公益財団法人東京都歴史文化財団
「東京芸術劇場コンサートオペラ」は、劇場の音響空間をよりお楽しみいただくために敢えて演奏会形式として上演を続けています。9回目を迎える今回は、オッフェンバック/喜歌劇『美しきエレーヌ』を取りあげます。
オッフェンバック/喜歌劇『美しきエレーヌ』のプロの音楽家による上演は、おそらく今回が日本では初めてとなります。通常のオペレッタでは、歌手が台詞部分も担当しますが、今回は2020年に第15回 『声優アワード』新人男優賞を受賞し、今後の活躍が期待される土屋神葉を迎え、曲間に、日本語による語りを挟みながら、劇が進行していきます。
また、この度全国共同制作オペラ『こうもり』のオルロフスキー公爵役で大絶賛を受けた藤木大地がオレステス役で、テノールの岸野裕貴がアキレ役で出演することが追加決定いたしました。
当劇場がお届けする本年度のオペラは、この『美しきエレーヌ』と、11月25日に開催した喜歌劇『こうもり』との2本になります。オペレッタ(喜歌劇)において『こうもり』などのヒット作を生み出したJ.シュトラウスII世にオペレッタ(喜歌劇)の作曲を薦めたのが、『美しきエレーヌ』の上演のためにウィーンを訪れていたオッフェンバック。『美しきエレーヌ』のリブレットは『こうもり』の原作『夜食』と同じ、アンリ・メイヤックとリュドヴィク・アレヴィが担当しています。
『美しきエレーヌ』は、オッフェンバックがたどり着いた「オペレッタの文法」的作品であり、ギリシャ神話、トロイア戦争の物語をパロディ化し、人妻の不倫や社会的地位のある人々の放蕩ぶりを風刺しています。1864年の初演は“伝説に残る大勝利”(byアラン・デュコー)だったといい、主役のエレーヌを演じたオルタンス・ジュネデールの人気を不動のものとしました。粋な風刺と笑いと愛の物語、それを彩る、耳なじみの良い美しい音楽。今なお欧州で愛されている理由がここにあります。
今回タクトを振るのは、東京芸術劇場のオペラ制作の現場を支え続け、『2021年度 全国共同制作オペラ 東京芸術劇場シアターオペラvol.15 團伊玖磨/歌劇『夕鶴』(新演出)』 を指揮した辻博之。台本・構成演出は、ウィーンを拠点に演出家としての実績を着実に重ねる佐藤美晴。またキャストには、タイトル・ロールの砂川涼子、パリスを演じるテノールの工藤和真、オレステス役には日本が誇るカウンターテナーの藤木大地をはじめ、実力派歌手が揃いました。
あらすじ
舞台は神話時代、ギリシャのスパルタ。「この世で最も美しい乙女」と名高いエレーヌは、夫であるスパルタの王メネラオスとの平凡な夫婦生活にうんざりしている。「どうか愛をお与えください」と切望するエレーヌ。そんな彼女の前に、羊飼いに扮したトロイアの王子パリスが現れ、エレーヌは彼に一目惚れする。パリスの本当の身分が明かされると、エレーヌは仰天。実はこの二人、出会うべくして出会う運命にあったのだ。そうこうしているうちに、パリスと結託している予言者カルカスの手によって、メネラオスは訳も分からないままクレタ島行きを命じられてしまう。
夫不在の部屋のなかで、未来を案じるエレーヌ。そこに、「そろそろ僕と一緒にならないか」とパリスがやって来る。最初はためらいをみせていたエレーヌであったが、夫との生活に飽きていた彼女は、まんざらでもないご様子。「これは夢の中だから」と言って、ついにパリスとの甘い時間を過ごすことに。しかし、そこにクレタ島に行っていたはずの夫が突然帰ってきてしまう……。妻の浮気現場を目の当たりにして唖然とするメネラオス。騒ぎを聞きつけ集まる人々。追い出されるパリス……。さあ、どうする、エレーヌ!
