株式会社ユーグレナ
2023年から、化粧品業界は新たなフェーズを迎えていますが、その中で最も注目されているのが“インバウンド需要の回復”です。観光立国の実現を目指す政府の方針、そしてインバウンドが国内の景気回復の起爆剤になると言われている中で、もはや無視のできない市場へと成長してきています。その中でも海外の観光客に人気なのが「発酵スキンケア・発酵コスメ」です。
様々な成分を“発酵”させることによって、よりパワフルなスキンケア成分にする発酵技術は、古くから様々なスキンケア製品で活用されています。発酵をすることで自然の成分の健康効果をよりアップさせるという美容法は日本以外のエリアでも見られます。韓国や中国のスキンケアでも発酵成分を配合したものがどんどん登場し、人気を呼んでいるようです。欧州ではワインを使ったワイン風呂やワインエステもありますし、牛乳を発酵させた乳酸菌をもとにした美容成分は世界中の原料メーカーで作られています。海藻を発酵させた成分をキー成分にしているラグジュアリーブランドなどもあります。特に、日本の「発酵スキンケア・発酵コスメ」はアジア各国からの信頼も厚く、他国で、「日本製の発酵スキンケアと同じ発酵技術を使っています」というのを売り文句にしているプロモーションなども見かけます。
株式会社ユーグレナの石垣島ユーグレナを原料としたスキンケアブランド「NEcCO(ネッコ)」が2024年5月に日本全国の20代~80代の女性1000人を対象に実施した調査によると、「発酵スキンケア・発酵コスメ」という言葉を認識している方は27%と、約3割の方しか「発酵スキンケア・発酵コスメ」というカテゴリーを認識していないことがわかります。
そこで、スキンケア成分に詳しい、一般社団法人 日本化粧品検定協会 代表理事の小西さやかさんに、発酵スキンケア・発酵コスメのメリットや発酵成分について、伺いました。
【監修】 小西さやかさん プロフィール
一般社団法人 日本化粧品検定協会 代表理事。北海道文教大学 客員教授、東京農業大学 客員准教授、日本薬科大学 召喚准教授、更年期と加齢のヘルスケア学会 幹事、各種協会顧問を歴任。ボランティア活動からスタートし、現在では文部科学省後援となった日本化粧品検定を立ち上げ、累計受験者数は116万人を突破。化学修士(サイエンティスト)としての科学的視点から美容、コスメを評価できるスペシャリスト、コスメコンシェルジュとして活躍中。著書は「美容成分キャラ図鑑(西東社)」等13冊、累計60万部以上。
◆”発酵させること”で生まれるスキンケア効果
発酵とは、麹菌、乳酸菌、酵母などの微生物有機物に含まれる糖をアルコールと炭酸ガスに分解してエネルギーを得ながら成長・分裂することで、この過程で物質が変化し、その結果、人間などにとって有益なものができることです。発酵は、食物のおいしさや栄養価、保存性を高めるだけでなく、腸内環境の改善や抗酸化作用など、さまざまな健康効果をもたらしてくれます。
・ダメージに対抗する抗酸化作用のアップ
発酵により体内の活性酸素を除去するといわれるポリフェノールの量も増えるので、肌がダメージに対抗するための抗酸化作用のアップが期待できます。
・保湿効果のアップ
種類は成分により異なりますが、豊富なアミノ酸が出ることで肌の保湿にも役立ちます。肌の角化細胞同士を支える役割を担う天然保湿因子(NMF)の約半分がアミノ酸で占められており、クレンジングや洗顔などで流出してしまうアミノ酸を発酵スキンケアで補うことができます。
・水分を長時間肌に届けることで透明感のある肌へ導く
コメのように糖分が豊富なものを発酵させると、糖に含まれるグルコシドという成分がグルコシルセラミドとなります。グルコシルセラミドは肌のバリア機能を担う重要な成分であり、角層の細胞同士のすき間を埋める成分であるセラミドの前段階の物質で、スキンケアでこれを補うことで、主にうるおいをキープする力に優れるセラミドを増やしてくれる可能性があります。
・美肌菌がすみやすい状態にする
