術の研究や展覧会の企画、収支改善にも携わり、ちょうどキャリアチェンジを考えていた頃、館長のオファーをいただきました」。
就任時はコロナの真っ只中。工事による休館のタイミングとも重なり、ミッションやバリューなど核となるソフト面も一から見直したそう。「時代にも寄り添う形で〝多様性〟をミッションに掲げました。特に横浜地区は子育て世帯が多い街。ファミリーを中心に、年齢や性別、障害の有無に関わらず、あらゆる人が行き交う美術館を目指しました」。
什器もオリジナルで製作し、建物の石から抽出した11色の椅子を大量に配置。誰もが気軽に憩える空間作りを徹底しました。「特に入口前の回廊には沢山の椅子を置き、美術館に面した広場とシームレスに行き来できる開かれたスペースにしました。作品鑑賞を目的としなくてもいい。美術へのハードルを下げて、多様な人が自由に集える、そんな場にしたかった」。
〝美術の楽しみ方がわからない〟という人には、試してほしい方法があるそう。「絵に対峙して、描かれている事柄全てを1つずつ言葉にしてみてください。そのうち、これ何だろう?とちょっとした違和感を覚えるポイントが見えてくるはず。例えば当館で人気のマグリットの作品にも、あれ?と思う箇所がいくつかあります。違和感に気づいたら〝何故そんな風に描いたの? 何を伝えたかったの?〟と問いかけて仮説を立てる。それって実は、50年前のマグリットと会話しているのと同じことなんです。絵に向き合うだけで、昔の作家とコミュニケーションがとれるなんて素敵ですよね」。
人生において大切なことも、美術鑑賞から学べると話します。「観察して発見したら言語化し、それを伝え合って新たな気づきを得る。他者を理解し、受け入れる。このプロセスこそ、これからの時代を生き抜く上で欠かせないスキル。それを活かせば、将来イノベーションが生まれるかもしれない。1枚の絵は無限の可能性を秘めていて、作品に感動したら、芸術家やデザイナーを志す子供たちが増えるかもしれない。アートから夢を広げていくことが、美術館の重要な使命だと信じています」。
撮影/吉澤健太 取材/渡部夕子 ※情報は2026年1月号掲載時のものです。









