株式会社資生堂
※ 知らず知らずのうちに睡眠中に覚醒していること
自分らしい美しさの鍵となる“肌”は、一人一人の肌質(遺伝的要素)だけでなく、その時どきの体・心の変化などが複雑に関連し、日々刻々と変化しています。特に、近年における女性の生活は、時間に追われる日々も多く、生活リズムも乱れがちです。睡眠時間の国際比較データでは、日本の働く女性は睡眠時間が他国に比較して圧倒的に短いことが明らかになっています。
そこで今回資生堂ジャパンは、生活リズムと睡眠の質について着目し、スマートフォンアプリ「熟睡アラーム」を提供する 株式会社C2とともに、働く女性を対象とした、睡眠計測による実態調査を行いました。その結果、働く女性の約8割が、知らず知らずのうちに睡眠中に覚醒する“無自覚夜ふかし”を1回の睡眠で2回以上起こしており、また、その発生は、生活が不規則であるほど多発していることが分かりました。
最先端の皮膚科学研究を有する資生堂の研究でも、睡眠中の覚醒が体内リズムに影響を及ぼし、さらに1週間後に肌のうるおいを示す角層水分量の低下が起こることが分かっています。
これらの結果から、忙しい毎日を送り、規則的な睡眠が取れない働く女性に対し、その時どきの肌の変化に合わせた、最適な美容ソリューションをお届けすることが大切だと、資生堂は考えています。
<働く女性に多い不規則生活が、無自覚夜ふかしを誘発している!>
総務省は、2018年の女性の就業率が、全年齢ベースで51.3%* と発表しました。女性の就業率が5割を超えたのは、50年ぶりです。しかし、仕事と家庭を両立させ、プライベートな時間も大切にしたい彼女たちは、生活が不規則になりがちです。
資生堂ジャパンが20~50代の働く女性を対象に2週間にわたって行った「働く女性の生活リズムと睡眠の実態調査」の結果、就寝時間が不規則な女性は半数以上で、“無自覚夜ふかし”が2回以上発生している女性が約8割に及ぶことが明らかになりました。さらに、就寝時間が不規則であるほど、“無自覚夜ふかし”の発生回数が多い人の割合が高いことが分かりました。
* 総務省「労働力調査 平成30年平均(速報)」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/youyaku.pdf
《調査概要》
・調査対象:首都圏在住の20~50代有職女性
(会社勤務、会社経営、専門職など)
・調査地域:関東1都3県(東京、千葉、埼玉、神奈川)
・調査時期:2019年5月22日~6月6日
・調査方法:(1)睡眠計測アプリ「熟睡アラーム」を用いた実証実験
(2)日記調査(インターネット調査)
・有効回答数:202人 (睡眠計測調査と日記調査両方を回答し、調査期間中、睡眠計測が8日間以上可能な人)
《睡眠計測アプリ「熟睡アラーム」について》
「熟睡アラーム」は睡眠リズムを解析して、よりよい睡眠づくりをサポートするアプリです。アプリ画面には独自の分析手法とアルゴリズムによる睡眠評価を表示。対象者自身が睡眠の質を把握できる仕組みになっています。株式会社C2が2013年5月から提供を開始し、2019年3月時点で累計200万DLに達し、毎日20万人以上の方に愛用されています。
・睡眠評価
就寝リズム、起床リズム、肥満予防、美容、浅い睡眠、深い睡眠6つの要素をアプリが評価します。
・睡眠グラフ
就寝から起床までの睡眠の深さをグラフ表示。カルフォルニア大学睡眠医学博士によるアルゴリズムで中途覚醒(=無自覚夜ふかし)を知ることができます。
・就寝リズム
過去3日以上の記録と比較して就寝時間のズレが小さいほど高く評価。
・起床リズム
過去3日以上の記録と比較して起床時間のズレが小さいほど高く評価。
・センサーグラフ
端末の振動を感知するセンサーの記録データのグラフ。記録データを元に、睡眠の深度を判定する。 縦の赤い帯は、アプリによって判断された覚醒範囲を示している(意識の有無は関係ない覚醒=無自覚夜ふかし)。
■働く女性の生活は不規則に。半数以上は眠る時間が不規則になっている
対象者の就寝時間が毎日同じ時間帯であるかどうかを確認したところ、同じ時間帯に眠っていない、「就寝時間が不規則」な人が半数以上(50.5%)を占めていました。反対に、調査期間中6割以上を同じ時間帯に眠っている「かなり規則的」な人は22.8%であることから、働く女性の生活はかなり不規則になっているといえるでしょう。[図1]
就寝時間が遅くなった理由を聞いたところ、「外出していて帰宅が遅くなった」(25.3%)、「TV番組や録画した番組をみていた」(21.6%)、「インターネット動画配信サービスや動画をみていた」(15.9%)などが上位に挙がりました。特に、テレビは年齢が高くなるほど多くの人が理由として挙げ、インターネットやSNSは、若い女性ほど多く理由として挙げていることから、年代ごとのライフスタイルの違いが反映される結果となりました。[図2]
■30代・40代に多発する“無自覚夜ふかし”!“無自覚夜ふかし”が睡眠の質に影響することも明らかに!
