たくさんの人気ブランドを持つ「アルページュ」社長、野口麻衣子さんは、働く40代としてそして二児の母としてどのような生き方を選んできたのか。じっくりお話をお聞きしました。
野口麻衣子さんは、46歳。ジャスグリッティやアプワイザーリッシェなどのブランドを持つアパレル企業「アルページュ」の代表取締役を務めています。「両親が創業したこの会社は、マンションの一室から始まった、いわゆる“マンションブランド”で、卸を専門にしていました。私は、大学生のころから、親に勧められて、アパレルの販売や経理のアルバイトを経験。新卒でアパレル企業に入社し、2年間そちらで働きました」。
ご両親の会社が、卸売りから小売へと事業転換を図ろうと模索し始めた1999年、麻衣子さんは両親を手伝うべく、アルページュに入社しました。「学生時代に知り合った夫と23歳で結婚したのですが、夫もその時期に、勤めていた会社を辞めて、入社しました」。当時は、まだ、社員10名ほどの小さな会社。販売をどうやって始めるか、店舗はどこに、どのような形で出すかなど、わからないことだらけ。「入社当時製作していた商品は、トップスばかりだったのですが、じゃあ、ボトムスも作ろう、ニットも入れたらいいのでは?となど、すべてが試行錯誤。「ブランド名を考え、商標登録をして、現在の『アプワイザーリッシェ』の全身『アプワイザー』の1店舗目を開店したのが、2001年でした」。麻衣子さん自身、店長として売り場に立って販売をしました。
両親、夫とともに、二人三脚ならぬ、四人五脚の奮闘を続けたかいあり、百貨店にも出店を果たします。そして、2003年、赤文字雑誌にオレンジのトレンチコートが取り上げられると大ブレイク。一挙に店舗数を拡大していきました。「26~27歳ころが一番大変でした。やることが多すぎて寝る暇もないほど忙しい。それなのにスタッフが辞めてしまうなど、語りつくせないほど問題が山積みしし、本当につらい時期でした。そんな状態だったので、出産も後回しに。それほど張り詰めた状態でしたね」。
そして、事業がようやく軌道に乗った2008年、「そろそろ・・・という感じでようやく第一子という話になったんです」。
麻衣子さんは産休を取り、半年後に仕事に復帰しました。当時は、出産後も出産前と同じように働くことは、今のようには浸透していない時代でした。「実は、部下のひとりが、出産後に仕事復帰をしていたので、社内での前例はすでにありました。でも、私が子供を育てながら仕事をする、ということは、職場に影響があるだろうなとは思っていました。ですから、プライベートな時間は別として、仕事中は子供の話をしないとか、リサーチのために売り場に行くときは、子供を連れて行かないなど、自分なりのルールを作っていましたね。何より大事にしていたのは、無理しすぎず、とにかく毎日出社して、社員に顔を見せること。私が出社することは、現場を動かしてくれている社員にとって何よりの安心材料になるし、また今後、子育てをしながら仕事をしたいと思っているスタッフのお手本になりたい気持ちもありました」。
とはいえ、子どもはすぐに熱を出したり、病気になったり。頼りたい両親も一緒に働いているので、もう仕事は続けられないと思ったこともあったそうです。
「夫に話すと、『でも、それは今だけじゃない?』との答えが返ってきたんです。そうか、今だけかと、思うとちょっと気が楽になりました。育児も仕事も、と一人で抱え込まずに、シッターさんや、いろんな人の力を借りて、なんとか今をしのぐことができれば、きっと、この先は、状況は改善すると思えてきました」。それからは、「『子供の体調が悪いので、病院に立ち寄ってから出社します』といったことも、みんなに伝え、遅れてでも、とにかく出社し続けるようにしました」。
麻衣子さんが育児と仕事を両立させる姿は、スタッフにとっても励みになりました。「麻衣子さんがやっているから、私もやっていいんだよね、という空気はあったと思います」。結果、出産後も復帰し、働いてくれるスタッフがどんどん増えていったのです。
「もちろん、仕事を辞めて専業主婦になるという選択もすごく素敵だと思うし、応援したい。でも復帰したスタッフに聞くと、仕事は気分転換になる、って言うんですね。私も、仕事と子育て、という2つのフェーズを持つようになったことで、仕事だけのときより、さまざまな角度からものを見られるようになりました。世界がひとつしかないと、その中で悩んで固まってしまい、出口が見えづらくなる。でも、2つの環境があると、切り替えることで、ひとところに停滞しないで済む気がします」。
実は麻衣子さん、出産後に育児ノイローゼになりかかったことがあったのだそうです。「半年、家に籠って子供の世話だけをしていたんですね。人生の中で、そんな時間はそれまでなかった。外に出ないと次第に化粧もしなくなり、ネイルはボロボロで、気分は落ち込む。だけど、怖いことに自分では、それに気づかないんです。あるとき、母がプレゼントだと言って、上から下まで一式コーディネートした服をくれたんです。そして『これを着て外に出なさい』って。いつもは親に反発しちゃうのですが、この時ばかりは素直に従いました。すると、身支度を整えて外に出るだけで、気分がすごく変わった。あ、美容院に行ってなかったなと気づき、ネイルも行こうかな、と、前向きな気持ちが沸き上がってきましたね」。
【野口麻衣子さんインスタグラム】@noguchimaiko125
撮影/BOCO 取材/秋元恵美