抜群の演技力とナチュラルな佇まいで唯一無二の存在感を放つ小林聡美さんが、舞台『岸辺のアルバム』に出演します。演じるのは、多摩川の土手沿いに居を構える、一見平和で平凡な田島家の専業主婦・則子。やがて、家族各々が抱える問題が露わになり、そこへ大型台風が接近し……という、山田太一さんの名作ドラマを初めて舞台化した作品です。俳優のみならずエッセイストとしても活躍するチャーミングな60歳に、稽古の様子や日々の暮らしについて伺いました。
★ “自分らしく生きていっていいんだよ”みたいなメッセージも、ちょっと伝えられるのかなと思います
★ 自分の人生、やったことがないことは、とりあえずやってから死んだらいいんじゃない?
★ 大抵のことは実は大したことがないんじゃないかと思っていて
その状況をどう突破していくのか?というところも、ハラハラして面白いです
ーー1977年に放送された全15話の名作ドラマを舞台化した本作品。小林さんはドラマをご覧になっていますか?
リアルタイムでは拝見してないんですけれども、「山田太一さんのドラマが面白い」というのがわかり始めた頃に一度見ました。でも、それももう20年ぐらい前だったりするので、今回このお芝居をやらせていただくにあたって見直しましたら、印象が全然違いましたね。大人の事情や子どもの事情、生きるということのいろんな大変さとか、切羽詰まった感じとか、それぞれが抱えている苦み……そういうものが、大人になった分すごく理解できるなという風に思いました。
ーー舞台版の脚本はどんなものになっているのですか?
稽古の最初に出演者全員で読み合わせをしたんですけれども、ト書きの部分まできっちり描かれていて、“こういう舞台になるんだ”という実感が湧きました。全15話のドラマの世界観をちゃんと抽出した素晴らしい脚色だなと思いましたね。今回ステージの形もちょっと変わっているので、舞台という空間を逆手にとった、演劇ならではの『岸辺のアルバム』をお見せできるのではないかと思います。その分、覚えることも多そうなんですが(笑)、頑張ります。
ーー作品の面白さを、改めてどんなところにお感じですか?
登場人物たちが“どうしよう!?”となるところまで追い詰められる感じが、やっぱり面白くてシビレますね。最近、配信で山田太一さんの『想い出づくり。』も見たんですけれども、そのドラマの登場人物たちも「それでいいのか」「そんなんでいいのか」という風に、ギリギリのところを突きつけるようなセリフを吐いたりしていて。山田さんの作品には、そうやって“物事の本質”を見ている人にも考えさせるようなテイストがありますよね。その状況をどう突破していくのか?というところも、ハラハラして面白いです。
“自分らしく生きていっていいんだよ”みたいなメッセージも、ちょっと伝えられるのかなと思います
ーー小林さんが演じる役は、仕事一筋の商社マンの夫、大学生の娘、受験を控える高校生の息子と暮らす専業主婦の則子。どんな印象をお持ちですか?
自分が子どもの頃に見てきたお母さん、という印象があります。そこから女の人がどんどん自由になっていく時代も見てきたので、懐かしくもあり、女性が抱えている問題は全て変わったわけではないんだな、とも思ったり。そういう変遷を自分の中で実感できるのが面白いですね。女性はこうあるべき、男性はこうあるべきというのが、今よりもキツかった時代の則子の生き方を見ていただくことで、“自分らしく生きていっていいんだよ”みたいなメッセージも、ちょっと伝えられるのかなと思います。
ーーそう話される小林さんこそ、常に自然体で自分らしく生きていらっしゃる方、という印象があります。還暦を迎えて、さらに肩の力が抜けたように感じますが。
肩の力がより抜けてきたかもしれないなという雰囲気は、自分でも感じます(笑)。還暦になって思ったのは、人生100年と言われるので、あと40年ぐらい生きる可能性はあるけれども、元気でいられる時はどれくらいあるのかな?とか、あと何年この仕事ができるのかな?といったこと。そう思うと、ちょっと寂しくもあり、「あ、あとこのぐらいでいいんだ」と清々するような気分もあり。なるべく楽な気持ちで、いろんなことに向かえるようでありたいなと思います。
ーー清々する気分というのは?