調査期間中、睡眠アプリで測定された対象者の“無自覚夜ふかし”の発生回数は平均3.7回、約8割(77.2%)が2回以上 発生していました。平均を上回ったのは30代と40代、30代は4.1回、40代は3.9回と多発しています。 [図3]
また、日記調査による睡眠の質の実感と睡眠アプリで計測された“無自覚夜ふかし”の発生回数に関係があるかもみてみました。その結果、発生回数が多い人ほど、14日間の調査期間に「睡眠の質が悪かったと思う」と回答した日数が5日以上あった人の割合が大きくなっていました。[図4] 知らず知らずのうちに起こっている“無自覚夜ふかし”ですが、実は睡眠の質の実感として現れている可能性が高いようです。
■就寝時間が不規則な人ほど、“無自覚夜ふかし”が発生!(肌に不調を感じている人も多い!)
生活リズムと“無自覚夜ふかし”の発生回数が深く関係していることも明らかになりました。就寝時間帯が「かなり規則的」な人と「不規則」な人で、“無自覚夜ふかし”の発生回数を比較すると、 3回以上発生している割合は、圧倒的に「不規則」な人が高く、「かなり規則的」な人と、1.7倍の開きがありました。[図5]
また、日記調査で肌の調子を聞いたところ、“無自覚夜ふかし”の発生が2回未満の人と3回以上の人で大きな差が生じました。2回未満の人は、6割以上(65.2%)が「肌の状態が良い(良い+まあ良い計)」と回答したのに対し、3回以上発生している人は、52.2% にとどまり、その差は13ポイントとなりました。[図6]
Opinion Interview 健康的で規則正しい睡眠に目を向け、みずみずしい美しさを。
すなおクリニック院長・医学博士
内田 直氏
スリープ・メンタルヘルス総合ケア すなおクリニック院長。早稲田大学名誉教授。神経生理学、精神神経科学の分野にて多数の論文を執筆。
早稲田大学スポーツ科学学術院教授を務めていたときは身体のパフォーマンスと睡眠の関係について研究を進めた。現在はクリニックにて睡眠障害やメンタルヘルスに関する診療を行なっている。
睡眠は、美容にも大切なことは以前から知られていましたが、「たっぷり眠りましょう」という情報にとどまっていたように思います。今回の調査結果をみると、現代の働く女性たちは、昼間のストレスや疲れからの解放を求めて、ベッドタイム前の時間をつい長く取りすぎてしまう傾向があるようです。気分転換は大切な時間ですが、一方で調査結果は、不規則な生活が睡眠の質を悪化させてしまっていることも示唆しています。特にベッドタイム前に、テレビ、 インターネット、SNSなど、青白光に暴露する時間を取るのは睡眠の質を悪化させる要因になると思います。
今回の調査結果を多くの女性が知り、少しでも健康的で規則正しい睡眠に目を向け、みずみずしい美しさが取り戻せるといいですね。調査に用いた睡眠アプリ「熟睡アラーム」は、私も制作に関与していますが、こういった簡単なスマホアプリでも健康管理が可能な時代です。ぜひご活用いただければと思います。
<体内リズムの乱れが、1週間後の肌に悪影響を及ぼす!>
私たち人間のカラダは、睡眠・覚醒、体温、血圧、ホルモン分泌など多くの機能によって約24時間周期の「体内リズム」を働かせています。近年、体内リズムと健康との関係が注目されていますが、私たちのカラダを覆う皮膚もまた、体内リズムの影響を受けるといわれています。
資生堂は、この事実を明らかにすべく、体内リズムの乱れが肌に及ぼす影響を検証しました。その結果、睡眠中に5~10分程度の睡眠中断が自律神経機能やホルモン分泌リズムを変化させ体内リズムを乱し、翌日の肌のみならず、1週間後の肌にまで影響を及ぼしていることが明らかになりました。
《試験概要》
・試験対象:毎日の就寝・起床時刻がほぼ一定で規則
正しい生活をしている
30代女性9名
・試験時期:2008年1月~3月
・測定機関:資生堂グローバルイノベーションセンター
《試験内容》
