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台湾文化センター 台湾映画上映会-映画『逃亡者狂騒曲 デジタルリマスター版』トークイベントレポート

台北駐日経済文化代表処台湾文化センター

「台湾文化センター 台湾映画上映会2024」映画『逃亡者狂騒曲 デジタルリマスター版』上映会トークイベントが、6月29日(土)に台北駐日経済文化代表処台湾文化センターにて開催された。本上映会で唯一のデジタルリマスター版上映となる『逃亡者狂騒曲 デジタルリマスター版』は、世紀末の虚無感を荒々しく実験的なスタイルで捉え、1997年にベルリン国際映画祭に選出されるも公開数日で打ち切りになった“伝説の映画”だ。
上映後に、台湾CM界を代表する存在となったワン・チャイシアン監督がオンラインで登壇し、ぴあフィルムフェスティバルディレクターの荒木啓子さんが会場に登壇してトークイベントが開催された。
今年で46回目の開催となるぴあフィルムフェスティバル(PFF)は、映画監督の登竜門となっている映画祭。実験的なスタ イル、大胆で分裂的な映像言語を用いて、台湾ニューシネマとまったく違うアプローチで台湾社会と若い世代を捉え、1997年に時代を先取りした映画『逃亡者狂騒曲』を、90年代のインディペンデント映画の盛り上がりを踏まえながら、ワン監督と荒木さんと共に紐解いていった。


1997年、台湾。
夜に生きる“蛾”のような若者たち。台湾CM界の巨匠が描いた、躍動する台湾の姿とは─

まず荒木啓子さんが「1997年のベルリン国際映画祭に、矢口史靖監督の『ひみつの花園』(1997)が出品されて、私も参加していたんです。その時に『逃亡者狂騒曲』も観ていて、今日再びこの映画を観ることができて、とてもご縁を感じています。」と、映画『逃亡者狂騒曲』とのエピソードを紹介した。PFFではホウ・シャオシェン監督をはじめ、多くの台湾映画を紹介していたが、「ベルリンで『逃亡者狂騒曲』を観た時、“台湾映画”とは思わなかったんです。きっと海外にいる監督が、台湾を舞台に撮った作品なんだろうと思っていた。」と、それまでに観ていた台湾映画とは全くちがうものを感じたと荒木さんが話すと、「台湾映画というと、ホウ・シャオシェン、エドワード・ヤンといった台湾ニューシネマの監督たちの映画を想像するかと思います。僕もこの映画を観て、すごくショックを受けました。いま観ても最先端をいっている。」と、本上映会キュレーターのリム・カーワイ監督もその衝撃の大きさを語った。

「新人監督たちの映画を観ていて思うのは、やりたいこととやれることの差が激しいんです。この映画は、やりたいことをすべてできていると思ったんです。それが本当にすごい!ワン・チャイシアン監督が、映画を作るにあたってこれだけはやりたいと思ったポイントはなんだったんでしょうか」と荒木さんが初監督作品とは思えない世界観について尋ねた。

代表作でもある烏龍茶のCMなど、すでにCMディレクターとして10数年のキャリアがあったワン監督は、「1987年に戒厳令が解除されて、当時の台湾ではそれまで心に閉じ込められていたものが外に出せる状態になっていました。映画を作るのであれば、自分のやりたいことをやろう、CMとはちがって制限を受けずに自分の思っていることを解放しようという思い」で、本作に挑んだという。

昼に寝て、夜に生きる台湾の若者たちはを主人公にしたことから、映画のタイトルは『蛾』になる予定だったという。「当時の台湾では、夜に生きる若者を描くような作品はなかったのか」と荒木さんが問うと、「こういうタイプの映画は他になかったでしょう。私は元々他の人とはちがう映画を撮りたい、他の人とはちがう台湾らしい映画を撮りたいと思っていました。それは私が作ってきたCMにも共通しています。個人的には私が作ったCMは、この映画よりもいい出来だと思っていますよ」と茶目っ気たっぷりにワン監督が答えた。

