「私たちのCHALLENGE STORY」を担当しているライターの孫 理奈です。今月号のテーマは「“子育て”というキャリアが女の人生を豊かにする」。一度は一線を退き、出産、育児を経験、そして母になった人生経験を武器に新たなキャリアを拓いた方々を紹介しています。
私が担当した保科眞智子さんの取材裏話を書きたいと思います。保科さんは主婦歴18年でお子さん3人のベテランママ。仕事を始められてまだ3年ですが、現在は茶の湯文化バイリンガル・ナビゲーターとして国際的な舞台で茶道を発信しています。きっかけは犬の散歩中に見つけた子どもの英語教室の看板。子どもを習わせるつもりで先生と面談をした際、教員資格があることを告げたところ先生としてスカウトされました。「『子育ては立派なキャリアですよ』と言われたひと言に背中を押されました」と保科さん。子どもの英語教室の先生として仕事を始めました。「でもそのときがいちばん勇気がいりましたね」。その言葉に私も思わず納得しました。
私も保科さんと同じく専業主婦歴18年で「STORYライター募集」の記事を見つけて応募しました。「子育てはこれ以上できなかったと言えるほど悔いなくやり切ったので、潔く次のステージに行けたかもしれません」と保科さんは言っていましたが、私の場合、「ライターにチャレンジしてみよう」と思ってもやはり勇気が必要でした。ずっと仕事をしてきた人たちとの差が怖かったですね……。パソコンは私がOLをしていたころはまだなかったし、時代の移り変わりについていけていないことも実感していたし、交流といえばママ友とばかり。「こんな環境で社会に復帰できるのか……」。そんな気持ちでいっぱいでした。
保科さんは「育児は一大プロジェクトだった」と言っていましたが、優先順位の付け方や今、この瞬間に何が大事かを判断する力は、子育て中、自分にかける時間がなかったからこそ、今の方が身についたと言えると思います。「大事なときに子どもって熱を出しますよね~。そんな修羅場を体験したからリスクマネジメント力も鍛えられました」という保科さんの言葉にも同感。「こんなことまであるかもしれない!」そんな先読みも子育てをしていたらリスクマネジメントが当たり前になりました。
保科さんは趣味で続けていた茶道をインスタで発信してみたところ、「よかったら子どもに教えて」などの反応があり、「人の役に立てるとは思わなかった」と嬉しく思ったそう。「自分が人の役に立てそうなこと」から探してみるのも社会復帰に繋がるかもと思いました。
保科さんの「英語でお茶」はそんな自然な流れで始まりましたが、今や舞台はグローバルに展開。オーストリア大使館公邸で催したお茶会で、日本の江戸初期の貴重な古伊万里の陶片がローストドルフ城に眠っていることを知り、それがご縁でママ友と国際的なプロジェクトを立ち上げられました。今は陶片を修復し、来年国内で展覧会を開くことを目標に活動されています。取材中、保科さんとは子育ての話もして、ママ友のような気持ちになりました(笑)。
「社会に復帰したいけども……」と悩んでいる方がいたら、「子育てをしたからこそわかったことがあった」と思ってほしいと思います。私が得たいちばんのものは「思った通りにいかないことが当たり前」ということかな? 子どもといっても人格がそれぞれ違うので、育てるのは楽しくもあり、大変な経験でした。仕事の方が時間も読めたうえで向き合えるので、落ち着いて対処できるかもしれませんね。
保科さんの「古伊万里再生プロジェクト」の展覧会に行くのが今から楽しみです!
撮影/BOCO