人物相関図
プロフィール
辻 博之(指揮)
東京藝術大学音楽学部声楽科在学中から、オペラ指揮者としての研鑽を積み、2017年オーケストラ・アンサンブル金沢定期公演にデビュー。その後も、数々のオーケストラと共演を重ね、2021年新国立劇場オペラ研修所終了公演でのチマローザ「悩める劇場支配人」ではイギリス『オペラ』誌上で「優雅かつ的確な細やかさで、チマローザの音楽に脈々と流れる歓喜を引き出した」と評され、オペラブッファ指揮者としての評価を高めた。 2021年には全国共同制作オペラオペラ「夕鶴」新演出を指揮。舞台作品への劇音楽の作曲や、クラシック以外のアーティストとの共演等、垣根の無い音楽活動、幼児や子供との音楽活動にも力を注いでいる。
佐藤美晴(台本・構成演出)
ウィーン大学演劇学科に留学し、慶應義塾大学大学院美学美術史学修了。ハンブルク歌劇場で演出助手、ドイツ、オーストリア、イギリスの歌劇場で研鑽を積む。近年の演出に、東京芸術劇場/金沢県立音楽堂共同主催『こうもり』、日生劇場/びわ湖ホール『魔笛』、北とぴあ国際音楽祭『ドン・ジョヴァンニ』『リナルド』、NHK音楽祭/NHK交響楽団『ドン・ジョヴァンニ』、日本フィル創立60周年『ラインの黄金』、ウィーンアルヒェ劇場『少年の不思議な角笛』等がある。第23回五島記念文化賞オペラ新人賞(演出)受賞。2019年まで東京藝術大学特任准教授、東京大学先端科学技術センター特任/客員研究員をつとめ、2020年9月よりウィーン在住。
砂川涼子(エレーヌ/ソプラノ)
武蔵野音楽大学卒業、同大学大学院修了。第10回(財)江副育英会オペラ奨学生として渡伊。第34回日伊声楽コンコルソ優勝。第69回日本音楽コンクール第1位。第16回五島記念文化賞オペラ新人賞受賞。’00年新国立劇場小劇場オペラ『オルフェオとエウリディーチェ』のエウリディーチェでデビュー以降、『カルメン』ミカエラ等に出演。その他、藤原歌劇団公演『ラ・トラヴィアータ』ヴィオレッタ、『ラ・ボエーム』ミミ、『ファウスト』マルグリート等主要な役で出演。日本オペラ協会には『源氏物語』『夕鶴』で出演。容姿・実力を兼ね備えた歌唱は常に高い評価を得ている。藤原歌劇団団員。日本オペラ協会会員。武蔵野音楽大学非常勤講師。
工藤和真(パリス/テノール)
岩手県出身。東京藝術大学卒業。同大学院修了。声楽を小原一穂、佐々木朋也、市原多朗の各氏に師事。市川市文化振興財団主催第28回新人演奏家コンクール優秀賞。第33回練馬区新人演奏会オーディションにて最優秀賞を獲得。第1回かわさき新人声楽コンクール第1位。第84回日本音楽コンクール声楽部門第2位。第53回日伊声楽コンコルソ第1位、及び歌曲賞(岡部多喜子・嶺貞子賞)を受賞。第17回東京音楽コンクール声楽部門第2位(最高位)、及び聴衆賞を受賞。東急ジルベスターコンサート2019-2020ではベートーヴェン《交響曲第九番》テノールソリストとして出演。オペラではこれまでにNISSAY OPERA2019『トスカ』カヴァラドッシ、同2021『カプレーティとモンテッキ』テバルド、藤沢市民オペラ『ナブッコ』イズマエーレ、新国立劇場『ボリス・ゴドゥノフ』グリゴリーなどで出演。
濱松孝行(メネラオス/テノール)
神奈川県鎌倉市出身。東京芸術大学音楽学部声楽科卒業。東京芸術大学大学院音楽研究科修士課程(独唱)修了。新国立劇場オペラ研修所20期修了。日本トスティ歌曲コンクール第1位及び日本歌曲賞他受賞。これまでにヴェルディ『椿姫』アルフレード役、チャイコフスキー『イオランタ』ヴォーデモン役、ベッリーニ『カプレーティとモンテッキ』テバルド役などを演じる。また、朝日新聞社主催第60回芸大メサイアをはじめ、モーツァルト『レクイエム』、ベートーヴェン《第九》、プッチーニ《グローリア・ミサ》等のソリストとして出演。ANAスカラシップにて、ミラノ・スカラ座アカデミア、バイエルン歌劇場オペラ研修所にて研修を受ける。