街中で爆竹が響き渡るシーンや、夜の高速道路のシーンなど、スリリングな映像も本作の見どころになっている。「すべてのショットが素晴らしかったですが、よく死人が出なかったなと思うようなシーンも満載で…。みんな命懸けだったのでは?」と荒木さんが撮影現場について尋ねると、「元々カメラマン出身なので、多くのシーンはどうやって撮るかも自分でコントロールして、ドキュメンタリータッチに撮っていきました。ただ、いま観ると非常に危険でしたね。いまだったらこういう撮り方はできないと思います(笑)」とワン監督が話すと、会場でも多くの人が頷いていた。

NYでダンサーになることを夢みる主人公の元には、NYから度々手紙が届くが、その差出人は明かされていない。「そもそもこの映画の主人公には名前すらありません。誰しもが当てはまるという暗示でもあります。手紙の差出人も、これも当時の台湾の人たちが、外の世界に対して持っていた想像や理想というものが描かれています。」と、難解ともいえる映画が観客の受け取り方に委ねられていることをワン監督が示した。

「実は、その主人公を演じてくれたチェン・ホンレンが、今日ここに来ているんです。みなさん、彼に会いたいですか?」と、ワン監督からまさかのサプライズが発表されると会場は驚きとともに大きな歓声に包まれた。すこし柔和な印象になったチェン・ホンレンが画面に登場し、「こんにちは。まさか26年の時を経て、私にとってとても重要な作品である『逃亡者狂騒曲』が日本で上映されることに、とても驚いています。撮影を振り返ると、屋上の手すりを歩いたり、夜にバイクで爆走するシーンがあったり、大変な撮影ばかりでした(笑)。すべてがチャレンジングな経験でしたね。」と、撮影を振り返った。チェンがいまも舞踏団「無垢舞蹈劇場」に所属し、ダンサーとしてヨーロッパや日本でも公演するなど活動を続けていると語ると、「チェンはいまもダンサーとして活躍していますが、ライブハウスのシーンに出演していたバンド「濁水溪公社(LTKcommune)」も、映画出演後にとても人気がでました。ほかにもこの映画に出演してから、売れっ子になったひとは結構いたんですよ。」とワン監督が目を細めた。


会場から、赤や白といった色の対比による表現、主人公が集めている椅子が暗示しているものについての質問がでると、ワン監督は「例えば赤というという色は、心理的にもプレッシャーを感じる色です。日常生活の中で感じるプレッシャーや恐れ、それは台湾が感じているものでもあります。主人公は部屋に拾ってきた椅子を積んでいます。椅子というのは休憩する時につかうもので、心理的にはやすらぎを想像させます。それは彼の過去の記憶を表現しているのです。そうした表現の積み重ねでこの映画は作られています。」とワン監督が、映画だからこそ描ける表現について語った。

「今日の上映会では、いままで受けたことがないような質問も多くあり、観客の方々にはとても敏感に感じ取って頂けたと思っていました。『逃亡者狂騒曲』は、超現実的なやり方ではありますが、当時の台湾の姿を描いた作品です。みなさんに気に入って頂ければうれしいです。ありがとうございました。」と、ワン監督が話すと会場は大きな拍手に包まれた。

最後に台湾映画の魅力について問われた荒木さんは、「私は台湾映画を観るようになってから、台湾に行くようになりました。その土地、人々が持っているまっすぐな感じがとっても好きです。日本は映画祭に参加する時は正装が当たり前。でも台湾の映画祭は、素晴らしい賞を獲った人も、えらい人もとてもラフな服装で参加する人が多くて、一緒によろこびを分かち合いましょうというやわらかい気持ちが伝わってくる。そういう気持ちをストレートに出せる台湾の空気感にとても感動します。そういう空気感が台湾映画の魅力を作っている気がします。自然体でまっすぐでいられる台湾の映画には、力強さがあって、そういう映画がこれからも残り続けるのだと思っています。」と語ると、「いますぐ台湾に行きたくなる!」とリム監督が応じ、会場はあたたかい笑いに包まれた。

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