・被験者に1週間通常通りの規則正しい生活を送ってもらった
・2晩連続し、睡眠を一時中断する負荷をかける。ただし、睡眠総時間には変化なし。
(1)通常通りに就寝
(2)深夜2時に起きて照明下で図形パズルに回答(所要時間5分程度)
(3)結果をメールで送信
(4)再び通常の起床時間まで就寝
・再び1週間通常通りの生活
■ホルモンリズムや自律神経機能に影響
睡眠に大きく関係するホルモンは、カラダの構築や修復を行う「成長ホルモン」、深い眠りを促す「メラトニン」、起床の準備をする働きをする「コルチゾール」といわれています。なかでも「コルチゾール」はストレスホルモンともいわれ、心理的・身体的ストレスによって上昇するといわれています。また、コルチゾールの濃度は、朝起床前後に急激に上昇し、日中~夕方にかけて低下する日内リズムを示しますが、慢性的なストレスや長期的なストレスがあると、この日内リズムが変化するという報告もあります。
本試験の被験者の唾液中のコルチゾール濃度を睡眠中断前後で朝起床時、就寝前に測定したところ、睡眠中断により朝起床時のコルチゾールレベルが大きく上昇し、日内リズムに乱れがみられましたが、1週間後には通常の状態に戻っています。
自律神経は、交感神経・副交感神経よりなる神経で、この二つの神経が各臓器の働きを調節することで、さまざまな変化に適応するよう働く、生命の基本ともいえる神経です。自律神経は脳のリズムに合わせて体中の臓器の働きを調節しており、例えば、夜になると体温が低下し眠くなり、日中には体温が上がり活発に代謝を行います。体温や睡眠以外にも、心拍、血圧、食欲などのさまざまなリズムを調節しています。しかし、自律神経は加齢によりその機能が低下することが知られています。年齢とともに睡眠が浅くなるのはこのためです。
本試験では、心拍変動により自律神経機能を測定した結果、睡眠中断直後に自律神経機能が低下しており、体中の様々な機能に影響が及んでいることが考えられました。
■睡眠中断で体内リズムが乱れると、直後から皮脂の分泌が低下。さらに1週間後には肌のうるおいまで失われる!
皮膚にも24時間のリズムが備わっています。昼は皮脂の分泌が盛んになりバリア機能が活発に、夜は皮膚細胞を修復させるというリズムがあります。
また、さらに長いリズムを刻むのが、皮膚が自ら生まれ変わり、健康な状態を保つための仕組み「ターンオーバー」です。表皮をつくる角化細胞は、基底層で生まれた後、約4週間かけて角層になるために変化しながら押し上げられ、その後、角層細胞として皮膚のバリア機能・保湿機能を担い、2週間後には垢やフケとなりはがれ落ちます。
今回の試験から、短時間の睡眠中断により体内リズムが乱れることで、睡眠中断後の翌朝の皮脂分泌量が低下し(図9)、さらに1週間後には肌のうるおいを示す角層水分量が低下することがわかりました(図10)。
皮脂腺から分泌される皮脂は、化粧崩れ、顔のテカリの原因にもなりますが、肌にとってはなくてはならない存在です。
皮脂は、汗と混ざり合い皮脂膜となって皮膚の表面を覆い、外界から異物が侵入するのを防ぐほか、肌からの水分蒸散を抑制する役割があります。
本試験で皮脂量の変化を測定したところ、試験開始時に対し、睡眠中断後は皮脂の分泌量が低下し睡眠中断後1週間がたっても、分泌量が落ちたままであることが分かりました。
角層の水分量は、肌の健康状態を示す重要なバロメーターです。水分が奪われた肌では、天然保湿因子(NMF)がうまく働くことができず、バリア機能や保湿機能が低下しています。すると、肌はダメージを受けやすくなり、うるおいを失って肌あれを引き起こす可能性が高まります。
本試験で、角層水分量の変化を測定したところ、試験開始時と睡眠中断後に大きな差は見られませんでしたが、睡眠中断の1週間後に低下がみられました。
この遅発的な角層水分量の低下は、皮膚角層のターンオーバーによる遅れを反映しているものと考えられます。