抜群の演技力とナチュラルな佇まいで唯一無二の存在感を放つ小林聡美さんが、舞台『岸辺のアルバム』に出演します。演じるのは、多摩川の土手沿いに居を構える、一見平和で平凡な田島家の専業主婦・則子。やがて、家族各々が抱える問題が露わになり、そこへ大型台風が接近し……という、山田太一さんの名作ドラマを初めて舞台化した作品です。俳優のみならずエッセイストとしても活躍するチャーミングな60歳に、稽古の様子や日々の暮らしについて伺いました。
★ 今の人たちの目にはどう映るんだろうなと思ったりしています
★ 物語にしっかり入っていければ、自然と家族というものが描けるのではないかなと
★ 40代は、“人生の折り返し”みたいなことを感じたりする年代
現場は、緊張感あり、不思議な安心感ありっていう、本当に安心して頑張れる雰囲気です
――舞台『岸辺のアルバム』への出演オファーを受けられた際、どんなことを思われたでしょう?
「えっ!?」と。演劇はいろいろと嘘がつける表現の場ではありますけれども、40代の奥さんという役柄。還暦の私でいいのか?と。でも、ドラマとして本当に名作ですし、私にオファーしてくださったということは、もしかしたら何かできるのかなと思いまして。あとはやっぱり、『阿修羅のごとく』(2022年)で一度ご一緒した信頼できるチームだということも大きかったですね。
――今作と同じ制作チームで、やはり昭和の名作ドラマを舞台化した『阿修羅のごとく』、とても面白かったです。どんな稽古場だったのでしょう?
演出家の木野花さんがとても熱い方で、しかもご自分が悩んでいる部分まで役者とまるっきり共有してくださるので、“みんなで作っている”“一緒に悩んで頑張っていける”という実感がすごくありました。スタッフの皆さんも、生き生きと働いている女性が多くて、すごく気持ちのいい現場でしたね。今回も、緊張感あり、不思議な安心感ありっていう、本当に安心して頑張れる雰囲気です。『岸辺のアルバム』のほうが『阿修羅のごとく』よりも分量的にボリュームがあるので、きっと私たちの熱量も、あの時以上になるのではないかと思います。
今の人たちの目にはどう映るんだろうなと思ったりしています
――1977年に放送されたドラマ『岸辺のアルバム』は、良妻賢母役のイメージがあった八千草薫さんが不倫に走る主婦を演じた点も含めて、当時センセーショナルな作品でした。その八千草さんの役を今回ご自身が演じることについては、どう感じていらっしゃいますか?
今もびっくりしたままです(笑)。八千草さんが40代でなさった役を自分がやるというのもびっくりなんですが、夫に背広を着せるとか、昭和っぽい言葉遣いとか、そういう今はもうたぶんなくなっているようなことが、劇中にいろいろ出てくるんです。だから新鮮ですね。そういうことを自分でやるのも新鮮ですし、そういう言葉をしゃべっている自分もちょっと面白い(笑)。夫の亭主関白な雰囲気とか、今の人たちの目にはどう映るんだろうなと思ったりしています。
――小林さんが演じることで、今の人たちも劇世界に入っていきやすいような気がします。
どうなんでしょうね。ただ、時代が変わっても共感できる部分はあると思いますし、『阿修羅のごとく』の時もそうだったんですが、木野さんは、字面だけ見るとシリアスになりがちなところに、おかしみを見つけて、面白がって笑いにしてしまうセンスをお持ちなんです。今回の『岸辺のアルバム』も、話としてはシリアスなところがたくさんありますが、結構笑えるかもしれないなという予感がしています。
物語にしっかり入っていければ、自然と家族というものが描けるのではないかなと
――今作の大きなテーマは“家族の崩壊と再生”です。共演者の皆さんと“家族”を演じる上で大切にしていることがあったら教えてください。
特に意識はしてないです。舞台って、共演者の皆さんと毎日顔を合わせて長い期間を一緒に過ごすので、自然と家族みたいな雰囲気になるんですよね。なのできっと、物語にしっかり入っていければ、自然と家族というものが描けるのではないかなと。夫役の杉本哲太さんとは映像作品で2度ほど共演したことがあるんですが、息子役の細田(佳央太)さん、娘役の芋生(悠)さんといった若い方と共演するのは初めてなので、どんな感じになるのか楽しみです。
――小林さんご自身は、近頃ご家族との関係性で変化を感じていらっしゃることがありますか?
