何十年も同じ歯を使って毎日食事をしていると、どうしても歯がすり減ってきます。

歯にはすりつぶす役割の歯とかみ切る歯の2種類があります。このかみ切る歯、つまり犬歯がすり減って平らに近くなると、歯の山と谷がうまく合わなくなってくるんです。そうすると、左右のかみ合わせが合わなくなってくるので、無意識的にバランスを取ろうとして食いしばってしまう。クラウン（かぶせもの）など、治療した歯が増えることによってかみ合わせが変わってしまうことも。

40代に食いしばりに悩む方が多いのは、このかみ合わせの不具合が原因のことが多いですね。当院でも食いしばりの相談で訪れる方のほとんどが40～50代の方です。

何かに集中していたり、精神的にストレスを感じているとつい歯を食いしばってしまう。コロナの影響でストレスを感じている人も増えています。リモートワークが増え、人と話さないで一日過ごすという話も聞きますよね。

スマホを操作したりPCに向かっている時間も長くなっているのではないでしょうか。そういうときについつい食いしばっているはずですが、意外と自分では気づいていない方が多いんですよ。

□ 舌の両端に歯の跡がつく
□ 犬歯が以前より平らになっている
□ 食べ物が歯の間によく挟まるようになった
□ 治療した歯の詰め物が取れやすい、割れやすい
□ 頭痛・肩こりが慢性的にある
□ 左右の目の大きさが違う
□ 朝起きたばかりなのにだるい

食いしばりがクセになると、噛むときに使う咬筋や側頭筋が固くなり、慢性的な頭痛、肩こりを引き起こします。夜寝ている間も食いしばっているので、朝起きたときに疲れがすっきり取れず、だるさが取れないという人も。

さらにほうれい線が深くなったり、フェイスラインがたるんでマリオネットラインができたり、エラが張って顔が大きく見える、口角が下がってくるなど、美容の観点でも大きな影響が出てくるんです。

片方に力を入れて食いしばる人は左右非対称な顔になり、歪みが出てきてしまいます。昔より左右の目の大きさの違いが顕著になってきた、という人は食いしばりを疑ってください。

歯科医院でできる治療法としては「マウスピース」（保険適用）があります。

先程お伝えしたように、夜食いしばっている人が多いので、寝るときに上の歯だけにマウスピースを入れてもらいます。マウスピースの役割は、左右の歯のかみ合わせの圧力を均等に保つことで左右の筋肉のバランスをとることです。

食いしばりをした時に歯にかかる圧力が一定になるので、筋肉のコリを楽にすることができます。これだけで、食いしばる強さをゆるめることができます。

最新のマウスピースは歯の1/3しか覆わず、薄くて装着感もよいので慣れてしまえば気になりません。

私も仕事中はつい食いしばってしまうので、夜はマウスピースなしでは寝られませんね。今はマスク生活で口の中が見えませんから、日中もマウスピースをつけておくとさらに効果的です。

もうひとつは「ボトックス」。

筋肉をゆるめる効果のあるボトックスを咬筋に注射することで負担を軽減します。

最初はその方の噛みぐせ、左右のバランスを見ながら、平均して左右3本ずつ打ちます。フェイスラインがすっきりして、小顔になるという、うれしい効果も。大体6カ月は効果が持続します。

その後は状態を見て追加しますが、マウスピースとの併用をおすすめしていることもあり、追加なし、あるいは左右1本ずつで十分なケースがほとんどです。

ボトックスを打つと筋肉がゆるんで、かえってたるむのでは？と心配される方がいらっしゃいますが、歯科医院で行うボトックスでゆるめるのは咬筋のみ。フェイスラインがたるむことはありませんし、筋肉が柔軟になってかえって表情がイキイキするはずです。

ご自身でも、普段から食いしばっていると気づいたら口を開けるよう意識してみてください。食いしばりによって張ってしまう咬筋、側頭筋をほぐすマッサージや鍼も効果があると思いますよ。

パート２「自分でできる食いしばり対処法」はこちら

取材／稲益智恵子　イラスト／ヤマサキミノリ