たとえば、SNSでものすごく叩かれたとしても、「別にいいや」みたいな気分というか(笑)。冷静に考えても、もう40何年も仕事をやらせてもらってきているので、「もう、いつ終わってもいいんだな」という風に思えば、そんなに深刻にならなくていい。リラックスしてやっていけばいいのかなと。
自分の人生、やったことがないことは、とりあえずやってから死んだらいいんじゃない?
ーーさすがです。2024年に“チャッピー小林”としてコンサートを初開催、昨年はビルボードライブで『小林聡美 Sweet 60th』を開催と、近年は歌のお仕事にも挑戦されています。歌には以前から興味があったのですか?
歌とか音楽は前から好きでしたけど、人前で歌う仕事が自分にやって来るなんてことは、考えてもいなかったです(笑)。やってみようと思ったのは、「自分の人生、やったことがないことは、とりあえずやってから死んだらいいんじゃない?」と思ったから。50歳を過ぎた辺りから、「やったことがないことをやってみようかな」と、より思えるようになりまして。
ーー実際にコンサートをなさって、いかがでしたか?
音楽って、人の気持ちをあっという間にゆるめてくれたり、楽しませてくれたりするじゃないですか。でもそれは簡単なことじゃないんだなと実感しました。たとえば、言われたら何でもすぐにできそうなバンドの人たちも、あたりまえかもしれないけど実はそれなりに時間をかけてちゃんと練習していて、だからこそ、この演奏がある。そういうことがわかって、余計にすごさを感じました。
ーーコンサートの演出は小泉今日子さん。お二人が主演なさったドラマ『団地のふたり』(2024年)も素敵でした。同い年でもある小泉さんは、小林さんにとってどういう存在ですか?
私は「小さなモンスター」と思っているんですが(笑)、どこからそんなにパワーが湧いてくるのか?っていうぐらい、いつも元気だし、人に対して開いていて、本当にすごい人です。ご自身は「ひとりが好き」と言ったりしていて、そういう部分もあるみたいですけど、“人に与える人”なんだなと感じます。2024年近辺は、そんな小泉さんとの仕事がすごく多くて面白かったですね。そういう星回りなのかなと思ったりしました。
大抵のことは実は大したことがないんじゃないかと思っていて
ーーそれにしても、いくつになってもチャーミングな小林さん。普段の生活でどんなことを大切になさっていますか?
もりもり食べることと、思い悩まないこと、ですかね。大抵のことは実は大したことがないんじゃないかと思っていて。たとえ辛いことがあったとしても、俯瞰すると「大変だけど頑張ったね」という風に思える視点があるような気がするんですよね。いろんなことを、そんな視点で見られたらいいなと思っています。
ーー素敵です。ちなみに、主に何をもりもり食べていらっしゃいますか?
ご飯ですね。パンも美味しいですけど、やっぱりご飯は力になるといいますか、食べ終わった後の体の温まり方が違う気がします。私の場合は、特に舞台をやる時はご飯じゃないと持たないです。昨日も本読み稽古をしただけなのに、帰ったら体重がすごく減っていて、ますます食べないと!と思いました。
インタビュー後編に続きます
モチロンプロデュース『岸辺のアルバム』
1977年に放送された名作ドラマを初めて舞台化。多摩川の土手沿いにマイホームを構える田島家は一見平和で平凡な四人家族だが、やがて各々が抱える問題が浮き彫りになる中、大型台風が近づいてきて……。
作/山田太一 脚色/倉持裕 演出/木野花
出演/小林聡美 杉本哲太 細田佳央太 芋生悠 前原滉 伊勢志摩 夏生大湖 田辺誠一
4月3日~26日/東京芸術劇場シアターイースト
5月1日~4日/大阪・松下IMPホール
取材・文/岡﨑 香 ヘア・メーク/磯嶋メグミ スタイリスト/藤谷のりこ 撮影/沼尾翔平
ジャンプスーツ\67,100(suzuki takayuki)イヤリング\38,500(tamas)
〈お問い合わせ先〉
suzuki takayuki 03-6419-7680
タマス青山店03-6674-8583

