米麹や麹菌といった糖分を多く含むものを発酵する場合はブドウ糖やオリゴ糖が出てきます。これらはもともと皮膚にある常在菌である表皮ブドウ球菌などの美肌菌の餌になり、美肌菌が増えることにより肌のコンディションが安定することも期待できます。
発酵液は肌の理想的なpH状態である弱酸性であることが多いため、発酵コスメを使うと美肌菌が住みやすい状態に整えてくれるともいえそうです。発酵コスメによる効果を高めたい場合は、強酸性の生ビタミンCを含むコスメとの同時使用は避けましょう。せっかくの弱酸性の環境を壊してしまいます。酸性が強すぎないビタミンC誘導体のコスメならば問題ありません。
・浸透しやすくなる
発酵させることで物質が分解されると分子量が小さくなるので、成分が浸透しやすくなるというメリットもあげられます。
◆様々な発酵エキスの種類
発酵させるもとの成分が何かによっても、発揮される効果に少しずつ違いが出てきます。
・コメ発酵エキス
麹菌や酵母、乳酸菌などの微生物を用いて米を発酵・熟成させたエキス。肌の表皮の角質層にあるNMF(天然保湿因子)に必要なアミノ酸が豊富で、肌の細胞活性化、バリア機能の強化が期待できます。
・コメヌカ発酵エキス
コメヌカを酵母で発酵させたエキスで、糖類やアミノ酸類、ビタミン類が多く含まれます。肌機能の活性効果や保湿効果が期待できます。
・ユーグレナ発酵エキス(ミドリ麹)
微細藻類の一種であるユーグレナを発酵させたエキスで、肌免疫に寄与し、老化の進行をゆるやかにしてくれたり、ヒアルロン酸の産生を高めることなどがわかっています。パラミロンという多糖類を豊富に含むことから、発酵することで糖が増え、美肌菌の住みやすい環境にも。美容成分としてメジャーになってきている藻類には多様な種類があり、それぞれに異なる発酵後の効果が期待できそうです。
・オオムギ種子発酵エキス
麹菌や酵母で大麦を発酵させたエキス。線維芽細胞の増殖を促進し、真皮のエラスチンの合成をサポートしてくれるといわれます。毛穴の気になる方にもおすすめです。
・豆乳発酵エキス
豆乳を乳酸菌で発酵させたエキスで、女性ホルモンに似ているといわれるイソフラボンが豊富で、皮脂を抑制する効果が期待できます。
・はちみつ発酵エキス
はちみつを発酵することでグルタミンが増加し、肌の弾力を保つコラーゲンの増加に役立つといわれます。はちみつ自体に豊富にポリフェノールが含まれ、過酸化水素が殺菌効果やダメージケアにも役立ちます。
・牛乳発酵(乳酸菌)エキス
牛乳や乳酸菌をベースにした発酵エキスで、ヒトの肌が本来持つ天然保湿因子に似た効果を発揮する成分を含み、乾燥肌の改善に役立ちます。
・イチジク果実発酵エキス
イチジクの果実を酵母で発酵させたエキス。保湿効果が高く、ヒアルロン酸の産生促進効果が期待できます。
◆発酵コスメ選びの注意点
発酵コスメを購入するときには、何を何の菌でどのように発酵させたかによって、発酵成分による効果が変わります。そのため、自分の肌悩みとその発酵物の効果を照らし合わせて選ぶようにしましょう。乾燥肌や脂性肌など、自分の肌質に合ったものを選びましょう。
また、近年は、成分を発酵させたことによって発生する成分やその数を調べ、発酵により得られた200~800種類の成分を訴求する商品も出てきています。発酵した結果出てくる成分をすべて列記することは法的にも許可されており、この成分をすべて全成分表示に表記すること自体に問題があるわけではありませんが、「〇〇発酵エキス」など一語で表記している場合と、発酵した結果発生した成分を「500種の発酵エキス配合」と謳ってすべての成分名を列記している場合とで、実はほぼ同等の成分・効果である可能性もあります。「成分数が多いから効果が高いのかも?」と判断してしまうのは早計です。
メーカー独自で開発した発酵成分名などもあるので、そういった成分はメーカーの公式サイトなどで具体的に何の発酵物でどんな効果が期待できるのかを調べて購入するようにしましょう。
自分に合う“発酵”スキンケアやコスメを取り入れて、この梅雨の時期も乗り切りましょう。