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落合恵子さん×高垣麗子さん対談②|絵本が本当に必要なのは、大人かもしれない

45周年を迎えたクレヨンハウスの主宰・落合恵子さんと、ご自身もこちらのお店が大好きというSTORYモデル高垣麗子さんのオンラインでのZoom対談。人生の先輩である落合さんに、訪ねた絵本のこと、人生のこと。今回は落合さんが大人にもお薦めしたい絵本をご紹介します。

対談第1回はこちら

落合恵子さん プロフィール 1945年生まれ。執筆と並行して、東京青山、大阪江坂にクレヨンハウスを主宰。総合育児雑誌『月刊クーヨン』、オーガニックマガジン『いいね』発行人。 社会構造的に『声が小さな側』の声をテーマにした作品が多い。主な著書に新刊『明るい覚悟……こんな時代に』、『母に歌う子守唄』、『泣きかたをわすれていた』他多数。ブログ 「落合恵子の『明るい覚悟』Living at the same time こんな時代だからこそ」
高垣麗子さん プロフィール 本誌カバーモデル。プチセブン専属モデルとしてデビュー後、『JJ』、『CLASSY』等、さまざまなファッション誌で活躍。ハッピー感のある笑顔が多くの女性に愛され、ていねいなライフスタイルにあこがれる女性も多い。3歳の女児の母として、奮闘中。絵本が大好きで、プライベートでもたびたびクレヨンハウスを訪れている。

子育てには正解がないから悩みます

高垣 子どもが本を読むのにいい環境というのはありますか?

落合 まず本がある、ということです。そして、本のある光景の中で、自由に遊ぶのが大事。『かいじゅうたちのいるところ』の作者・モーリス・センダックさんが「本をもらったとき、最初に臭いをかいでみた。次に噛んでみた。そして本を開いて読んだ」というような子ども時代の思い出をどこかで語っておられたことがありますが、本とは、そういうものだと思うんですね。

高垣 以前に、取材でクレヨンハウスの馬場さんに、本についていろいろ教えていただいたんです。それで、先日、ぜひ娘にも合っていただきたくて、2人で馬場さんをおたずねしたんです。

落合 ありがとうございます。今日も、馬場はフロアにおります。

高垣 そのとき、娘は最初にお化けの本を選びました。おばけって怖い。でも怖いけど見たいんですね。そしたら、店内で「おばけなんてないさ♪お化けなんて嘘さ♪」と大きな声で歌い出して、止まらなくなっちゃったんです。私困ってしまって。

落合 あまり気にされなくて、いいです。ここは図書館ではないから。子どもはこれをしてはいけない、とか、こうしなければいけないという、たくさんの鎖に縛られて生きています。ですから、クレヨンハウスのこの空間の中では、できるだけ自由であってほしい、と。歌も大歓迎です。

高垣 そう言っていただけると助かります。彼女が本当に楽しそうにしていたのが印象的なんです。でも、娘に危ない事とかいけないことは教えなければいけないですよね。最近は近所の方や先生が注意をしてくださることも少ないので、やっぱり誰が叱ると言ったら親しかいないんです。広い心を持って注意してるんですが、ずっと注意し続けてしまうことも。

落合 「誰かに迷惑をかけることはいけない」ということは当然伝えた方がいいですが、あまり細かいところまで、これダメ、あれダメでは、子どもが持って生まれてきた、せっかくの想像力を大きく羽ばたかせる可能性を摘んでしまう場合があります。バランスが難しいのよね。大人も辛い、ですよね。

高垣 正解がわからないから日々悩みます。

大人にも絵本は必要です

落合 絵本が本当に必要なもうひとつのグループは、今疲れている大人なのかもしれません。自粛の頃、オンラインショップでいわゆる児童書や絵本を買う大人がとても増えました。

高垣 絵本を読む大人がたくさんいたということですね。

落合 絵本子どものものと、思いがちですが、完成度の高い作品には年齢制限はありません。

 

落合恵子さんの好きな絵本3選

『ルピナスさん』
バーバラ・クーニー/作
掛川 恭子/訳
ほるぷ出版

ルピナスという花を知っていますか? 私は園芸が好きで、何度もルピナスのタネをまいているんですが、なかなかきれいに咲いてもらえません。絵本としては静かな表紙です。表紙の中の、この女性がルピナスさんです。彼女は、小さいころ、大好きな祖父に「大人になったら私は世界中を旅したい。そして、老いたら海のそばで暮らしたい」と話しをする。おじいちゃんは、「素敵だね。でも、もうひとつ叶えてほしいことがある。それは、世界を美しくすることを」というようなことを孫娘に伝えます。彼女は、成長し、働き、いろいろな旅して、そしてやがて海のそばに小さな家を建てます。そして思い出したのが、祖父との約束。そこで、自分が住んでいるところ一帯に、ルピナスのタネをたくさん蒔きます。やがて、そこらじゅうに、ルピナスの花が見事に咲きました。以来、彼女は村の人から『ルピナさん』と呼ばれるようになりました……。とくに以下のフレーズが好きです。『……ルピナスさんは小さなおばあさんですが、昔からおばあさんだったわけではありません』。私だってそうです(笑)

『悲しみのゴリラ』
ジャッキー・アズーア・クレイマー/文
シンディ・ダービー/絵
落合恵子/訳
クレヨンハウス

表紙のゴリラは、黄色い花を持っています。前に小さな男の子がいます。この子はお母さんを亡くしたばかりです。お父さんと悲しみを分かち合いたいのですが、お父さん自身も妻を失った悲しみと喪失感で、男の子と真っすぐに向き合余裕も気力もない。と、そこに一頭のゴリラがやってきます。たぶんゴリラは、悲しみの中で少年が心の中に無意識に作りだした存在なのかもしれません。少年は、お母さんについてさまざまなことをゴリラと話します。対話していく中で、お父さんが自分に見向きもしないのは、お父さん自身どうしようもなく淋しいのだと気づきます。そして、お母さんは自分の中に生きているのだ、ということに気づくのです。すると、ゴリラは遠くへ遠くへ去っていくのです。その後ろ姿もいいんですよ。
来年3月は、東日本大震災から丸10年。大事な人を亡くした人がたくさんおられます。普段はごく普通に過ごしていても、心の中には言葉にできない思い、寂しさや喪失感を持っているかたもおられます。喪失の悲しみを消すことはできなくても、悲しみといかに付き合っていくか……。子どもの中にも深い悲しみはあります。グリーフケアの絵本とも呼べます。

『あの湖のあの家におきたこと』
トーマス・ハーディング/文
ブリッタ・テッケントラップ/絵
落合恵子/訳
クレヨンハウス

湖のほとりにある“家”が主人公の絵本です。ある夫婦が都会の喧騒を離れて、一軒の家を建てます。ところが、戦争が始まり、ナチスに追われ、家族はこの家を出ていかなければならなくなります。次の家族も同様で、そのまた次も。そして戦後、その家に住んだ家族は 「ペルリンの壁」で 心を隔てられてしまう。住人を失い続けた家もまた。平和はかけがえのないものだと教えてくれる本です。この本の帯に私はこう書きました。「もの言わぬ市民が、もの言えぬ社会を作る」。そしてもの言わぬ家までもまた戦争に巻き込んでしまう。これは昔あった話ではなく今も、みんなでシェアしたい考えです。


明日30日配信の第3回に続きます


ヘアメーク/森ユキオ(ROI) 取材/秋元恵美

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