晴 雅彦(アガメムノン/バリトン)
大阪音楽大学卒業。文化庁派遣芸術家在外研修員として独ベルリンに留学。独ケムニッツ市立劇場『魔笛』パパゲーノで欧州デビュー後、同劇場『ヘンゼルとグレーテル』『ウインザーの陽気な女房たち』、独ザクセン州立劇場『蝶々夫人』、独ラインスベルク音楽祭、瑞ヴァドステーナ音楽祭等に出演。国内では新国立劇場をはじめ全国の主要な劇場で活躍。チョン・ミョンフン、ペーター・シュナイダー等著名な指揮者や露レニングラード国立歌劇場管弦楽団等と共演。「プレミアム・シアター」「名曲リサイタル」「題名のない音楽会」等に出演。大阪府芸術劇場奨励新人、咲く やこの花賞、大阪文化祭賞奨励賞、兵庫県芸術奨励賞を受賞。大阪音楽大学教授。
藤木大地(オレステス/カウンターテナー)
2017年、オペラの殿堂・ウィーン国立歌劇場にライマン『メデア』ヘロルド役で鮮烈にデビュー。東洋人のカウンターテナーとして初めての快挙で、大きなニュースとなる。2012年、第31回国際ハンス・ガボア・ベルヴェデーレ声楽コンクールにてハンス・ガボア賞を受賞。同年、日本音楽コンクール第1位。2013年、ボローニャ歌劇場にてグルック『クレーリアの勝利』マンニオ役でヨーロッパデビュー。国内では、主要オーケストラとの公演や各地でのリサイタルがいずれも絶賛を博している。2023年は<全国共同制作オペラ> J.シュトラウスII世『こうもり』オルロフスキー役をはじめ各地でオペラ公演や演奏会へ出演。デビューから現在まで絶えず話題の中心に存在する、日本が世界に誇る国際的なアーティストのひとり。洗足学園音楽大学客員教授。横浜みなとみらいホール初代プロデューサー(2021-2023)。
伊藤貴之(カルカス/バス)
名古屋芸術大学卒業、同大学大学院修了。2013~14年NPO法人イエロー・エンジェルの奨学金を受け渡伊。第48回日伊声楽コンコルソ第2位。第41回イタリア声楽コンコルソ金賞受賞。第6回G.ゼッカ国際声楽コンクール第2位。愛知県芸術劇場『椿姫』のグランヴィルでデビュー。藤原歌劇団には、『ラ・ボエーム』コッリーネ、『清教徒』ジョルジョ、『ファウスト』メフィストフェレス等で出演。その他、新国立劇場『ルチア』ライモンド、『アイーダ』エジプト王他、日生劇場『セビリアの理髪師』ドン・バジーリオ他、びわ湖ホール『ジークフリート』ファフナー等に出演。東京フィル定期公演では、チョン・ミョンフン指揮『カルメン』のスニガで出演し好評を博す。
岸野裕貴(アキレ/テノール)
東京音楽大学声楽演奏家コース卒業。 東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程オペラ専攻修了。 モーツァルト《レクイエム》、ベートーヴェン《第九》、バッハ《ヨハネ受難曲》、《カンタータ》等テノールソロの他、オペラでは芸大オペラ《コジ・ファン・トゥッテ》フェランドでの出演以降、小沢征爾音楽塾《ラ・ボエーム》ではパルピニョール役で出演。他に《ドン・ジョヴァンニ》ドン・オッターヴィオ、《愛の妙薬》ネモリーノ、《ドン・パスクワーレ》エルネスト、《アルジェのイタリア女》リンドーロ、《ファルスタッフ》フェントン役等を演じる。 東京音楽大学非常勤声楽研究員。
反中洋介(アイアスI/テノール)
岐阜県高山市出身。武蔵野音楽大学音楽学部声楽学科首席卒業。同大学院音楽研究科修士課程ヴィルトゥオーゾコース声楽専攻修了。同大学卒業演奏会出演。第42回読売中部新人演奏会出演。第12回東京国際声楽コンクール新進声楽家部門本選入選。第12回岐阜国際音楽祭コンクール声楽部門 専門 一般I 審査員特別賞受賞。
2019年、武蔵野音楽大学オペラコース公演『コジ・ファン・トゥッテ』フェルランド役。2023年、東京芸術劇場、愛知県芸術劇場『道化師』ペッペ役のカヴァーキャストを務める。サラダ音楽祭2023 こどものためのオペラ『アトランティス・コード』サトシ役で出演。
堀越俊成(アイアスII/テノール)
