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まだ生まれていなくても命。「出生前診断」の意味を考える

生まれる前の赤ちゃんに異常がないか調べるのが「出生前検査」。ダウン症など染色体の異常を調べるNIPT(新型出生前検査)は、血液だけで検査できるため、学会の認定を受けていない皮膚科などのクリニックでも簡単に受けられるようになりました。しかし、結果について十分な説明やケアが行われないため、悩む人も少なくありません。今回は「出生前診断」の意味を考えます。

兵頭麻希さん( 52歳・広島県在住)「母と子のまきクリニック」院長

「うまれてなくても命」ママもパパも双方の両親も
サポートすることが赤ちゃんの〝幸せ 〟に繫がります

’19年広島駅前に出生前診断専門クリニックを開業した産婦人科医の兵頭麻希さん。「5~6年前から、無認可施設での検査が増える中、事前カウンセリングや陽性時のフォローがないことで、妊婦さんが一人で思い悩む場面を目にするようになりました。同時に、医療側の姿勢にも疑問がありました。『陽性でした。どうしますか?』と伝えるだけ。何の情報も与えず、妊婦さんが置き去りにされていると思ったんです。この状況を見過ごせないと思い開業しました」。

クリニックでは出生前診断の有無にかかわらず、超音波エコー検査を必ず行います。「超音波エコー検査で、胎児の脳や心臓・手足・骨などに病気のサインがないかを診ていきます。必要だと判断した場合には〝胎児ドック” も行います。こうして胎児の状態を詳細に把握します」。

兵頭さんは、胎児は〝うまれてなくても命”だと話します。「妻は妊娠中に母になり、夫は生まれてから父になります。スタートラインが違うんです。胎児に何かあったとき、夫婦二人で考え決断していくためには、同じスタートラインに立つ必要があるんです。そこで〝うまれてなくても命”だと実感してもらうために、ご夫婦一緒に3Dエコー検査で我が子の顔や手足をリアルに見てもらっています」。

そして万が一、何かしらの問題があった場合には、しっかりと情報提供しています。「どんな病気なのか、治療法はあるのかなど、医師の立場から伝えます。そして子育てをイメージしてもらうために、同じ病気を持つママに 育ての体験を語ってもらうこともあります。また子が成人するまでに受けられる行政や民間のサポート情報も伝えます。知らないから、不安になる。知ることで、少しだけ冷静になれると信じています」。

そして夫婦の決断に寄り添うことも、大切な役割なのだそう。「情報提供だけで、すぐに決断できるほど簡単な話ではありません。ときには双方の両親と7人で話し合うこともあります。夫婦がどんな決断をするにしても、みんなが納得できる決断ができるよう、寄り添い、サポートしていくことを心掛けています」。

こうした取り組みの甲斐もあり、半数が産む決断をされています。「今後ますます出生前診断のニーズは、高まるでしょう。陽性時に妊婦さんが置き去りにならないよう、保健師や助産師との連携を強化し、サポート体制をつくっていきたいと考えています」。

  • 出生前診断の事前説明会をオンラインで実施しています。
  • 診察室には最新の超音波エコーが準備されています。
  • カウンセリング時には、資料を使用しながら、わかりやすく伝えています。
  • 患者さんたちと接するときには、笑顔を心掛けている兵頭さん。
  • 胎児に何らかの問題が見られた場合に、お渡ししている冊子。「産む、産まないは、すぐには決められません。カウンセリングでしっかりと話をしたうえで、ご自宅でも読んでいただけるようにお渡ししています」。こちらは改訂前のものですが、現在は改訂版が出ています。
  • 広島大学医学部時代。「人の役に立ちたいと考え、医師になりました。産婦人科医師として、やりがいをもって仕事をしています」。

撮影/前川政明 取材/髙谷麻夕 ※情報は2021年10月号掲載時のものです。

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