こんにちは!ロンドン在住・デジタリストの近藤麻美です。
ロンドン寒いです!今年は夏が無かったね...、というのが、このところの挨拶になるくらい、夏日の少なかったロンドン。このまま秋を通り越して冬に突入するのでしょうか...。
さて、先日、新海誠監督によるアニメーション映画『言の葉の庭』(2013年公開)が、ロンドンで初めて舞台化されるということで、ご招待を頂き、『The Garden of The Words』を鑑賞してまいりました。新海誠監督といえば、今年初めに『すずめの戸締まり』がイギリスでも公開され、記録的な大ヒットを生み出しました。

今回会場となったのは、北ロンドンのフィンズベリー・パークに位置するPark Theatre。イアン・マッケレンや故アラン・リックマンといった著名人、マスコミ、そして地元住民を含む演劇界全体からの支持を集め、2013年5月にオープンした、比較的新しい劇場です。
https://parktheatre.co.uk/whats-on/the-garden-of-words
今回お声掛けをいただいて、とても嬉しかったのには、理由があるのです。
実は、この作品の舞台化で主演の雪野百香里役を演じた中川亜紀さんは、彼女が演劇学校の生徒時代からの知り合い。そのころから、彼女が夢に向かって頑張っているのを見ていたので、今回は感動もしきりなのです。

さて、会場に足を踏み入れると、ステージは雨に濡れた東京に引き込まれるようなデザイン。決して大きくはないステージですが、ここであの物語が再現されるのかと思うとわくわくします。
ストーリー:靴職人を目指す高校生のタカオ(秋月孝雄)は、雨の日の午前には決まって授業をサボり、庭園のベンチで靴のデザインを考えていた。梅雨入り前のある雨の日、タカオはいつものベンチへ向かうと、チョコレートをつまみにビールを飲む女性ユキノ(雪野百香里)に出会う。タカオはユキノに見覚えがあるような気がしたためどこかで会ったことはないかと尋ねるも彼女は否定し、『万葉集』の短歌 「雷神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか きみを留めむ」 を言い残して去っていった。

photography by Piers Foley.
孝雄(HIROKI BERRECLOTH)と雪野(AKI NAKAGAWA)は、雨の午前中、新宿御苑内のベンチで出会い、静かな時間を共に過ごします。
46分というアニメを約2時間弱という尺に拡大したのは、アニメはもとより、原作の小説をベースにしているから。そのため、アニメではほとんどが孝雄と雪野の心理や行動に焦点が当てられていますが、この劇場版ではそれぞれの登場人物—-孝雄の兄:翔太、母:怜美、雪野に嫌がらせをし、退職に追い込んだ祥子などの置かれた立場や環境などもストーリーに組み込ませた群像劇となっています。
この解釈に大きく貢献したのが、脚本を担当したスーザン・モモコ・ヒングリー氏とアレクサンドラ・ラター氏(ラター氏は演出も担当)。ちなみにヒングリー氏は、劇中で孝雄の母、怜美も演じています。
写真からは分かりにくいのですが、ステージ・デザインは、視覚的にアニメーションを喚起します。セットは、ビデオ・プロジェクションと6つの台座を使用していますが、優しい雨が降り注ぐプロジェクションが幻想的な空間を演出し、スリット入りの紙がゆれることにより、さらにそれをリアルにしています。また、ストーリーを支える万葉集の短歌を読み上げるシーンでは、その詩(英語)が映し出され、幽玄さを醸し出します。

photography by Piers Foley.
傘は今回のストーリーで重要なテーマのひとつ。

photography by Piers Foley.
祥子(SHOKO ITO)は、高校のボス的存在。
HIROKI BERRECLOTHは、純朴さと成熟さを併せ持つ孝雄を危ういほどのピュアさで演じ、AKI NAKAGAWAは、人間不信から味覚障害を持つ百香里を、深い幻滅、そして迷えるか弱さをもって表現します。物語が展開するにつれ、2人の間には緊張と同時に繋りが増すのですが、 互いに過ごすうちに深まっていく2人の関係に戸惑う様子が胸を痛めます。 百香里は「何が起きているのかわからないうちに、歩けなくなっていた」と明かし、孝雄は彼女がまた歩けるようになるようにと、靴の製作を始めます。二人が築き上げる親密な相互理解は、東京という大都会に放り込まれた末の葛藤や苦しみ、社会的断絶などを共有するたびに深まっていきます。