福島県会津若松市出身。東京芸術大学卒業。同大学大学院独唱科修了。市川市文化振興財団主催第32回新人演奏家コンクールにて優秀賞を受賞。第4回かわさき新人声楽コンクールにて聴衆賞を受賞。これまでに声楽を佐藤淳一、豊嶋祐壹、吉田浩之の各氏に師事。オペラでは『愛の妙薬』ネモリーノ、『椿姫』アルフレード、『シモン・ボッカネグラ』ガブリエーレ、『ラ・ボエーム』ロドルフォ、『トスカ』カヴァラドッシ、『カルメン』ドン・ホセ 等、リリコの主要な役を中心に活躍。また、『出雲阿国』名古屋山三郎、『箱』九 等の新作日本語オペラにも出演し、いずれも好評を博す。その他、ベートーヴェン《第九》等のテノールソリストも務める。藤原歌劇団団員。
土屋神葉(語り(日本語))
1996年生まれ。アクション俳優の活動を通して“声の演技”に魅了される。2020年に第15回 『声優アワード』新人男優賞受賞。アニメでは『青のオーケストラ』佐伯直、『響け!ユーフォニアム』月永求、『BURN THE WITCH』バルゴ、『ハイキュー!!』五色工、『バクテン!!』双葉翔太郎、『ボールルームへようこそ』富士田多々良、吹き替えでは『ミュータント・タートルズ:ミュータントパニック!』ラファエロ、ゲームでは『ツイステッドワンダーランド』エペル、『モンスターハンターライズ;サンブレイク』オボロ、『アンジェリークルミナライズ』ユエなど担当。朗読歌劇『ラ・ボエーム』や舞台『7本指のピアニスト』など、音楽をテーマとする作品にも縁がある。
公演概要
東京芸術劇場コンサートオペラ vol.9
オッフェンバック/喜歌劇『美しきエレーヌ』
演奏会形式/全3幕/フランス語上演/日本語字幕付
https://www.geigeki.jp/performance/concert281/
【日程】2024年02月17日 (土)14:00開演
【会場】東京芸術劇場 コンサートホール
【指揮】辻 博之
【台本・構成演出】佐藤美晴
【キャスト】
エレーヌ:砂川涼子
パリス:工藤和真
メネラオス:濱松孝行
アガメムノン:晴 雅彦
オレステス:藤木大地
カルカス:伊藤貴之
アキレ:岸野裕貴
アイアスI:反中洋介
アイアスII:堀越俊成
語り(日本語):土屋神葉
【合唱】ザ・オペラ・クワイア
【管弦楽】ザ・オペラ・バンド
【チケット料金(全席指定)】
S席7,000円/A席6,000円/B席5,000円/C席4,000円/D席3,000円/高校生以下1,000円*
(高校生以下を除く、U30(30歳以下)は、各席種の半額料金)
*枚数限定、要証明書、東京芸術劇場ボックスオフィスにて前売のみ取扱い
【チケット取扱】
東京芸術劇場ボックスオフィス
電話 0570-010-296(休館日を除く10:00~19:00)
※一部携帯電話、PHS、IP電話からは、ご利用いただけません。
窓口 営業時間:休館日を除く10:00~19:00
WEB https://www.geigeki.jp/t/
※24時間受付(メンテナンスの時間を除く)
【お問合せ】東京芸術劇場ボックスオフィス 0570-010-296 (休館日を除く10:00-19:00)
プレ・レクチャー 喜歌劇『美しきエレーヌ』を語る
オッフェンバック作曲の隠れざる名作、喜歌劇『美しきエレーヌ』について指揮者とソリストが語り合う、プレ・レクチャーを東京芸術劇場2階のカフェにて開催いたします。
このオペレッタに由来する、洋梨のベル・エレーヌとプチ・アペリティフとともに楽しむレクチャーです。
【日時】2024年1月25日(木)19:00開始(18:45受付開始)
【会場】東京芸術劇場2階 Cafe des Arts(カフェ・デザール)
【出演】辻 博之(指揮)/反中洋介(テノール)
【料金】3,000円
【定員数】35名
【WEB】https://www.geigeki.jp/performance/concert281/c281-1/