父はもう亡くなって、おかげさまで母は存命しておりますけれども高齢で……やっぱりこう、親のいなくなった後のきょうだいの距離感みたいなのを、ちょっと想像する感じにはなりましたね。自然と協力し合って、「お母さんのことどうする?」みたいなことを話し合えるのがありがたいなと思いつつ、もし母がいなくなって、きょうだい3人だけになったら、もう家族というよりも、それぞれ個々になっていくのかな、と思ったりして。
40代は、“人生の折り返し”みたいなことを感じたりする年代
――STORYの主な読者層は40代の女性なのですが、小林さんはどんな40代を過ごされたでしょう?
今振り返ると、40代は全然若いですよね。30代は20代に毛が生えたようなものでしたけど、40代は30代に毛が生えたような感じ(笑)。それこそ30代の余力で、何でもできましたね、今思うと。ただ40代は、“人生の折り返し”みたいなことを、なんとなく感じたりする年代でもあるから、自分を見つめて「これからどうしよう?」「どんなことができるかな」っていうのを、ちょっと考え直す時期かもしれないですね。
――小林さんは45歳の時に社会人入試で4年制大学に入学されています。たしか、俳句を始められたのも40代では?
そうです。40代後半から始めました。落語が好きで、面白いなと思っていろいろ聴いているうちに俳句にも興味が出てきて、ちょっと始めてみたら楽しくて。今は、ふたつの俳句会に参加しています。真面目に文芸としてやっている人たちとはまた違った、遊びの俳句会で、いろんな仕事をしている人たちと定期的に会ってお話しするのも楽しいですし、作った俳句にもそれぞれのセンスが垣間見えて面白いです。あ、でも今は舞台の稽古中なので、お休みしています。頭がもう無理です(笑)。
――執筆活動もなさっているだけに、やはり言葉を使うことに惹かれるのですね。
私、しゃべるのが苦手なんですよ。ちゃんと落ち着いて書いた方が、まだ整理できるというか。
――それは頭の回転が速くて、単にしゃべることが追いつかないのでは?
いやいや全然そんなことはないです。もう回転ゆるくてもいい、ぐらいな感じで60代はいきます。というか、実際ゆるいです(笑)。最近もう、鍋を焦がすおばあちゃんの気持ちとか、本当にわかりますから。この間も朝起きて、お湯を沸かそうと思って、鉄瓶をコンロに置いて火をつけたんですね。で、いつものように、お湯が沸くまでの間に猫にお水をあげたりして戻ってきたら、鉄瓶を載せてないほうのコンロの火がついていて(笑)。
――そんなことが(笑)。とても親近感を覚えます。最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。
【公演情報】
モチロンプロデュース『岸辺のアルバム』
1977年に放送された名作ドラマを初めて舞台化。多摩川の土手沿いにマイホームを構える田島家は一見平和で平凡な四人家族だが、やがて各々が抱える問題が浮き彫りになる中、大型台風が近づいてきて……。
作/山田太一 脚色/倉持裕 演出/木野花
出演/小林聡美 杉本哲太 細田佳央太 芋生悠 前原滉 伊勢志摩 夏生大湖 田辺誠一
4月3日~26日/東京芸術劇場シアターイースト
5月1日~4日/大阪・松下IMPホール
https://mochiron-ltd.com/stage/kishibe/
取材・文/岡﨑 香 ヘア・メーク/磯嶋メグミ スタイリスト/藤谷のりこ 撮影/沼尾翔平
ジャンプスーツ\67,100(suzuki takayuki)イヤリング\38,500(タマス)
〈お問い合わせ先〉
suzuki takayuki 03-6419-7680
タマス青山店03-6674-8583

