孝雄が雪野の足のサイズを図る場面は、アニメでも特にインティメイトかつドキドキするシーンでしたね。
二人の演技もさることながら、この舞台で素晴らしいのはフィジカル・シアターを使っていることです。ぎゅうぎゅう詰めの通勤電車では、キャスト全員が押しも押されぬように身体を傾け、嵐のシーンでは、巨大なビニールの波がまるで風のように蛇腹を動かして、その強さを表現しています。 そして、何度も登場するカラス。カー、カーという鳴き声とともに、黒いカラスがステージを不気味に飛び回ります。日本では、悲しみ、嘆き、不吉な予兆の象徴として認識されていますが、ここでもそのメタファーなのでしょうか。このような瞬間は、いかにもアニメを基にした絵コンテのような視覚効果があり、とても興味深く感じました。

雨の満員電車を再現するフィジカル・シアター・アクト。その不快感さが伝わります。

そしてカラス。いかにも不吉な予感です。

傘とカラスは都会の不気味さを想起させます。

万葉集の短歌が宙に舞います。短歌の内容が伝わって行くのが視覚的に感じられます。
1時間45分という拡大版により、この物語は、社会不安、家族の在り方、脆い人間関係、いじめなどの問題をより探求し、それぞれの登場人物が抱える葛藤や苦悩を描いています。しかしながら、セリフにはクスッと笑えるようなジョークや、あるある的なシチュエーションなども含まれており、客席からも笑いが。決して気の滅入るようなストーリーではありません。他者とのつながりをどうとらえるかについて、この作品は、大都市に住む私たちがおそらく一度は感じたことのあることの多くを伝えているのです。それは、雪野の元恋人で、同じく教師である、SOICHIRO ITO(MARK TAKESHI OTA)の「あなたは水に落とされた油のようなものだ。周りに誰も溶け込ませてくれない」というセリフがよく物語っていると思います。
最後に...“all humans are weird(人間ってみんな変)”、とは百香里の言葉です。
と、この記事をここまで書いたところで、今回声をかけてくれた友人から、こんなニュースが!
なんと、この作品で3部門が、10公演以上の “フル”ショーを対象とするオフィース・アウォードにノミネートされたようです。

photography by Piers Foley.
Hiroki Berrecloth 氏は、主演賞へのノミネート。
また、ビデオ・デザインにKenny 氏、サウンド・デザインにNicola T Chang 氏がノミネートされています。
オフィシャル・トレイラーはこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=I9zjR7eRqDY&t=9s
公演情報
舞台『言の葉の庭〜The Garden of Words〜』
原作:新海誠監督作品 『言の葉の庭』
演出:アレクサンドラ・ラター(Whole Hog Theatre)
脚本:アレクサンドラ・ラター、スーザン・モモコ・ヒングリー
■ロンドン公演
【上演時期・劇場】2023 年 9 月 9日まで、Park Theatreにて。
▼ロンドン公演 劇場公式サイト
https://parktheatre.co.uk/whats-on/the-garden-of-words
また、日本でも、岡宮来夢さん、谷村美月さん主演で、11月9~19日、品川プリンスホテル・ステラボールにて、公演が決定しています。
日本公演劇場公式ウェブサイトはこちら。
https://gardenofwords-stage.jp/
最後まで読んで頂きありがとうございます。
それでは、皆さま良い一日を!
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Love from London.
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近藤麻美 ロンドン在住フリーランスライター|note 1999年渡英。ライター&リサーチャー。英国ニュース、英国文化、海外ドラマ、イギリス生活、食、教育、音楽、映画、歴 note.com